孔雀石(コンゴ民主共和国産)
【孔雀石】標本の横幅:12.8cm/コンゴ民主共和国産/国立科学博物館所蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

緑の孔雀石と青の藍銅鉱はほぼ同じ成分の鉱物

孔雀石(くじゃくいし)の塊を切断して、その面を磨くと、明るい緑色と暗い緑色が作る美しい縞(しま)模様が現れます。この縞模様をクジャクの飾り羽の目玉模様に見立てて、「孔雀石」という名前が付けられました。

孔雀石はアクセサリーや工芸品の素材として利用されるほか、粉末にして、緑色の鉱物顔料(岩絵具)としても使われています。鉱物顔料というのは、鉱物を砕いて作る様々な色の粉のことで、膠(にかわ)と水を加えて粘り気を出し、絵を描くのに使われます。

緑の鉱物顔料が孔雀石の粉であるのに対し、青の鉱物顔料は藍銅鉱(らんどうこう)という鉱物の粉。この2つ、実はほぼ同じ成分の鉱物です。

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鉱物顔料として高価なのは藍銅鉱

藍銅鉱(アメリカ産)
【藍銅鉱】標本の横幅:9.7cm/アメリカ・アリゾナ州 グレアム郡 ロングフェロー鉱山産/国立科学博物館所蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

孔雀石は、岩石中に含まれる銅に二酸化炭素と水が反応してできる鉱物です。そのため、孔雀石の成分は、銅(Cu)、炭酸イオン、水酸化物イオンの3種類。反応に使われた水は、水酸化物イオンの形で孔雀石の中に取り込まれているのです。

そして、藍銅鉱も同じく銅、炭酸イオン、水酸化物イオンでできています。ただし、孔雀石に比べて水酸化物イオンの割合が少ないという違いがあります。

緑色の孔雀石も、青色の藍銅鉱も、成分としてはほぼ同じ。にもかかわらず、鉱物顔料としては藍銅鉱の方がずっと高価です。

その理由は、藍銅鉱は孔雀石と混じって採掘されることが多く、藍銅鉱の粉だけを集めることがとても難しいから。一方、孔雀石は孔雀石だけでたくさん採掘されるので、集めるのにそれほど手間がかかりません。

実は藍銅鉱には、水と反応することで孔雀石に変わりやすいという性質があります。そのため、採掘した藍銅鉱の一部が孔雀石に変化していることがよくあるのです。

藍銅鉱を超える最上級の鉱物顔料

ラピスラズリ(アフガニスタン産)
【ラピスラズリ】標本の横幅:10.7cm/アフガニスタン・バダフシャーン産/国立科学博物館所蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

孔雀石よりもずっと高価な鉱物顔料になる藍銅鉱ですが、上には上がいます。それは、同じく青の鉱物顔料になるラピスラズリ。

鉱物顔料にはそれぞれ名前が付けられていて、同じ青でも藍銅鉱の鉱物顔料は「群青(ぐんじょう)」といい、ラピスラズリの鉱物顔料は「ウルトラマリン」といいます。孔雀石の緑の鉱物顔料は「緑青(ろくしょう)」です。

ラピスラズリは12月の誕生石にもなっている宝石で、鉱物としてはおもにラズライトでできています。ラズライトの細かい結晶が、ほかの鉱物の細かい結晶と一緒に岩石を形作っていて、その岩石をラピスラズリと呼んでいるのです。

ラピスラズリは鮮やかな青色の宝石で、その青い部分にラズライトが多く含まれています。ただし、これを砕いて粉にしただけでは、美しい青色の鉱物顔料になりません。青は青でも、やや灰色がかった淡い青色になってしまいます。もっと濃く、鮮やかな青色にするには、砕いた粉から青色の粉(ラズライトの粉)だけを集めなければならず、時間と手間がかかるため、とても高価な鉱物顔料になってしまうのです。

鉱物の解説:孔雀石(くじゃくいし)

孔雀石(チリ産)
【孔雀石】標本の横幅:10.3cm/チリ・チャナルシージョ産/国立科学博物館所蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

孔雀石から作られる鉱物顔料を「緑青(ろくしょう)」といいますが、緑青といえば、一般的には10円玉などの銅製品にできる緑色の錆(さび)のことです。緑青にはいくつかの物質が混ざっていて、そのうちの一つである「水酸化炭酸銅」という物質が、鉱物の孔雀石と同じ成分です。

冒頭の孔雀石の写真は切断した面を磨いたものですが、切断する前の姿は、この写真のように、丸みのある塊がいくつも連なったようになっています。

また、縞模様には明るい部分と暗い部分が見られますが、成分の違いで色が変わっているわけではありません。明るさが違うのは結晶の粒の大きさが違うからです。明るい緑色の部分は細かい結晶の粒でできており、暗い緑色の部分は、それよりも粗い結晶の粒でできています。

鉱物データ「マラカイト(孔雀石)」
マラカイト(孔雀石)の鉱物学的特性

もっと知りたい人のためのオススメ本

この記事の内容は、当サイト管理人(渡邉克晃)の著書『へんな石図鑑』からの抜粋です。書籍版もぜひお楽しみください。

『へんな石図鑑』渡邉克晃(秀和システム、2024年)


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