この記事をシェアする

AIの深化と第4次産業革命

AI(Artificial intelligence;人工知能)の深化に伴い、近年の産業界は「第4次産業革命」とも呼ばれる大きな転換期を迎えています。

専門家の予測によると、AIが産業界に浸透することで、将来、現在の職種のおよそ半数がAIに取って代わられ、職種による格差・貧困問題が深刻になると考えられています(Frey & Osborne, 2013)。

 

このような時代に生きる生徒たちが、AIでは代用できない真に価値ある職種を見つけ出し、各自の才能と人間性を磨いて力強く世の中で生きていくことができるよう、また、AIを上手に利用して適切な共存関係を築いていけるよう、教師は必要な教育的対策を考えなくてはならないと思います。

 

しかし、対策を考えるといっても、まずは教師自身がAI技術のことを知らなくてはなりません。

産業界を席巻しているような今話題のAIですが、実際のところ、どの辺まで実用化されているのでしょうか。

実用化されたAI技術

今回は、今年6月末に東京で開催された「第1回 AI・人工知能EXPO」に出展していた3社のAI技術をレビューし、現状と教育現場での取り扱いについて、教師の視点からまとめました。

人工知能Kibit(FRONTEO社)

人工知能Kibit(FRONTEO社)

FRONTEO社の「Kibit」は、テキスト情報を軸とした解析を行う人工知能です。

膨大な量のテキストを読み込み、その中から利用者が必要とする情報を的確に抽出することができます。

 

実用例の一つとして、特許出願のサポートがあります。

特許出願の際には、自社の開発した技術と類似の特許がすでにあるかどうか、また、あるとすれば違いはどこか等を、網羅的かつ正確に調査しなければなりません。

これを人の手で行おうとすると、膨大な労力を要する作業となります。

 

そこで、Kibitの出番です。

出願したい特許の内容をKibitに読ませると、Kibitはその特許の内容や特徴を多角的に把握し、類似の特許を検索して、類似性の高いものから順に検索結果を出力してくれます。

Kibitの利用によって、ノイズ情報や検索漏れが大幅に低減したそうです。

 

このほか、医療カルテやビジネス文書にも適用されています。

AMY AGENT(Automagi社)

AMY AGENT(Automagi社)

Automagi社の「AMY AGENT」は、LINE等のチャットに活用するAIで、チャットボットと言われることもあります。

会社に導入することで、これまで人が対応していたLINE上のQ&A等において、AIでの対応が可能となります。

 

AIは、データから法則性、関連性等を見つけ、判断基準を獲得していくものです(これを「機械学習」といいます)。

従ってチャット用のAIの場合、優れたアウトプットを実現するには質問や会話例のデータが大量に必要となります。

このデータが少ないとチャットの精度は落ち、データが十分にあれば自然な会話が可能になる、というわけです。

 

会社に導入する際には、まずはデータ量を十分に確保できる特定分野のチャットに絞ってAIに対応させ、他はオペレータが対応。

こうしたAIとの分業体制が現実的なやり方です。

AMY AGENTの導入例

ヤマト運輸株式会社

ヤマト運輸株式会社は、再配達の対応をAIにやらせています。

三井不動産レジデンシャル株式会社

三井不動産レジデンシャル株式会社は、パークタワー晴海の販売活動において、AIキャラクターの「ハルミちゃん」にLINEのチャット対応をやらせています。

夜9時以降のチャットでの問い合わせが多く、オペレータ不在の時間帯にもチャット対応ができるという点でAI導入のメリットは大きいようです。

株式会社広島銀行

株式会社広島銀行は、地方銀行で初めて口座開設業務にAIを導入しました。

ATMの設置場所等の問い合わせにもAIで対応しています。

野村不動産アーバンネット株式会社

野村不動産アーバンネット株式会社は、不動産の問い合わせにAIで対応しています。

お客さんとAIで対話しながら、簡単な質問にはAIで対応し、資料請求をしたり詳細な質問をしたりする「確度の高い」お客さんにはオペレータが丁寧に対応するようにしています。

お客さんのふるい分けまではAI、そのあとは人、という分業体制です。

ReNomリノーム(GRID社)

ReNomリノーム(GRID社)

GRID社の「ReNom」は、機械学習またはディープラーニング(深層学習)に強化学習を加えた「深層強化学習」により、AI技術を高い次元で開発・実装するためのフレームワークです。

 

「強化学習」とは、対象のAIに対して、①現在の状態、②取った行動、③変化した状態、④報酬、の4点を自分の経験として学習させることを言います。

つまり、現在の環境・状態に対してAIが取った行動に「報酬」という評価が与えられ、その評価を教師として次の行動を学ばせる、というやり方です。

 

従来の機械学習またはディープラーニング(深層学習)では、教師の役割を果たす「教師データ」は、人がAIに入力データとして与えていました。

この「深層強化学習」では、AI自身が試行錯誤し、その経験を「教師データ」とすることで自ら学習していきます。

 

ReNomが適用できるフィールドは非常に広いです。

GRID社は映像・画像解析、時系列データ解析、自然言語解析、最適化問題、などへの適用を進めています。

 

例えば時系列データ解析では、工場の稼働状況などのデータから過去の事故事象等の発生パターンを学習し、事象発生確率から次に何が起こるのかを予測することが可能となります。

これにより重大事故を未然に防いだり、不良品の発生を減らしたりすることができるのです。

 

また、最適化問題とは、数ある選択肢の中からどれを選択するのが最良の手段なのかを決定したい、という命題のことを言いますが、ReNomを適用することで、様々な制限・制約・条件等をつけて近似最適解を出力することが可能となります。

まとめ

以上、AI・人工知能EXPOに出展していたAI技術の一部を例として紹介しました。

 

今回は特に、どのような職業分野(あるいは職種・業務内容)で、将来、人の手作業がAIに取って代わられるのかに着目してレビューしました。

その結果、すでに実用化段階に来ているAI技術の分野として、次の3点が顕著であることがわかります。

  1. 文献等の調査業務
  2. ルーチンワークに近い問い合わせ対応(チャット)
  3. データ解析業務

 

大量のデータ(ビッグデータ)の取り扱いについては、AIは完全に人の能力を超えており、(1)の調査業務や(3)の解析業務はどんどんAIに任せた方が良さそうです。

(2)のチャットに関しても、オペレータによる24時間対応などを回避するにはAIの利用は非常に有効な手段であり、体力が有限な人よりも優れていると言えます。

 

別の見方をすれば、AIの強みはビッグデータを処理する能力であり、かつ、そのビッグデータに裏付けられた出力をすることで、チャットなどへの利用も可能となる、と言えると思います。

 

現在のところ、AIに取って代わられつつある業務内容は、いずれも人がやろうとすると多大な労力を要する分野であり、しかも労力の割にエラーが多く、AIに取って代わられた方がむしろ望ましいものです。

少子化の問題で日本国内の労働力確保が将来的にますます困難になることを考慮すれば、手間のかかる作業はAIに任せることが得策であるように思います。

 

私のような教育現場の人間が心配していることは、AIの拡散によって将来多くの人が職を失うこと、またそれによって、職種に起因する格差・貧困問題が大きくなることです。

この点については、今回レビューしたAI技術からは憂慮すべき兆候は見られませんでした。

 

むしろ、優れた技術をうまく活用し、AIと共存することで、長時間労働などの劣悪な労働環境を改善できるというメリットが期待されます。

参考文献

  • C.B. Frey, M.A. Osborne (2013) The future of employment: How susceptible are jobs to computerisation?

参考ウェブサイト

 

この記事をシェアする