胆礬の人工結晶
【胆礬】標本の横幅:4.3cm/人工結晶/国立科学博物館所蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

大きくて立派な結晶は人工的に作られたもの

鮮やかな青色をしたこちらの胆礬(たんばん)の結晶は、残念ながら天然のものではなく、人工的に作られたもの、つまり人工結晶です。たとえ成分が同じでも、人工結晶は鉱物ではないので、正確には物質名を使って、「硫酸銅五水和物の結晶」と呼ばなければなりません。とはいえ、ちょっと名前がややこしいので、ここでは「胆礬の人工結晶」としておきましょう。

胆礬の人工結晶は、厚みのある菱形の板状や、短い柱状になることが多く、写真の通り、ガラスのような美しい透明感が印象的です。このように大きくて立派な結晶は、天然ではまず見られません。

岩石の表面を覆う天然の胆礬

胆礬(岩手県産)
【胆礬】標本の横幅:6.4cm/岩手県 和賀郡 西和賀町 湯田 土畑鉱山産/国立科学博物館所蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

天然で見られる胆礬は、多くが細かい結晶のかたまりで、岩石の表面を覆うように生成しています。鮮やかな青色をしているものの、人工結晶のような澄んだ透明感はありません。

胆礬のおもな成分は、銅、硫酸イオン(硫黄と酸素からなるイオン)、水分子です。これをヒントに、天然で胆礬ができる場所を、ちょっと想像してみてください。

銅があり、硫黄があり、水がある場所ですね。これらの成分がそろっている典型的な場所は、銅鉱山です。実際に銅鉱山に行くと、銅の採掘のために掘られたトンネル(坑道)の壁や天井の表面、あるいは割れ目の中に、しばしば胆礬を見つけることができます。

銅鉱山には、銅と硫黄を含む鉱物(おもに黄銅鉱)がたくさんありますので、それらの成分が溶け出すことで、地下水中には銅や硫黄が多く含まれるようになります。そして、地下水の一部が蒸発するなどして銅と硫黄が溶けきれなくなると、胆礬の結晶ができるのです。

硫酸銅五水和物は「劇物」

硫酸銅水溶液
硫酸銅水溶液

一方、胆礬の人工結晶は、硫酸銅水溶液を使って作ります。硫酸銅水溶液は、胆礬と同じ鮮やかな青色をした液体で、「硫酸銅五水和物」という薬品を水に溶かしたもの。

さて、「硫酸銅五水和物」というこの名前、前にも出てきましたが覚えているでしょうか。

そうです。胆礬の物質名が、硫酸銅五水和物でしたね。つまり、硫酸銅水溶液というのは、いってみれば「胆礬を溶かした水」なのです。胆礬を溶かした水から、再び胆礬の人工結晶を作るわけですから、理屈としてはとてもシンプル。

ただし、硫酸銅五水和物は「毒物および劇物取締法」という法律で「劇物」に指定されている薬品であり、十分に注意して行わないと危険な実験です。誤って飲んでしまうと命に関わるほか、水溶液が皮膚や目にかかるだけでも大きな事故になります。環境を汚染するので、残った水溶液を水道や地面に流すのも絶対にいけません。

なお、やや矛盾するようですが、 胆礬は漢方生薬としても知られており、 催吐作用(さいとさよう;異物や毒物を飲み込んでしまったときにわざと吐かせる作用)や消炎作用、 解毒作用など、薬としての作用も備えています。

鉱物の解説:胆礬(たんばん)

胆礬(アメリカ産)
【胆礬】写真の横幅:約11cm/アメリカ・ユタ州産/個人蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

銅鉱山の坑道などで、岩石の表面を覆う細かい結晶のかたまり、あるいは、岩石の割れ目を埋める霜柱のような結晶の集合体として見られる鉱物です。岩塩と同じく、簡単に水に溶けてしまう性質があります。

胆礬の「礬」はアルミニウムを意味する漢字ですが、胆礬の成分にアルミニウムは含まれていません。実は「礬」という字は、もともとは硫酸イオンを含む物質に使われる漢字でした。それが、「硫酸イオンを含む物質」の代表であるミョウバンにアルミニウムが含まれていたため、いつの間にかアルミニウムを表す漢字として使われるようになったのです。

胆礬は硫酸イオンを含む物質であり、もともとの意味で「礬」の字が使われているわけですね。

鉱物データ「カルカンサイト(胆礬)」
カルカンサイト(胆礬)の鉱物学的特性

もっと知りたい人のためのオススメ本

この記事の内容は、当サイト管理人(渡邉克晃)の著書『へんな石図鑑』からの抜粋です。書籍版もぜひお楽しみください。

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