古い日本語の名前は「葱臭石」
スコロド石は、透明感のある青色や緑色の美しい鉱物です。ハンマーで叩いたり、ろうそくの炎で熱したりすると、ニンニクのような匂いがします。名前の由来も、ギリシャ語で「ニンニクのような」を意味する「スコロディオウ」。
ニンニクのような匂いなら、なんだか美味しそうに思えるかもしれませんね。でも、おもな成分の一つであるヒ素に毒性があるので、食べてはいけません。
スコロド石には、「葱臭石(そうしゅうせき)」という古い日本語の鉱物名があります。葱臭石の「葱」は、ネギのこと。同じ匂いを嗅いだはずなのに、日本人は「ネギくさいなあ」と思ったわけです。
なお、「におい」には「臭い」と「匂い」の二通りの漢字があり、いやなにおいには「臭い」、よいにおいには「匂い」を使うことが多いです。ここでもそのように使い分けています。
ニンニクとは匂いの成分が違う
ニンニクも、ネギも、同じ「ユリ科ネギ属」に分類される植物です(※「ヒガンバナ科ネギ属」とする分類方法もあります)。そのほか、タマネギやニラも、同じくネギ属の植物。それぞれ匂いに特徴はあるものの、「強い匂いがする」という点ではみな共通しています。
ニンニク、ネギ、タマネギ、ニラなどの匂いの元は、「アリシン」という物質です。アリシンは、これらの植物を切ったときにできる物質。そのため、買ってきたままのニンニクやネギには、ほとんど匂いがありません。アリシンに含まれる元素は、炭素、水素、酸素、硫黄の4つです。
それでは、スコロド石のニンニクの匂いも、同じくアリシンが原因なのでしょうか。
スコロド石の場合、匂いの原因はヒ素を含む物質で、アリシンとはまったくの別物です。そもそも、アリシンに含まれる4つの元素のうち、炭素と硫黄がスコロド石には入っていないので、叩いたり熱したりしてもアリシンができることはありません。
ヒ素を含む鉱物としては安全な方
スコロド石に限らず、ヒ素を含む鉱物であれば、叩いたり熱したりした時に多かれ少なかれニンニクのような匂いがします。
例えば、「石黄(せきおう)」もその一つ。石黄はヒ素と硫黄でできた鉱物で、ろうそくの炎で加熱すると簡単に溶けて、強いニンニクの匂いを発します。
ところで、スコロド石のおもな成分の一つであるヒ素は、猛毒の「亜ヒ酸」の元になる危険な元素。スコロド石そのものに毒性があるわけではありませんが、やはり口に入れないよう注意が必要です。
もっとも、スコロド石は、実はヒ素を含む鉱物の中ではかなり安全な方。むしろ危険なヒ素を安全に保存するために、わざわざ人工的にスコロド石と同じ物質を作っているほどです。例えば、銅の製錬(鉱石から銅を取り出すこと)では、工場内で多量のヒ素が排出されることがあるので、それらのヒ素を、危険の少ない人工のスコロド石に作り変えています。
鉱物の解説:スコロド石(すころどせき)
鉄(Fe)、ヒ酸イオン、水分子をおもな成分とする鉱物です。「ヒ酸イオン」とは、ヒ素(As)と酸素(O)が結合したイオンのこと。ヒ酸イオンをおもな成分とする鉱物は、「ヒ酸塩」に分類されます。
結晶は透明または半透明で、水晶よりも輝きが強く、光沢の種類としては「ガラス光沢」と「ダイヤモンド光沢」の中間あたり。
スコロド石は、鉄とヒ素を含む硫砒鉄鉱などの鉱物が、いったん地下水に溶けて、その後、地下水中の鉄とヒ素が再び結晶になることで生まれます。
岩石の割れ目などに細かい結晶の集まりとして見られることが多く、先端の尖った結晶の形、キラキラした輝き、青みがかった色合いが特徴的です。
もっと知りたい人のためのオススメ本
この記事の内容は、当サイト管理人(渡邉克晃)の著書『へんな石図鑑』からの抜粋です。書籍版もぜひお楽しみください。
『へんな石図鑑』渡邉克晃(秀和システム、2024年)