首長竜は恐竜ではなく水生爬虫類
長い首とウミガメに似た4本のひれ。
巨大な体で海を泳ぐ首長竜の姿は、どこから見ても「恐竜」のイメージにぴったりです。
アニメーション映画『ドラえもん のび太の恐竜』に登場するフタバスズキリュウの「ピー助」も、そんな首長竜の仲間。
でも、生物の分類は私たちのイメージとは一致せず、首長竜は恐竜ではなく、実は水生爬虫類とされているのです。
水の中に棲む爬虫類、という意味ですね。
イルカに似た姿の魚竜も同じ仲間です。
それでは「恐竜とは何か」と言いますと、分類学上の定義を簡単に意訳すると、「足が地面に向かってまっすぐ伸びている爬虫類」となります。
有名なティラノサウルスの姿を思い浮かべてみましょう。
2本の後ろ足は地面に対してまっすぐに、下に向かって伸びていますね。
また、頭に3本のツノが生えたトリケラトプスも、4本の足がそれぞれ地面に向かってまっすぐ伸びています。
これが恐竜の特徴。
つまり、爬虫類の中でも、特に直立歩行できるものが恐竜とされているのです。
直立歩行しない爬虫類には、例えばワニがあります。
ワニの足の付け根を見てみると、体から横向きに伸びていることがわかります。
這いまわるような歩き方になるのはそのためで、ワニも恐竜ではありません。
フタバスズキリュウなどの首長竜は、足がウミガメのようなヒレになっていて、やはり体から横向きに生えています。
歩くための足ではありませんが、たとえ陸地に上がってヒレで歩くことがあったとしても、地面に向かってまっすぐ下に伸びていませんので、恐竜には分類されないのです。
「スズメは恐竜」ってどういうこと?
さて、首長竜は実は恐竜ではないというお話をしましたが、一方でスズメは恐竜とされているのです。
スズメって、あの庭に飛んでくる小さな鳥です。
首長竜のように見るからに恐竜っぽいものが恐竜ではなく、スズメのようにまるで恐竜ではない普通の鳥が、恐竜とされている。
なんだかとても妙な感じがしますね。
これも、生物の分類が私たちの直感的なイメージとずれているからなのです。
先ほど恐竜の定義の「意訳」を、「足が地面に向かってまっすぐ伸びている爬虫類」とご紹介しました。
しかし、これはあくまでも意訳であって、やや正確性に欠けるところがあります。
元々の定義によると、恐竜とは、「トリケラトプスと鳥類の最も近い祖先から生まれたすべて」。
この定義の意味を、少し丁寧に考えてみたいと思います。
まず、トリケラトプスという恐竜と現生の鳥類とは、ある共通の祖先から進化していった生物分類上の親戚ということです。
そして、その中に含まれる親戚を全部「恐竜」と呼びましょう、というのが元々の定義の意味。
トリケラトプスは進化した恐竜の中で最も鳥類と遠い関係にある親戚なので、トリケラトプスと鳥類の間には、私たちが知っているあらゆる恐竜が含まれます。
ティラノサウルスも、アロサウルスも、ブラキオサウルスも、ステゴサウルスも。
これらの恐竜の足は地面に向かってまっすぐ伸びているため、前述のような意訳でも、恐竜の定義としてほぼ間違いはありません。
しかし、先ほどの意訳には重要なことが一つだけ欠けています。
それは、「鳥も恐竜である」ということ。
生物進化におけるトリケラトプスから鳥類までのすべての親戚を「恐竜」と呼ぶのですから、鳥も恐竜になるわけです。
このことを踏まえると、先ほどの定義の意訳はこうなります。
恐竜とは、「足が地面に向かってまっすぐ伸びている爬虫類+鳥類」のこと。
現在の地球に生きる脊椎動物は、魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類の5つに分類されています。
私たちのイメージでは、恐竜とは爬虫類の中の特定のグループですが、実際の生物分類では、爬虫類の一部と鳥類全部が「恐竜」なのです。
したがって、恐竜は絶滅したわけではなく、鳥に姿を変えて大繁栄しているとも言えるわけですね。
このような理由で、「スズメは恐竜」となるのです。
なぜ鳥類を「恐竜」に分類しなければならなかったのか
さて、ここで一つ疑問が残ります。
そもそもなぜ、鳥類を「恐竜」に分類しなければならなかったのでしょうか。
首長竜が恐竜でないのは百歩譲るとして、恐竜の定義を「足が地面に向かってまっすぐ伸びている爬虫類」だけにしておけば、まだ私たちのイメージに近い生物分類になったはずです。
鳥を恐竜に含めるから、余計にややこしくなる。
これには近年の恐竜研究の進展が関係しています。
どういうことかと言いますと、1996年に中国で羽毛を持った恐竜「シノサウロプテリクス」の化石が発見されて以降、次から次へと羽毛恐竜の化石が報告されるようになったのです。
羽毛というのは、それまでは鳥類に特有のものと考えられていました。
それなのに、恐竜にもその特徴が備わっていたのです。
化石の発掘と研究が進むにつれ、全身を羽毛で覆われた恐竜、手や足に翼を持つ恐竜、さらには発達した翼で滑空する恐竜の化石まで見つかるようになりました。
つまり、鳥に似た恐竜がたくさんいたことがわかってきたのです。
こうなるともう、どこまでが恐竜でどこからが鳥なのか、はっきりとした区別がつきません。
羽毛以外にも、歯の有無、卵の形状、子育て様式、指や肩の骨の形状など、分類学上のさまざまな特徴において恐竜と鳥との間に線引きをすることが困難になりました。
こうしてかつての恐竜と鳥とは同じ生物グループとなり、今ではともに「恐竜」の構成メンバーになっているのです。
なお、「恐竜」の中で爬虫類と鳥類の境目とされているのは、始祖鳥です。
爬虫類から鳥類への進化の中間型として注目を集めてきた、あの始祖鳥ですね。
始祖鳥には歯があり、翼の先に指と鋭い爪があり、尻尾には骨もあって、これらは現生の鳥類には見られない爬虫類の特徴です。
この始祖鳥を含め、始祖鳥から進化して現生の鳥類により近くなったものを、鳥類と呼ぶことになっています。
恐竜の中に鳥類が含まれることで、爬虫類と鳥類との境界が曖昧になってしまったわけですが、便宜上、このように始祖鳥を基準にして互いを区別しているというわけです。
恐竜の研究によって現在の生物分類まで見直されることになるとは、古生物の研究の重要性がわかりますね。
参考文献
小林快次・土屋健『そして恐竜は鳥になった』
ナショナルジオグラフィック日本版『知っているようでホントは知らない? 「恐竜」って何者?』→ https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20140501/395365/?P=1
もっと知りたい人のためのオススメ本
渡邉克晃『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』(ベレ出版,2022)
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