辰砂(北海道産)
【辰砂】写真の横幅:約2cm/北海道 常呂郡 置戸町 紅ノ沢産/国立科学博物館所蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

深く鮮やかな赤色と強い光沢

深く鮮やかな赤色で、ガラスよりもいっそう強い光沢を持つこの鉱物の名前は、「辰砂(しんしゃ)」といいます。美しい色合いに加え、結晶の表面で光が強く反射するので、キラキラと輝いて見えるのが特徴です。

「光沢」というのはツヤのことで、鉱物の表面に光が当たったとき、反射した光がどんな風に見えるかを「〇〇光沢」という言葉で表現します。例えば、ガラスに似たキラッとした輝きなら「ガラス光沢」、プラスチックに似たツルンとした輝きなら「樹脂光沢」、真珠に似た内側から湧き出てくるような優しい輝きなら「真珠光沢」、といった具合です。

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輝きはダイヤモンド並み

ダイヤモンド(南アフリカ共和国産)
【ダイヤモンド】標本の横幅:6mm/南アフリカ共和国・トランスバール地方 プレトリア近郊 プレミア鉱山産/国立科学博物館所蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

辰砂の光沢は、「ダイヤモンド光沢」と表現されます。無色透明のダイヤモンドと、赤色で透明な辰砂とでは、見え方がだいぶ違うように感じるかもしれませんが、どちらも透明な結晶であり、表面で光が強く反射するという点では似ているのです。

光がどのように反射するかは、鉱物の性質の一つである「屈折率」と深く関係しています。屈折率とは、透明な結晶の中に細い光の筋を通したときに、空気と結晶の間で、その筋がどれだけ曲げられるかを示した数字のこと。屈折率の数字が大きいほど、光は大きく曲げられます。そして、大きく曲げられることで、結果的に表面で反射する光も強くなります。

少し細かいですが、屈折率の数字を具体的に示すと、ダイヤモンドの屈折率が2.42、水晶の屈折率が1.55、そして辰砂の屈折率は、なんと2.91から3.26です(結晶の向きで屈折率が変わるため、数字に幅があります)。屈折率の高さからも、辰砂の輝きがダイヤモンド並みに美しいことがわかりますね。

加熱すると有毒ガスが出る

辰砂(北海道産)
【辰砂】写真の横幅:6.7cm/北海道 常呂郡 置戸町 紅ノ沢産/国立科学博物館所蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

色も輝きも美しい辰砂ですが、その成分は水銀と硫黄。水銀は、「水俣病」という公害病の原因にもなった毒性の強い元素です。特に「メチル水銀」などの有機水銀の形で体内に入ると、次のような体の不調、あるいは深刻な障害が起こります。

  • 手足がしびれる
  • 歩くときにふらつく
  • 言葉がうまく話せなくなる
  • 匂いや味がわからなくなる
  • 周りが見えにくくなる
  • お腹の赤ちゃんが障害を持って生まれてくる

ただ、メチル水銀に比べれば、辰砂の毒性はそれほど強くありません。注意しなければならないのは、辰砂を400℃以上の高温で加熱すると、中の水銀が気体になって出てくることです。この気体を吸ってしまうと、量によってはさまざまな体の不調が起こります。

なお、辰砂の結晶には、表面の一部あるいは全体が銀色っぽくなって、不透明に見えるものがあります。この銀色は、結晶の表面に薄く張り付いた水銀の粒です。

鉱物の解説:辰砂(しんしゃ)

辰砂(アメリカ産)
【辰砂】標本の横幅:6.1cm/アメリカ・ネバダ州 パーシング郡 カヒル鉱山産/国立科学博物館所蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

辰砂は赤色の鉱物顔料(岩絵具)として、古くから使われてきました。鉱物顔料とは、鉱物から作るさまざまな色の石の粉のことで、「膠(にかわ)」と呼ばれる糊(のり)のようなものに混ぜて、粘り気を出して使うのが一般的です。

辰砂から作られる鉱物顔料のことを、日本では「朱」といいます。朱の色(朱色)は、少しオレンジが混ざったような明るい赤色で、印鑑を押すときに使う「朱肉」にも、人工的に作った辰砂と同じ物質が使われています。

辰砂は、結晶の粒が大きいときは深い赤色ですが、それをすりつぶして細かい粉にすると、明るく鮮やかな朱色になります。赤色の鉱物顔料には、赤鉄鉱から作られる「ベンガラ」もありますが、辰砂の「朱」はベンガラよりも鮮やかです。

鉱物データ「シナバー(辰砂)」
シナバー(辰砂)の鉱物学的特性

もっと知りたい人のためのオススメ本

この記事の内容は、当サイト管理人(渡邉克晃)の著書『へんな石図鑑』からの抜粋です。書籍版もぜひお楽しみください。

『へんな石図鑑』渡邉克晃(秀和システム、2024年)


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