深く鮮やかな赤色と強い光沢
深く鮮やかな赤色で、ガラスよりもいっそう強い光沢を持つこの鉱物の名前は、「辰砂(しんしゃ)」といいます。美しい色合いに加え、結晶の表面で光が強く反射するので、キラキラと輝いて見えるのが特徴です。
「光沢」というのはツヤのことで、鉱物の表面に光が当たったとき、反射した光がどんな風に見えるかを「〇〇光沢」という言葉で表現します。例えば、ガラスに似たキラッとした輝きなら「ガラス光沢」、プラスチックに似たツルンとした輝きなら「樹脂光沢」、真珠に似た内側から湧き出てくるような優しい輝きなら「真珠光沢」、といった具合です。
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輝きはダイヤモンド並み
辰砂の光沢は、「ダイヤモンド光沢」と表現されます。無色透明のダイヤモンドと、赤色で透明な辰砂とでは、見え方がだいぶ違うように感じるかもしれませんが、どちらも透明な結晶であり、表面で光が強く反射するという点では似ているのです。
光がどのように反射するかは、鉱物の性質の一つである「屈折率」と深く関係しています。屈折率とは、透明な結晶の中に細い光の筋を通したときに、空気と結晶の間で、その筋がどれだけ曲げられるかを示した数字のこと。屈折率の数字が大きいほど、光は大きく曲げられます。そして、大きく曲げられることで、結果的に表面で反射する光も強くなります。
少し細かいですが、屈折率の数字を具体的に示すと、ダイヤモンドの屈折率が2.42、水晶の屈折率が1.55、そして辰砂の屈折率は、なんと2.91から3.26です(結晶の向きで屈折率が変わるため、数字に幅があります)。屈折率の高さからも、辰砂の輝きがダイヤモンド並みに美しいことがわかりますね。
加熱すると有毒ガスが出る
色も輝きも美しい辰砂ですが、その成分は水銀と硫黄。水銀は、「水俣病」という公害病の原因にもなった毒性の強い元素です。特に「メチル水銀」などの有機水銀の形で体内に入ると、次のような体の不調、あるいは深刻な障害が起こります。
- 手足がしびれる
- 歩くときにふらつく
- 言葉がうまく話せなくなる
- 匂いや味がわからなくなる
- 周りが見えにくくなる
- お腹の赤ちゃんが障害を持って生まれてくる
ただ、メチル水銀に比べれば、辰砂の毒性はそれほど強くありません。注意しなければならないのは、辰砂を400℃以上の高温で加熱すると、中の水銀が気体になって出てくることです。この気体を吸ってしまうと、量によってはさまざまな体の不調が起こります。
なお、辰砂の結晶には、表面の一部あるいは全体が銀色っぽくなって、不透明に見えるものがあります。この銀色は、結晶の表面に薄く張り付いた水銀の粒です。
鉱物の解説:辰砂(しんしゃ)
辰砂は赤色の鉱物顔料(岩絵具)として、古くから使われてきました。鉱物顔料とは、鉱物から作るさまざまな色の石の粉のことで、「膠(にかわ)」と呼ばれる糊(のり)のようなものに混ぜて、粘り気を出して使うのが一般的です。
辰砂から作られる鉱物顔料のことを、日本では「朱」といいます。朱の色(朱色)は、少しオレンジが混ざったような明るい赤色で、印鑑を押すときに使う「朱肉」にも、人工的に作った辰砂と同じ物質が使われています。
辰砂は、結晶の粒が大きいときは深い赤色ですが、それをすりつぶして細かい粉にすると、明るく鮮やかな朱色になります。赤色の鉱物顔料には、赤鉄鉱から作られる「ベンガラ」もありますが、辰砂の「朱」はベンガラよりも鮮やかです。
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