古い呼び名は「毒砂」
硫砒鉄鉱は、名前の通り硫黄、ヒ素(砒素)、鉄でできた鉱物です。加熱すると、表面に「三酸化二ヒ素」という白色の物質ができます。この物質は、ヒ素と酸素が結合してできたもので、水に溶けると猛毒の「亜ヒ酸」へと変化します。そのため、昔は硫砒鉄鉱のことを、「毒砂(どくしゃ)」と呼んでいました。
もし三酸化二ヒ素の白い粉を誤って口に入れてしまったら、体の中の水分で亜ヒ酸ができ、中毒症状が現れます。ごく少量なら、吐き気、下痢、頭痛などで済むものの、亜ヒ酸の毒性はとても強く、量が多いと死ぬこともあります。
ただし、硫砒鉄鉱そのものは、それほど危険ではありません。
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加熱しなくても、錆びていたら要注意
硫砒鉄鉱があまり危険でないのは、たとえ口に入ったとしても、そのままでは亜ヒ酸がほとんどできないからです。とは言え、もちろん口に入れない方がいいですが。
硫砒鉄鉱に危険があるとすれば、それは、表面が錆びているときです。「錆びる」とは、水と空気の働きで、鉄などの金属の原子が酸素と結合すること。
ここで、「酸素と結合する」というのが重要なポイントです。亜ヒ酸の元になる三酸化二ヒ素は、ヒ素と酸素が結合したものでしたね。言ってみれば、この物質はヒ素の「錆」なのです。そして、実際に硫砒鉄鉱の表面にできる錆にも、この三酸化二ヒ素が含まれていることがあります。
ですので、錆びた硫砒鉄鉱を素手で触ってしまったら、手についた錆が口に入らないように、よく手を洗いましょう。
なお、硫砒鉄鉱の本来の色は銀白色ですが、錆びると光沢が鈍くなり、やや黄色みを帯びた灰色になります。
ヒ素はハイテク産業に欠かせない元素
亜ヒ酸という猛毒のせいで、ヒ素には「毒」のイメージが強くあります。確かにその通りなのですが、この毒は、実はいろいろな面で、私たちの生活に大いに役立っているのです。
例えば、三酸化二ヒ素は、殺虫剤や農薬に使われます。これは、毒を毒として利用した使い方。害虫だけでなく、ネズミを駆除するのにも有効です。
また、毒を「薬」として利用する使い方もあります。代表的なものでは、三酸化二ヒ素から作られた薬が、「血液のがん」と呼ばれる白血病の治療薬として使われています。
それから、ヒ素の原子だけでできた物質を「金属ヒ素」といいますが、金属ヒ素は「半導体」という電子部品に使われ、現代のハイテク産業を支えています。金属ヒ素にも毒性があるものの、製品を使うだけなら危険はありません(捨てるときだけ注意が必要)。
なお、殺虫剤や農薬としてのヒ素の利用は、安全性や環境への影響を考えて、だんだんと少なくなってきています。
鉱物の解説:硫砒鉄鉱(りゅうひてっこう)
結晶の基本的な形は、ひな祭りに飾る菱餅のような、厚みのある菱形です。あるいは、厚みの方向に結晶が伸びて、柱のような形(柱状)になることもあります。柱状の場合も、切り口はどこも菱形です。
かつて、大分県の尾平(おびら)鉱山では、長さ10cm以上にもなる立派な柱状の結晶が採れました。このような結晶は大変珍しく、尾平鉱山の硫砒鉄鉱は世界的に有名です。
硫砒鉄鉱の学名は、「アーセノパイライト」といいます。「アーセニック(ヒ素)」と「パイライト(黄鉄鉱)」が元になっていて、「ヒ素を含む黄鉄鉱に似た鉱物」という意味です。似ているのは「色」で、硫砒鉄鉱の本来の色は銀白色ですが、表面が錆びて黄色みを帯びると、黄鉄鉱の真鍮色に近くなります。
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