雪の結晶
©︎Free-Photos / Pixabay

水分子の構造が鍵

花びらのように六角形に広がる雪の結晶。

レンズの向こうに見える透き通るその姿は、まるで繊細なガラス細工のようです。

 

雪の結晶にはいろんな形がありますが、全てに共通して言えることは、規則的な正六角形のパターンを示すということです。

雪の結晶の光学顕微鏡写真
樹枝状の雪の結晶(©︎Alexey Kljatov / Wikipedia

 

なぜ雪の結晶は六角形になるのでしょうか。

その理由を、水分子の構造から考えてみたいと思います。

 

雪の結晶は、物質で言えば氷ですね。

水分子が規則正しく並んで、ガチッと固まった状態です。

この時の水分子の並び方に、六角形の秘密がある。

 

まず、こちらの図を見て下さい。

1個の水分子を模式的に示したものです。

水分子の構造(水素原子の結合角度と結合距離)
水分子の構造(©︎Psiĥedelisto / Wikimedia commons, modified)

 

水分子というのは「H2O」、すなわち、水素原子2個と酸素原子1個でできています。

上図の赤い大きなボールが酸素原子で、ツノのように突き出ている灰色の小さいボールが、2個の水素原子を表しています。

 

注目して欲しいのは、水素原子が酸素原子にくっついている角度。

2個の水素原子が、互いに106.6度の角度をなして酸素原子にくっついています。

この折れ曲がりの角度を、ちょっと記憶しておいて下さい。

 

なお、図中の「0.985Å」というのは、酸素原子と水素原子の距離になります。

「Å」は「オングストローム」という単位で、1オングストローム=1000万分の1ミリメートルです。

 

▼▼▼動画でも解説しています▼▼▼

六角形の理由は水分子が作るハニカム構造

さて、水分子が規則的に並ぶと、どのようなパターンになるのでしょうか。

 

水分子と水分子の間には、ある種の引力が働いています。

それは、水分子を構成する水素原子には、別の水分子の酸素原子と電気的な力で引き合う性質があるからです。

これを「水素結合」と呼んでいます。

 

つまり、水分子が規則的に並ぶ時には、水素原子と酸素原子がきれいに向かい合った状態で並ぶのです。

そして、先ほど上の図で示した水分子の折れ曲がりによって、カクカクとつながっていく。

 

そのパターンは、小さい領域で見ると正四面体のパターンなのですが、全体を見るとなんとこんな構造になっています。

水分子が作る六角形の格子構造
水分子が作る六角形の格子もよう(©︎Psiĥedelisto / Wikimedia commons, modified)

 

驚いたことに、きれいな六角形のパターンが現れましたね。

まるでハチの巣のハニカム構造。

 

この図は、立体的な氷の構造から一部分を切り出して、平面的な水分子のつながりだけを見えるようにした図です。

実際には画面の手前や奥にもたくさんの水分子が並んでいるわけですが、いずれにしても、水分子は正六角形のパターンを作って規則正しく並んでいるのです。

これが、雪の結晶が六角形のパターンを示す理由です。

 

雪の結晶は、天然でできる無機物の結晶なので、鉱物の一種に分類されることもあるそうです。

雪を鉱物として捉えるという視点は、何とも新鮮ですね。

花びら模様の結晶になるのは気温が低く湿度が高い時

ところで、花びら模様の他にも雪の結晶には様々な形があります。

おもな形としては、六角板状、六角柱状、針状の3つ。

これに対し、「花びら模様」と言っていた冒頭の写真のような形は、樹枝状と呼ばれています。

 

雪の結晶がどんな形になるのかは、大まかには気温と湿度で決まります。

例えば樹枝状の結晶ができるのは、上空の気温がマイナス12度からマイナス15度で、湿度が非常に高い時です。

 

それよりも気温が高ければ六角柱状や針状の結晶になりますし、逆にもっと気温が低ければ、六角柱状や六角板状の結晶になります。

また、同じくらいの気温であっても、湿度が下がれば六角板状の結晶になる。

 

このように、樹枝状(花びら模様)の雪の結晶ができるのは、かなり限られた条件の時だけなのです。

国際基準となった中谷博士の分類表

「雪の結晶の形状が気温と湿度によってどう変化するのか。」

これを世界に先駆けて体系的にまとめたのが、旧北海道帝国大学(現在の北海道大学)の中谷宇吉郎(なかやうきちろう)博士です。

 

中谷博士は、北海道の十勝岳で雪の結晶の顕微鏡観察を数年続け、3000枚以上もの写真から天然雪の結晶の形を分類しました。

樹枝状とか角板状といった基本的な形を、もう少し細かく分類したものです。

 

さらに、北海道大学に設置したマイナス50度の低温状態を作り出せる実験装置を使って、1936年には世界初となる人工雪の作成に成功。

今度は実験装置で雪の結晶を作りながら、結晶の形と気温・湿度との関係を丹念に調べ上げて行きました。

 

こうしてできた「中谷ダイヤグラム」と呼ばれる分類表は、その功績を称える世界中の研究者によって引用され、雪の結晶を分類する国際的な基準の土台になったのです。

参考文献

もっと知りたい人のためのオススメ本

渡邉克晃『美しすぎる地学事典』(秀和システム,2020)


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