フィンランドのオルキルオト島で建設中の地層処分場「オンカロ」の内部
フィンランドのオルキルオト島で建設中の地層処分場「オンカロ」の内部(©︎IAEA Imagebank / flickr

 

「核のゴミをどうするか」問題

原子力発電に賛成の人も反対の人も、必ず考えなければならない問題があります。

それは、原子力発電所から出た放射性廃棄物、いわゆる「核のゴミ」をどう処分するか、という問題。

これからの社会が脱原発に向かうとしても、すでに「核のゴミ」は大量に発生しているわけで、この問題を将来世代に丸投げするわけにはいきません。

 

放射性廃棄物には様々なものがありますが、発電所の通常の運転によって発生する使用済み核燃料や、福島第一原子力発電所事故で発生した燃料デブリなどは、特に危険度の高い「高レベル放射性廃棄物」と呼ばれています。

日本も諸外国も、高レベル放射性廃棄物は地下300〜900mという非常に深い場所に埋めることで処分する方針であり、このような処分方法を「地層処分」と言います。

この地層処分において、粘土が重要な役割を果たしているのです。

 

本題の粘土の話に入る前に、もう少しだけ地層処分の状況を説明させてください。

 

原子力発電に使われるウラン燃料は、3〜4年程度使用すると核分裂反応が鈍くなってきて、燃料としての役割を終えます。

これが「使用済み核燃料」と呼ばれる放射性廃棄物。

ただし、日本では使用済み核燃料はまだ「廃棄物」ではなく、リサイクルの対象となる「資源」です。

 

どういうことかと言いますと、日本の原子力政策においては、使用済み核燃料を再処理してウランやプルトニウムを取り出し、新たな燃料として使用する方針となっているのです。

日本における高レベル放射性廃棄物とは、再処理の工程で発生した廃液であり、この廃液から作られる「ガラス固化体」(後述)が地層処分の対象となります。

 

なお、世界に先駆けて地層処分を進めているフィンランドとスウェーデンでは、使用済み核燃料を再処理せずに、そのまま地層処分する方針です。

日本と同じく再処理して地層処分をする方針の国としては、現在のところフランスが最も先行して準備を進めています。

地層処分で計画されている厚さ70cmの粘土の壁

スウェーデンの地層処分場建設予定地、フォルスマルク。写真の建物は原子力発電所。
スウェーデンの地層処分場建設予定地、フォルスマルク。写真の建物は原子力発電所(©︎Anders Sandberg / flickr

 

それでは、地層処分のどこで粘土が使われるのか、具体的に見ていきたいと思います。

 

高レベル放射性廃棄物を地下深くの岩盤に埋めるとき、廃棄物の周りを粘土の壁で覆うというのが、基本的な地層処分の方法です。

まだ計画段階ですが、ガラス固化体を埋設する日本の地層処分では、分厚い金属製の容器に納められたガラス固化体を、厚さ70cmほどの粘土の壁で覆いながら地下に埋めていく計画です。

 

もう少しイメージが湧きやすいように、具体的な埋設の流れをざっと説明しますね。

 

まず再処理の工程で発生した放射性物質入りの廃液は、高温の溶けたガラスと一緒にステンレス製の容器に入れられ、固体のガラスにされます。

これが「ガラス固化体」と呼ばれる高レベル放射性廃棄物。

円筒形をしていて、高さ約130cm、直径約40cmという大きさです。

 

次に、できたガラス固化体を分厚い金属製の容器に収納します。

容器の厚みはなんと約20cm(日本の場合)。

材質の一番の候補は鋼鉄ですが、銅やチタンも検討されています。

 

そして、最後に粘土。

地下深くまで穴を掘って地層処分に適した深度(300m以上)に達したら、その辺りに廃棄物を設置するための水平方向のトンネルを何本も作ります。

その水平に広がった地下のトンネルにおいて、ガラス固化体の入った金属製容器を埋設するために再び縦方向に浅い穴を掘り、穴の底部に小石大に砕いた粘土のかたまりを敷き詰めます。

 

敷き詰めたらギュッと押し固めて、その上に金属製容器を設置し、周囲と上部にもぎっしりと粘土を充填。

さらに押し固めて、これで粘土の壁は完成です。

全ての廃棄物の設置が終わったら、水平方向のトンネルや地上へと続く通路は埋め戻されます。

 

なお、上述の通り日本の地層処分はまだ計画段階であり、2021年9月現在、処分地選定の最初の段階である候補地選びが続けられているという状況です。

世界的に見ても、実際に高レベル放射性廃棄物を地下に埋めて処分した国は、まだありません。

 

各国の状況を概観すると、最も進んでいるフィンランドでは、処分地の選定が終わり、国からの建設許可が下りて、地層処分場の建設が進められているところ(操業はまだ)。

それに続くスウェーデンでは、処分地の選定が終わり、国からの建設許可が下りるのを待っているという状況です。

日本と同じくガラス固化体を地層処分する計画のフランスでは、処分地選定の最終段階である、地下深部の詳細な地質調査が進められています。

粘土の壁の重要な役割

フィンランドのオルキルオト島で建設中の地層処分場「オンカロ」の内部。国際原子力機関(IAEA)の視察の様子
フィンランドのオルキルオト島で建設中の地層処分場「オンカロ」の内部。国際原子力機関(IAEA)の視察の様子(©︎IAEA Imagebank / flickr

 

地層処分においてガラス固化体の周囲を粘土の壁で覆うのは、まず第一に、地下水の侵入を防ぐためです。

 

ガラス固化体は水に溶けにくい物質ですが、それでも地下水と接触することで、長い時間をかけて少しずつ放射性物質が溶け出していくことが考えられます。

ですので、地下水がガラス固化体に接触しないように、水を通さない粘土の壁を周囲に作るのです。

 

地層処分で使われる粘土は、水を吸って膨らむ性質(膨潤性)を持つスメクタイトという粘土。

ガラス固化体の周囲に敷き詰めた粘土は、ギュッと押し固められはしますが、そのままでは隙間がたくさんあって水を通してしまいます。

 

しかし、スメクタイトは地下水が入ってくると膨らんで隙間を埋めてしまうので、それ以上は水を通さなくなるのです。

こうして粘土の壁は、地下水からガラス固化体を守ってくれる強力なバリアになるというわけです。

 

なお、粘土の壁に加え、ガラス固化体を収納する分厚い金属容器も、地下水との接触を防ぐためのバリアになっています。

 

粘土の壁が持つもう一つの重要な役割は、ガラス固化体から溶け出してきた放射性物質を吸着して、外に逃がさないこと。

これもまたスメクタイトに特有の性質によるもので、スメクタイトには様々なイオンを吸着しやすい性質があるのです。

 

イオンには電気的にプラスの性質を持つ陽イオンと、電気的にマイナスの性質を持つ陰イオンがありますが、スメクタイトは結晶の表面やシート状の構造の隙間に、陽イオンを良く吸着します。

そして、水に溶けた放射性物質はたいてい陽イオンの形を取るので、スメクタイトを主成分とする粘土の壁に触れるとその中にくっついてしまい、それ以上は外に流れていかなくなるのです。

これで、たとえ放射性物質が溶け出したとしても、粘土の壁の中に閉じ込めておくことができるわけですね。

 

日本では花崗岩や泥岩の地層に埋設することを想定して計画が進められていますが、フランスでは、そもそも粘土でできた地層(カロボ・オックスフォーディアン粘土層)に埋設する方針で、現在最終的な地質調査が進められています。

放射性物質を閉じ込める材料として、粘土がいかに注目されているかがわかりますね。

フランスの場合、ガラス固化体や金属製容器については日本と同様のやり方ですが、周囲を粘土の壁で覆う必要がないので、金属製容器のまま岩盤中に設置していくことになります。

参考文献

経済産業省資源エネルギー庁『放射性廃棄物について

関西電力『原子力発電の概要

NUMO『「人工バリア」とは何ですか?

NUMO『なぜベントナイト(人工バリアの緩衝材)を使うのですか?

原子力環境整備促進・資金管理センター『フランスにおける高レベル放射性廃棄物処分

NUMO『各国の取り組み状況