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『嫌われる勇気』のアドラー心理学

岸見一郎氏と古賀史健氏によるベストセラー『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社,2013年)が出版されてから、日本でもアドラー心理学はすっかり有名になりました。

岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気:自己啓発の源流「アドラー」の教え』(ダイヤモンド社,2013年)
岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気:自己啓発の源流「アドラー」の教え』(ダイヤモンド社,2013年)

 

アドラー心理学とは、アルフレッド・アドラー(1870-1937)によって確立された深い人間理解に基づく実践的な心理学です。

戦争という時代背景の中で、人類社会全体を真に幸せな生へと前進させるべく、アドラーがその人生をかけて提唱し続けた思想です。

 

上記の『嫌われる勇気』とその続編の『幸せになる勇気』(ダイヤモンド社,2016年)は、アドラー心理学のエッセンスを対話形式でまとめた入門書です。

心理学の本でありながら同時に実用書でもあり、読む人に実践するかしないかの選択を迫る迫力があります。

ぜひ一読をおすすめします。

人の一生を変えるだけの力がある本だと思います。

岸見一郎・古賀史健『幸せになる勇気:自己啓発の源流「アドラー」の教えII』(ダイヤモンド社,2016年)
岸見一郎・古賀史健『幸せになる勇気:自己啓発の源流「アドラー」の教えII』(ダイヤモンド社,2016年)

 

さて、そんなアドラー心理学ですが、当時はその特異性から拒絶されることも多く、時代がアドラーに追いつくには100年早かった、などと形容されるほど先進的な思想でした。

そして、現在でもなおアドラーは時代の先を行っていると感じさせます。

アドラー心理学の価値こそ認められるようになったものの、実行するには多大な困難(おもに忍耐力)が伴い、人類社会はアドラーが理想とした真に幸福な生に達していません。

 

いえ、達していないのは当然で、アドラー自身もそれを期待してはいませんでした。

アドラーが言いたかったことは、こうです。

「真に幸福な生というのは理想であって、決して到達することはないけれども、それに向けて不断の努力をすることはできる。その歩みを続けることが重要なのだ。」

 

現代の私たちがアドラーに追いつけないでいるのは、その歩みを続けることができていないからです。

すべての悩みは対人関係の悩み

冒頭で少し触れましたように、アドラー心理学は幸せに生きるための方法をシンプルに説くものです。

アドラーは、人から幸せを遠ざけているものはすべて対人関係の悩みであり、あらゆる問題の根本は対人関係に行き着くと言います。

 

そして、対人関係の悩みをひとつずつ順番に解きほぐしていくならば、「自分は今幸せです」と自信をもって言えるようになる。

アドラー心理学は、その道しるべをシンプルかつ具体的に示しています。

幸せの鍵は「他者貢献」

その道しるべとは、「他者貢献」です。

誰かの役に立つことが自分の価値を自覚できるシンプルな方法であり、「他者貢献」という目標さえぶれなければ、将来の夢が決まっていなくても、自分の能力が低いように思えても、過去につらい傷跡があったとしても、今この瞬間から幸せに生きることが誰にでも可能なのです。

 

なんだか、拍子抜けするくらいシンプルな答えですね。

 

でもこれを続けるとなると、なかなかうまくいきません。

人の役に立つことをしているつもりでも、その行いが、自分がどう見られるかを気にした自分中心の行いであるならば、他者のための行いではないのです。

ボランティアが自己満足に終わったり、本当はやりたくない仕事なのに他人の評価を気にして引き受けてしまったり。

 

結局は、関心の矢印が自分を向いたままだと、無理をして「人の役に立つこと」をやったとしても不平不満の原因になるだけです。

また、人の目を気にして善い行いをする人は、自分の行いが正当に評価されないと何だか無性に腹が立ってきてしまいます。

これは、アドラーの言う承認欲求から来る行動の典型であり、幸せを感じるどころではありません。

 

「他者貢献」は、人に認められるためにやることではないのです。

そして、人に認められることとは関係なしに、自分が自分を認めてあげられるようになるための行為なのです。

「他者貢献」をイメージしてみる

ちょっと難しいですよね。

例えば夫婦の関係で考えてみましょう。

 

妻が、テレビばかり見ている夫に対して「たまには食器洗いでもしてくれればいいのに」と思っているとします。

そんな時、この妻は考え直して、「食器洗いは他者貢献。家族に貢献できるんだから今日もやろう」と思って食器を洗います。

 

夫は妻に感謝するでしょうか。

もちろんすべきなんですが、いつもやってくれてることなのです。

夫は、お礼を言わないどころか、洗ってくれたことにすら気づきもせずに一日を終えてしまうことも多いでしょう。

 

さて、妻はどうなるでしょうか。

もしも妻が夫からの承認を願って食器を洗ったのなら、不平不満の嵐です。

しかしこの妻は、アドラー心理学の他者貢献を知っていて、なんとかそれを実行しようとしました。

 

夫から認められるためではなく、夫と家族に貢献するために食器を洗いました。

そして、食器を洗うことで、見事に貢献しました。

食器はきれいになり、次の食事に備えてキッチンはスタンバイ完了です。

素晴らしい貢献です。

 

ここに妻は満足感を覚えます。

「家族の役に立った。私は価値のあることをした」と。

 

そしてこの満足感は、妻が自分自身に尊い価値を見出すことにつながります。

自分で自分の価値を認められることは、本当に素晴らしいことです。

 

自分の価値を認められること。

それは、自分の居場所を発見することでもあります。

「ここが自分の居場所。私は安心してここにいていいんだ。」

そんなあたたかな気持ちが湧き上がってきます。

 

どうでしょうか。

実行するのはかなり大変ですが、何だか幸せに近づけそうではないでしょうか。

おわりに

対人関係の悩みを幸せに変えるアドラー心理学のエッセンス、「他者貢献」。

 

そう言えば、あるクリスチャンの言葉だと記憶していますが、こんな内容の文章を読んだことがあります。

あなたはいつも幸せになりたいと願って、たくさんの努力をしてきた。

でも、幸せじゃない。

あなたが幸せになれないのは、自分の幸せを求めているからだ。

他人の幸せを求めてみなさい。

そうすれば、すぐにあなたの幸せは見つかります。

 

ほかの誰かの幸せを求めること。

それが、わたしが幸せになるための秘訣だという話です。

「他者貢献」が幸せにつながるというアドラー心理学のエッセンスと、互いに通じるところがありますね。

 

最後に余談ですが、最近はAI(Artificial intelligence;人工知能)を使った産業技術の発展が目覚ましいですよね。

もしも対人関係の悩みを解決するためにAIが使われるようになったらどうでしょうか。

人とのコミュニケーションが煩わしくて、仕事も私生活もAIを相手にして過ごす。

大いにありそうなことです。

 

でも、そのような関係には、アドラーの言う「他者貢献」で得られる幸せはありません。

AIに貢献することで満足が得られるでしょうか。

自分の価値や居場所を見いだせるでしょうか。

そのようなことは、全く人間の尊厳に反することです。

 

AI技術の発展が将来にもたらす影響についてはこちらの記事も参考になります。

 

私たち人は、人に貢献することでしか幸せを得られません。

たとえ人間関係が煩わしく思えても、そのことだけは胸に刻んでおかなくてはなりません。

対人関係の悩みを幸せに変えることが、幸せになる唯一の道なのです。

参考文献

 

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