金色だから金と間違えられた
金色に輝く黄鉄鉱(おうてっこう)。あまり鉱物に詳しくない人にこれを見せて、「ほら、金だよ」と言ったら、どうでしょうか。大きな結晶ならともかく、岩石の中に埋まっている小さな金色の粒だったら、けっこうわからないものです。
黄鉄鉱は、金よりもはるかにたくさん見つかる鉱物なので、昔はよく金と間違えられたそうです。それで、「愚者(ぐしゃ)の金」という不名誉な呼び名までついてしまいました。
「愚者」とは、文字通り愚か者のこと。つまり、見た目にだまされて黄鉄鉱を金だと思ってしまう人は愚か者だ、という意味です。黄鉄鉱を手にして残念がる人の様子が、目に浮かぶようです。
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黄鉄鉱と金では、硬さが明らかに違う
黄鉄鉱と金とは、ただ色が似ているだけで、それぞれの特徴を知っていれば簡単に区別できます。
まず明らかに違うのは、硬さ。黄鉄鉱のモース硬度が6〜6 ½であるのに対し、金は2 ½しかありません。ハサミなどの鋼鉄製の刃物で引っかくと、金なら簡単に傷がつきますが、黄鉄鉱なら傷がつかず、逆に刃物の方が傷みます。
また、大きめの黄鉄鉱の結晶をハンマーで強く叩くと、火花が飛ぶことが知られています。硬い上に割れにくい、とても頑丈な鉱物なのです。
もう一つ、明らかに違う点は、粉にした時の色です。茶碗の底のザラザラしたところ(糸底)に黄鉄鉱をこすりつけると、黒っぽい色の粉がつきます。一方、もし金だったら、茶碗の底にこすりつけると金色の粉がつきます。金は粉にしても金色なのですね。この違いで、黄鉄鉱と金を見分けることができます。
なお、茶碗などの磁器のモース硬度は7で、黄鉄鉱より硬く、石英と同じです。
黄鉄鉱の金色は「真鍮色」と表現される
黄鉄鉱も金も、どちらも金色には違いないのですが、見比べると色の雰囲気に少し差があることがわかります。
金の「金色」は、黄色味が強く、別名「山吹色(やまぶきいろ)」とか「黄金色(こがねいろ)」などと呼ばれます。「山吹」というのは植物のヤマブキのこと。温かみのある濃い黄色の花が、金の色を表現するのにぴったりなのです。
これに対し、黄鉄鉱の「金色」は「真鍮色(しんちゅういろ)」と表現される金色です。真鍮というのは、5円玉や、トランペットなどの金管楽器に使われている合金のことで、「山吹色」に比べてわずかに黄色味が弱い感じがします。
黄鉄鉱と金では、硬さや粉にしたときの色はもちろんのこと、塊の状態の色もこのように微妙に違うのです。
なお、真鍮は銅と亜鉛の合金で、真鍮の色はこれらの割合によってもある程度変化します。5円玉の場合は、全体の60〜70%が銅で、残りが亜鉛です。金管楽器では、銅の割合が65〜70%の真鍮が多く使われています。
鉱物の解説:黄鉄鉱(おうてっこう)
鉄(Fe)と硫黄(S)をおもな成分とする鉱物です。銅と亜鉛の合金である真鍮と色が似ていますが、銅も亜鉛もおもな成分ではありません。
黄鉄鉱の基本的な結晶の形は、立方体、正八面体、五角十二面体の3種類。五角十二面体というのは、上の写真のように、12枚の五角形で囲まれた立体のことです。
立方体や五角十二面体のように、はっきりとした結晶の形が見られれば黄鉄鉱であることがすぐにわかりますが、細かい粒のような結晶だと、金や黄銅鉱(おうどうこう)と見た目では区別できません。そのような場合には、ハサミなどの鋼鉄製の刃物で引っかいてみて、傷がつくかどうかで判断します。金のモース硬度は2 ½、黄銅鉱のモース硬度は4なので、金や黄銅鉱なら、刃物で簡単に傷がつきます。
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