ビスマス金属結晶
©️Florian Pircher / Pixabay

溶かして固めるだけで複雑な虹色の結晶ができる

虹色に輝く色彩と言い、階段状に入り組んだ複雑な形と言い、とても美しい結晶ですね。

この結晶は、ビスマス(日本名は「蒼鉛(そうえん)」)という金属の人工結晶です。

自然界にこういう結晶があるわけではなく、純度100パーセントに近い材料を使って、人工的に作成したもの。

 

とは言うものの、作るのはそれほど難しくありません。

ある意味、勝手にこのような色彩や形態になってしまう金属なのです。

 

まず、材料(ビスマスのかけら)を火にかけて加熱し、ドロドロに溶けて液体になったら、火から下ろして冷まします。

温度が下がることで表面から徐々に固まって行きますので、完全に固まる前に、表面にできた硬い殻をカンカンと割って取り出します。

ちょうど、池に張った氷を割るような感じですね。

すると、取り出した殻の裏側に、冒頭の写真のような美しい結晶ができていると言うわけです。

 

なんだか、簡単にできそうですよね。

 

ビスマスと言う金属は摂氏270度ほどで溶けますので、それほど高い温度は必要ありません。

金属が溶ける温度をいくつか挙げてみると、鉛は330度、アルミニウムは660度、金は1060度、鉄は1540度ほど。

ですから、他の金属に比べて、ビスマスは簡単に溶ける金属なのです。

 

また、ビスマスの特殊な性質として、液体から固体になると体積が大きくなると言う性質があります。

なぜこれが特殊かと言いますと、多くの物質では、固体、液体、気体の順に体積が大きくなりますので、普通は液体から固体になると体積は小さくなるのです。

つまり、固体の方が密度が大きくなって、固体は液体の中に沈む。

しかし、ビスマスの場合は固体の方が液体よりも密度が小さいので、ビスマスの固体は、ドロドロに溶けたビスマスの液体に浮くのです。

 

これって、何かに似ていると思いませんか。

 

そうです。

水と氷の関係と、同じですね。

氷が水に浮くのも特殊な現象なのですが、ビスマスでも同じことが起こるのです。

 

そのため、火から下ろして冷ましていくと、池に氷が張るように、ビスマスは液体の表面にぷかぷか浮かびながら固まっていきます。

この性質も、人工結晶の作りやすさに一役買っています。

 

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結晶表面の微細な凹凸が作る光のマジック

ビスマス結晶の構造色
ビスマス結晶の構造色(©︎Hans Braxmeier / Pixabay, modified)

 

ビスマスの人工結晶が持つ虹色の色彩は、実は本来の色ではありません。

ビスマス本来の色は、他の多くの金属と同じような銀白色。

人工結晶が虹色に見えるのは、表面を覆う薄い酸化膜(ビスマス原子と酸素原子が結びついてできた膜)のためなのです。

 

そして、酸化膜が作る虹色は「構造色(こうぞうしょく)」と呼ばれるもので、言わば光のマジック。

色素のようにそれ自体に色が付いているわけではなく、微細な表面の凹凸がこのような複雑な色彩を生み出しているのです。

その仕組みについて、もう少し詳しく見てみましょう。

 

ビスマスの人工結晶の表面にできる酸化膜は、ビシッとした平らな膜ではなく、非常に細かい凹凸になっています。

この凹凸の間隔がものすごく狭いため、光の波長と同じくらいか、それよりもさらに短い間隔になっているのですね。

すると、光の「干渉(かんしょう)」という現象が起こる。

 

光には波の性質があって、水面の波と同じように、山と谷を繰り返しながら空間を進みます。

「波長」というのは一つの波における隣り合う山どうしの間隔のことで、光の波長は1万分の4から1万分の7ミリメートル。

そして、無数の光の波がごちゃ混ぜになって空間を進むと何も起こりませんが、光の反射などによって波に規則性が生まれると、光同士が強め合ったり弱め合ったりして様々な色の光に変化するのです。

これを「干渉」と言っています。

 

さて、ビスマスの人工結晶に当てはめて考えてみますね。

人工結晶の表面に当たった光は反射して私たちの目に飛び込んできますが、酸化膜の凹凸があるために、反射する光は凹凸に由来する規則性を持ちます。

すると光の干渉が起き、特定の色の光を発するようになる。

光の干渉で生まれる色は、光が反射する角度や凹凸の並び方によって様々に変化するため、結果的に虹色に見えると言うわけです。

 

実はCDやDVDの記録面の虹色も構造色で、ビスマスと同じ原理で虹色に見えています。

急激な結晶成長が階段状の構造を作った

ビスマスの人工結晶に見られる階段状の複雑な形態は、例えば六角形の柱を作る水晶(二酸化ケイ素の結晶)などとは大きく異なりますね。

ビスマス結晶の階段状の構造は「骸晶(がいしょう)」と呼ばれていて、結晶の頂点(3つ以上の面が交わる点)や稜(2つの面が交わる線)の部分が急速に成長してできたもの。

 

結晶というのは、水晶を思い浮かべてもらうとわかりやすいのですが、多数の平面で囲まれた形をしています。

水晶のような結晶が成長する時には、これらの平面が均一に成長していくため、六角形の柱がそのままの形態を保ってボリュームアップするイメージ。

 

一方、ビスマスの人工結晶の場合には、結晶の成長が非常に速くて、結晶を取り囲む平面が均一に成長できないのです。

結晶になりやすい頂点や稜の部分の急速な成長に、平面の中央部の成長が追いつかないのですね。

その結果、広い平面が形成されずに階段状の複雑な構造ができるというわけです。

参考文献

もっと知りたい人のためのオススメ本

渡邉克晃『美しすぎる地学事典』(秀和システム,2020)


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