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NHKスペシャル「子どもが見えない」取材班・義家弘介・金森俊朗『子どもが見えない』(ポプラ社,2005年)
NHKスペシャル「子どもが見えない」取材班・義家弘介・金森俊朗『子どもが見えない』(ポプラ社,2005年)

『子どもが見えない』という10年以上前の本があります。

この本は、2004年9月4〜5日に放送されたNHKスペシャル「21世紀日本の課題・子どもが見えない」と、その続編で2005年5月5日に放送された「子どもの心をノックする」の内容をもとに、小学生高学年から高校生までの子どもの思いと悩み、子どもに対する親や大人の接し方の問題点などをまとめたドキュメンタリーです。

 

NHKがこの番組を制作するきっかけとなったのは、2004年6月に長崎県佐世保市で起こった小学校6年生の少女による同級生殺害事件でした。

 

この事件以前にも、青少年による殺人事件はすでにありました。

神戸市の連続児童殺傷事件(1997年・14歳少年)、大分県で一家6人が殺傷された事件(2000年・15歳少年)、長崎県で幼稚園児が誘拐殺害された事件(2003年・12歳少年)の3件です。

青少年の殺人事件は、現在の日本にとってもっとも真剣に向き合わなくてはならない課題です。

 

『子どもが見えない』という本の重要な指摘は、「子どもの殺人事件の問題は、大人に原因がある」というものです。

大人がいかに子どもを分かっていなかったか、子どもの声を聞いてこなかったか、向き合おうとしてこなかったか。

私たち大人が、今の子どもたちの状況を作ってしまいました。

高度経済成長期の負の遺産

だいたい1960年代以降に生まれ育った人たちが、諸々の社会問題の原因となっているようです。

 

このころ、日本は高度経済成長期であり、専業主婦が独りで子育てをするという子育て状況が一般化しました。

1960年代以降に生まれた彼らが思春期になった70年代半ばから、家庭内暴力の問題が目立ち始め、就職した80年代半ばから会社への不適応(協調性と柔軟性のなさ)が問題となり、親になった90年代から家庭における子育て力の低下(どう育てていいかわからない、虐待など)が決定的になり、そして、こうして育てられた子どもたちが思春期になって、現在に至っています。

 

1960年代以降に生まれ育った私たち大人と、現在の子どもたちとは、どちらも思春期を健全に過ごすことができなかったという点で、心に同じような傷を持っています。

しかし、ここで変わるべきは、当然大人の方です。

自分の傷を自覚し、それを子どもに与えないように、自分を変えなくてはなりません。

 

1960年代以降に生まれ育った大人といえば、2017年現在、おおよそ57歳以下の大人ということになります。

思春期の子を持つ親世代はほぼ全て含まれます。

日本を担っている働き盛りの世代であり、政治や経済の中心にいる世代でもあります。

その世代が、会社への不適応と子育て力のなさに喘ぎ、傷ついた次の世代の子どもたちを生み出し続けているとしたら、日本の将来は目に見えて悪くなるばかりでしょう。

大人はどうすればいいのか

大人のあるべき姿、本来の姿とは、どのようなものでしょうか。

それは、難しいものでも高尚なものでもありません。

親として、大人として、当然の関心と愛情を子どもに示し、子どもの声を聞くことです。

 

『子どもが見えない』で取材されていた例を挙げたいと思います。

追いかけられてうれしかった

まず、愛知県岡崎市にある西居院という寺の和尚さんの話です。

この和尚さんは、薬物乱用、家庭内暴力、不登校などの問題を抱える子どもたちをお寺であずかっています。

 

取材班が泊まり込みで取材していた時、17歳の少年を新しくあずかることになりました。

しかし、和尚さんが彼の就職を世話し、水道管敷設の仕事についた2日目のこと、彼は寺を脱走していなくなってしまいました。

和尚さんは愛知県にいながら全国の卒業生(寺で預かっていた子どもたち)に連絡を取り、結局その少年を東京で見つけ出します。

 

携帯電話に「戻ってこい」と連絡し続ける和尚さん。

取材班は「一度逃げた少年が戻ってくるわけがない」と思っていましたが、意外にも少年は戻ってきました。

 

少年は、和尚さんに謝った後、取材班の「どうして戻ってきたの?」という問いにこのように答えます。

 

「追いかけられて正直うれしかったです。」

 

親も学校の先生もいつもその場その場の説教だけで、本気で追いかけてくれる人はいなかったそうです。

「大人を信じられなかったです。自分の都合でウチらを縛りつけるだけで、本気かどうかわからないんですよね……。」

娘の人格を認めて応援してあげたい

もう一つ、今度はある母娘の話です。

 

中学2年生まで成績も良くクラブ活動でも活躍していた自慢の娘が、中学3年生の夏に髪を染め、シンナー吸引や暴走行為などをするようになりました。

母はパニックになり、娘の友達に「うちの娘と付き合わないで」と言いに行ったり、娘の行動を調べたり、奔走するようになりました。

 

しかし、娘はそんな母の態度に猛反発し、友達のせいではなく自分の意思でやっているんだとわからせるために、どんどん行動をエスカレートさせていきました。

そして、母は決定的な一言を口にしてしまいます。

 

「あんたなんか、いなくなればいい!」

 

娘は取材班に、その時のことをこう振り返ります。

「親の望み通りの時は自慢していたのに、望み通りでなくなれば私には用がないんだ。

もう消えてしまいたい、もう私なんてどうなってもいいんだと思った。」

 

この母娘の関係は、元少年院教官のカウンセラーが間に入り、やがて回復していきます。

母は娘の前で涙を流し、初めて自分の非をわびました。

「娘には娘なりの願いや個性があったのに、それを排除しようとばかりしていた。

そうではなく、娘の人格を認めて応援してあげれば、娘を苦しめなくてすんだのに……。」

 

私はこのような母親の姿を見ながら、「大人は変われる」と思いました。

そして、大人が変わることで、子どもも変わっていくでしょう。

ホームページに寄せられた子どもたちの声

この本には、他にも子どもたちが番組ホームページに書き込みをした内容が多数掲載されています。

大人が知らない、子どもたちの声です。

少しだけ紹介します。

「大人に教えてもらいたいことが沢山ある。

友達との接し方や相手を傷つけてしまった時の対処法。

人間と関わって生きていく事って大切なことでしょう?

本当に大切なことって意外と教えてもらってない。」

(18歳・女子)

 

「そんなに仕事が大変なの?

大人の世界はよくわからないけど、どこの会社も競争社会で忙しいのかな?

疲れてすぐ寝ちゃうのわかるけど、ちょっとの時間でいいから、今日あったこと話したいな。」

(16歳・女子)

一人の人格として

子どもたちは本当に深く物事を考え、感じ、悩み、毎日を生きています。

大人に聞きたくても聞けない弱さを持っています。

大人に気も遣います。

 

そして、ありがたいことに、大人に期待してくれています。

小学校高学年以降になれば、もう立派に一人の人格として、大人と対等に話し合いたいと思っています。

 

この本を通して子どもの声に触れられて、多くのことを教えられました。

「大人が生まれ変わること」

これが私たちの喫緊の課題です。

参考文献

 

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