バージェス山(カンブリア時代の化石産地)
©️Edna Winti / flickr

カンブリア紀の絶滅動物化石が見つかった山

カンブリア紀の絶滅動物、バージェス動物群の化石産地として有名な「ウォルコット採石場」は、カナダ西部・ワプタ山の南側の尾根にあります。

写真はそのワプタ山。

南北に連なる尾根を南西側から見た風景で、尾根に沿って画面の右手側に進むと、すぐそこがウォルコット採石場です。

 

「ウォルコット」というのは、アメリカの古生物学者、チャールズ・ウォルコット博士のこと。

約5億年前の海に生息していた絶滅動物の化石を、この採石場でウォルコット博士が最初に発見したため、彼の名前で呼ばれるようになりました。

1909年の最初の発見以来、この場所は世界的に有名な化石産地として研究が続けられています。

 

ウォルコット採石場で発見された絶滅動物の化石は非常にバラエティ豊かで、この時代(約5億年前)の海では、急激に生物の種類が増えたと考えられています。

これが生物進化における重大イベント、いわゆる「カンブリア爆発」。

古生代カンブリア紀という地質時代に起こったため「カンブリア爆発」なのですが、文字通り生物の種類が「爆発的に」増えました。

 

これより前の地球上にはあまり大きな生物は生息しておらず、カンブリア紀に入る少し前くらいに、クラゲのような軟体動物がいくつか現れたことが知られている程度です(エディアカラ生物群)。

そんな中、カンブリア紀に入ると突然いろんな生物が登場する。

硬い殻を持った動物、捕食器で獲物を捕らえて食べる動物、何本もの足を使って海底を歩く動物、などなど。

 

カンブリア爆発で登場するこれらの動物たちは、「バージェス動物群」と名付けられました。

化石を含むウォルコット採石場の岩石が、「バージェス頁岩(けつがん)」と呼ばれる岩石だったからです。

 

なお、「頁岩」と言うのは泥が固まってできた岩石で、本のページ(頁)のようにペラペラと薄く割れるのが特徴です。

採石場の石をハンマーで叩くと薄く割れて、その中から化石が出てくると言うわけですね。

 

▼▼▼動画もあります▼▼▼

奇妙な形態を持つウォルコット採石場の絶滅動物たち

ウォルコット採石場で見つかる絶滅動物の中には、今の地球上の生物のどれにも似ていない奇妙なものがしばしば見られます。

そのうちの一つが、こちらの写真のオパビニア・レガリス。

バージェス頁岩層から見つかったオパビニアの化石(米国スミソニアン博物館所蔵)
オパビニア・レガリスの化石(©︎James L. Stuby / Wikipedia

 

絶滅した節足動物の仲間オパビニア・レガリスの復元図(バージェス動物群)
オパビニア・レガリスの復元図(©︎Junnn11 / Wikipedia

 

復元図も合わせて載せましたが、とても奇妙な姿をしています。

キノコのように飛び出た目が5つ、頭から伸びるゾウの鼻のようなホース、エビのような節のある体と側面のひれ。

 

頭のホースを除くと、体長は4から7センチメートルほど。

体の側面に並ぶ多数のひれを動かして、活発に海の中を泳ぎ回っていたと考えられています。

 

そして、頭に付いているホースは獲物を捕らえるための道具。

海底の砂の中にホースを突っ込んで獲物を探し、砂の中にいる小さな軟体動物をホースの先に付いているハサミで捕らえます。

獲物を捕らえたら、そのままホースをゾウの鼻のように手前に湾曲させて、頭部の下側にある口元に運ぶ。

 

SFの世界に出てきそうなくらい突拍子もない形態ですね。

信じがたいことですが、約5億年前の海ではこんな生物が泳ぎ回っていたのです。

 

オパビニアが発見された当初は、従来の生物分類のどこにも当てはまらない「プロブレマティカ(所属不明化石)」とされていましたが、その後の研究の進展により、節足動物の仲間と見なされるようになりました。

節足動物ということは、エビとかカニのような甲殻類、あるいは昆虫類などと同じグループ。

言われてみれば、細長い胴体やひれのついた尻尾の先辺りが、何となくエビのようにも見えますね。

バージェス頁岩から見つかった生物は280種以上

ウォルコット採石場一帯のバージェス頁岩から見つかった生物は、既に知られていた古生代の生物(三葉虫など)も含め、280種以上にものぼります。

バージェス頁岩のすごいところは、化石の保存状態が非常に良いこと。

海底の泥が固まったキメの細かい岩石の中に、繊細な体の部位(針、ひれ、細長い手足など)や軟体部がしっかりと残っているのです。

 

通常、硬い殻を持たない軟体動物や、あるいは、殻を持つ動物であっても内臓のような柔らかい部分は、化石として残りません。

しかし、バージェス頁岩の地層では、海底雪崩に飲み込まれるような形で急速に地中に埋められたために、動物の柔らかい組織まで化石として保存されたと考えられています。

 

また、バージェス動物群と同じ時代の絶滅生物は中国雲南省の澄江(ちょうこう/チェンジャン)でも見つかっており、こちらはチェンジャン動物群と呼ばれています。

地球上の異なる場所で同じような生物化石が見つかるということは、「カンブリア爆発」が局所的なものではなく、地球規模の広い範囲で起こった事件であることを示しています。

参考文献

場所の情報

もっと知りたい人のためのオススメ本

渡邉克晃『美しすぎる地学事典』(秀和システム,2020)


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