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東京都立川市にある「東京賢治シュタイナー学校」は、日本でシュタイナー教育を実践している代表的な学校です。

シュタイナー教育とは、オーストリアの哲学者ルドルフ・シュタイナーが提唱した教育思想で、「子どもが自由な自己決定のできる人間になるのを助けること」を教育の根幹としています。

 

学校名に「賢治」という名前が入っているのは、教師としての宮沢賢治の姿に、創設者の鳥山敏子氏(1941-2013)が深く共感していたためだそうです。

花巻農学校時代の賢治の教え子のような卒業生を送り出したい、という願いが込められているのでしょう。

 

東京賢治シュタイナー学校では、公立学校には見られない様々な取り組みが行われています。

特徴的な取り組みをいくつか取り上げて紹介したいと思います。

シュタイナー教育は年齢を大切にする

子どもたちは、「その年齢において必要なもの」を学びたがっています。

ある年齢に達すれば自然とその年齢にふさわしいものを学びたくなるし、逆に年齢に合っていない教育をすれば、子どもを勉強嫌いにさせてしまいます。

ですので、シュタイナー教育では「何歳ごろに何を学ぶか」をとても大切にしています。

 

例えば、

  • 7歳まで:行動を通してたくさん体験させる
  • 14歳まで:おもに芸術的な活動を通して感情を育てる
  • 14歳以降:思考を育てる

このような具合です。

 

創設者の鳥山氏は、「9歳が大きな分岐点」と言います。

この年齢に達すると、子どもにはっきりとした自我が芽生えてくるからです。

だから学校でも、その自我に働きかけるようなカリキュラムへとシフトしなければなりません。

 

少し長いですが、印象的な鳥山氏の言葉を引用したいと思います。

小さい子どもが、わざわざなんで、あぶない高いところや歩きにくい細いところを歩こうとするのか、考えてみたことがありますか?

子どもたちは、そういうことをすることで、からだのバランス感覚とか、自分で自分のからだを支える力を育てているのですね。子どもたちのからだは無意識のうちにそれを知っていて、やっているのです。

子どもたちがなんでそんなことをやるのか、親も教師も大人として考えなければなりません。気がつかない限り、「やっちゃダメ」と、子どものすることを止めさせるだけになってしまいます。

子どもは、自分の命に必要なことをやっているわけです。だから、それに沿ったカリキュラムを作っていけばいいのです。

(鳥山敏子『親が1ミリ変わると子どもは1メートル変わる』より)

年齢に沿った教育がいかに大切かが分かる言葉です。

目の前の子どもたちがなんでそんな行動をするのか。

これを考えることが、生徒に合った適切な授業づくりの第1歩です。

8年間ずっと同じ担任

またシュタイナー教育では、原則として1年生から8年生まで、続けて同じ教師がクラス担任を受け持ちます。

日本の教育制度の小学校6年間+中学校2年間に相当しますから、とても長い期間です。

なぜずっと同じ担任がいいのでしょうか。

 

それは、一言で言えば、じっくりと関係づくりに取り組めるから、です。

日本の学校では1年や2年で担任が変わるのが普通です。

しかし、このようにすぐに変わってしまう担任では、子どもも、そして親御さんも、教師と深い人間関係が作れません。

 

せっかく話せるようになってきたのに、また違う担任になる。

繊細な子どもにとっては、これは大きな負担です。

親御さんにとっても、「言いたいことはあるけど、今回の担任は話しにくいから我慢しよう。どうせ来年には違う先生になるし。」となります。

子どもにとっても親御さんにとっても、すぐに変わってしまう担任とは深い人間関係を築く必要がありません。

 

一方、8年間ずっと同じ担任であれば、自然と深い人間関係を築いていくことができます。

じっくりと時間をかけて信頼関係を作っていけば良いので、無理をする必要もありません。

 

ある子は1年で担任に慣れるでしょう。

しかし、ある子は3年くらい経って、ようやく自分のことを話せるようになるでしょう。

8年間担任制は、こういった個人差を無理なく受容できます。

 

子どもと親と担任が良好な関係を築くならば、互いに信頼し、安心して学校生活を送ることができます。

親御さんのために学校ができること

東京賢治シュタイナー学校には、「親のクラス」があります。

ドイツから来ているシュタイナー教育の先生などが講師を務め、親御さん向けのワークショップやセミナーを数多く開催しています。

 

なぜ学校で「親のクラス」をやるのでしょう。

それは、親御さんもまた、親として成長する機会を必要としているからです。

 

親御さんにもいろんな状況があります。

今現在、子どもとの接し方で行き詰っているかもしれません。

子どもの頃の心の傷が、今も根深く残っているかもしれません。

家庭の問題で、受けるべき愛情を受けずに育った親御さんもいることでしょう。

また、近年の急速な情報化社会の発展により、親御さんの学生時代と今の子供たちとでは、取り巻く生活環境・学習環境が全く違うはずです。

これらのことを考えると、親御さんにとっても学ぶ場が必要です。

 

教育現場を知っている教師と、生活現場を知っている親御さんとが、ともに学ばなければなりません。

そして、そのような学びの場は、学校でこそ提供できるものです。

 

東京賢治シュタイナー学校で行われた「親のクラス」の様子を、少し紹介したいと思います。

ある講演会で、英語を教えるシュタイナー教育の講師がこのような話をしました。

親は見守るだけでいいんです。なおしたり教えたりするのは教師がやりますから、家でちょっと違った(英語の)発音をしていたり、ちょっと違った意味で子どもが英語を使ったとしても、なおさないでください。英語の世界を本当に楽しんで、ひたひたとひたっていくような環境を親は作ってあげてください。それだけでいいんです。

(鳥山敏子『親が1ミリ変わると子どもは1メートル変わる』より)

親は見守るだけでいい。

これがこの講演会の核心的なメッセージでした。

親は人生経験や教養から、いろんなことを口出ししたくなります。

家で教師の役割をしてしまって、親の役割を忘れてしまいます。

 

子どもにしてみたら、学校でも直され、家でも直され、勉強が嫌になってしまうのでしょう。

そんなに口うるさく言わないで、黙って見ていてほしい。

これが子どもの素直な気持ちなんじゃないかと思います。

 

親には教師にできない大切な役割があります。

「見守る」という役割です。

このような大切なことに気づける場が、「親のクラス」なのです。

親とつくる学校

驚くべきことに、東京賢治シュタイナー学校は、親と教師がゼロから作り上げた学校です。

経営基盤が何もない状態から始まりました。

 

教師を雇い、校舎を建て(あるいは借り)、施設を整えていくには、多大なお金が必要になるはずです。

こういった経済的な問題を、すべて親と教師で担いました。

「担う」と言っても、すべてのお金を親が拠出したわけではありません。

親と教師で経済基盤を作っていったのです。

 

たとえば、

  • 教師が有料のセミナーやワークショップを開く
  • 親が地域バザーを企画する
  • 広報活動を通して寄付を募る

これらに加えて、建設業や電気工事にたずさわる親御さんが中心となって、校舎を建てたり様々な施設を整えたりしました。

 

親が関わっているのは経済的な部分だけではありません。

東京賢治シュタイナー学校は、理事会(運営組織)の構成員も親御さんです。

親御さんが学校の運営を中心的に担っているのです。

 

そして、教育自体にも親の積極的な関わりがあります。

親御さんの専門技術や社会経験を生かして特別講義を開いたり、ものづくり体験を企画したりしています。

ある意味で、親が教師の一員になって教育にたずさわっているのです。

 

まさに、「親とつくる学校」という言葉がぴったりの学校です。

おわりに

いかがでしたでしょうか。

シュタイナー教育を日本で実践する東京賢治シュタイナー学校。

その先進的な取り組みから、多くを学べると思います。

 

この記事では代表的な取り組みを簡単に紹介しました。

  • 年齢を大切にしたカリキュラムを採用
  • 8年間ずっと同じ担任
  • 親御さんのために「親のクラス」を開講
  • 親と一緒に学校をつくる

シュタイナー教育の実践内容

このような取り組みを通して日本の学校教育が成熟し、未来を担う子どもたちが生き生きと学べる国になることを願っています。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

参考文献

鳥山敏子『親が1ミリ変わると子どもは1メートル変わる』(株式会社カンゼン,2008)

東京賢治シュタイナー学校ウェブサイト http://www.tokyokenji-steiner.jp/

 

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