「アスファルト舗装の黒い道路を白く塗ったら、太陽光を吸収しにくくなって気温が下がるのではないか」
このような発想はもっともなことで、実際にニューヨークやロサンゼルスなどアメリカの大都市では、道路や建物の屋根を白系の塗料でペイントするという高温対策が進められています。マサチューセッツ工科大学によれば、これらの対策により、都市部の夏の最高気温が少なくとも1.4℃ほど低下するとのこと(MIT CSHub『Mitigating Climate Change with Reflective Pavements』)。
しかし、ここで注意しなければならないのが、道路を白く塗ったからといって地球全体の平均気温が下がるわけではない、ということです。確かに都市部の気温は下がるかもしれませんが、地球温暖化で問題視されている地球全体の気温変化には影響がありません。
つまり、地球温暖化ではなく、いわゆる「ヒートアイランド現象」を防ぐのに効果的だということです。
ヒートアイランド現象とは、「熱(ヒート)」と「島(アイランド)」を組み合わせた言葉で、郊外に比べて都市部の気温だけが限定的に高くなる現象のことです。都市部では地面の大部分がアスファルトなどの人工物で覆われ、森林や草地が少ないために、熱がこもりやすくなるのです。
一方、地球温暖化は都市部に限定的なものではなく、地球全体の平均気温が高くなる現象で、その原因は二酸化炭素などの温室効果ガスの放出が産業革命以降に急激に増えたからだと言われています。ヒートアイランド現象と地球温暖化は、どちらも人間活動が関係している点では共通していますが、原因や規模は全く異なるために別々に考える必要があります。
都市部の道路が占める面積は、地球全体で見たら微々たるものです。だから、道路を白く塗って熱がこもらないようにしても、残念ながら地球全体の気温を下げることにはつながりません。
効果があるとすれば、それは、「ヒートアイランド現象を緩和することで夏場のエアコンに使われるエネルギーを削減できる」という省エネの観点においてです。消費エネルギーの削減は火力発電に伴う二酸化炭素排出の削減につながり、二酸化炭素排出の削減は大気中の温室効果ガスを減らすことにつながるので、結果的に地球温暖化を防ぐ助けになるかもしれません。
ここで「かもしれません」という曖昧な言い方をしたのは、これを断定的に言うには、「地球温暖化の原因は、人為的な二酸化炭素の排出である」という前提が必要だからです。実際のところ因果関係を明らかにするのは困難であり、そのような「推定」で、現在様々な対策が行われているという状況です。
こういうわけで、地球温暖化を防ぐ助けになるかどうかは未知数ですが、道路を白く塗ることでヒートアイランド現象が緩和され、省エネにつながるなら、やる価値は十分にありそうですね。
参考文献
Business Insider『ニューヨーク、高温対策として屋根を白くペイント、効果は?』(2018年8月17日)
Gigazine『道路を白く塗装して平均気温を3度下げるロサンゼルスの温暖化対策』(2017年09月10日)
Gigazine『「道路の色」を変えるだけで最高気温が1.4度以上も低下するという研究結果』(2021年08月22日)
MIT CSHub『Mitigating Climate Change with Reflective Pavements』(Nov. 2020)
もっと知りたい人のためのオススメ本
渡邉克晃『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』(ベレ出版,2022)
※この記事の内容を含め、身近な地質学の話題がたくさん紹介されています。