グリーンランドで発見された「溶けない氷」
グリーンランドに「溶けない氷」があることは、かなり古くから知られていました。無色透明で、見た目は氷とそっくりなのに、全然溶けません。水に浸けると沈んでしまうので、少なくとも普通の氷でないことは確かなのですが……。
この不思議な「溶けない氷」が、実はほかの地域では発見されたことのない珍しい鉱物であるとわかったのは、1800年ごろのこと。おもな成分にフッ素を含むハロゲン化物の一種で、現在でも採れる場所は非常に限られています。
学名はクリオライトで、「冷たい」という意味のギリシャ語「クリオス」から名づけられました。
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産地はグリーンランド南西部、アルスクフィヨルド
氷晶石が発見されたグリーンランドは、北アメリカ大陸の北東にある、世界最大の島です。面積はオーストラリア大陸の28%ほどで、日本の面積の6倍近くもあります。かなりの大きさですね。
北側には北極海、南側には北大西洋が広がり、島の大部分が北緯66度以上の「北極圏」に入っています。人が住んでいるのは沿岸部だけで、内陸部は一年中氷におおわれた世界。
氷晶石が発見されたのは、そんな氷だらけのグリーンランドでした。これでは氷と間違われても無理はありません。
氷晶石の最初の発見場所であり、その後も世界で唯一、大規模に氷晶石が採掘されてきた場所は、グリーンランドの南西部、アルスクフィヨルドの入り口に近いイビグトゥット鉱山です。フィヨルドというのは、氷河によって削られた谷に海水が入り込んでできた長細い湾で、谷の形がアルファベットの「V」ではなく「U」の字に見えることや、入り口から奥まで湾の幅があまり変わらないなどの特徴があります。
水と一体化して見えにくくなる
氷晶石には、水に浸けると形がぼやけて見えにくくなるという、不思議な特徴があります。写真を見ると、氷晶石のふちの部分(透明な部分)が水と一体化して、何となくぼやけて見えませんか。
「そんなの、無色透明の鉱物だったらみんな同じじゃないの」と思うかもしれませんが、そんなことはありません。例えば、透明な水晶を水の中に入れてみても、形の線は意外とはっきりわかります。これは、水晶の中を通過する光が、水と水晶の境界でカクッと曲がるからです。光が向きを変えるので、私たちの目は、「あ、ここに何か境界があるな」と気づくことができるのです。
このような光の曲がり方の程度を「屈折率(くっせつりつ)」と言います。ちょっと数字が細かいのですが、基準となる真空中の屈折率を1とすると、水は1.33、水晶は1.54です。そして、気になる氷晶石の屈折率は、1.34。何と、水とほぼ同じですね。
屈折率が同じものどうしの境界では光は曲がらないので、水と氷晶石の境界ははっきり見えないのです。
鉱物の解説:氷晶石(ひょうしょうせき)
フッ素(F)をおもな成分とする珍しい鉱物で、大規模な産地はグリーンランド南西部のイビグトゥット鉱山のみ。昔はアルミニウムの製錬にこの鉱物が欠かせなかったのですが、現在では人工的に作った同じ物質に取って代わられ、氷晶石の出番は無くなりました。イビグトゥット鉱山は1969年に閉山しています。
氷晶石は花崗岩の中から見つかります。花崗岩の岩盤には、しばしばペグマタイトと呼ばれる空洞ができていて、その空洞を満たすように、石英や蛍石(ほたるいし)、氷晶石などの結晶ができているのです。蛍石も、おもな成分としてフッ素を含む鉱物です。
無色透明な氷晶石は低めの温度でできたもので、およそ560℃以上の熱が加わると、白っぽい半透明の結晶に変わってしまいます。写真は褐色の氷晶石です。
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