ドミニカ共和国産だけが特別扱い
細い針のような結晶がびっしりと集まった形で見つかることが多い、ソーダ珪灰石。割れ口(針の側面)にはガラスのような輝きがあり、美しい姿をしていますね。
結晶の色は、普通は白色や灰色のモノトーン。でも、ドミニカ共和国で採れるソーダ珪灰石だけはちょっと変わっていて、とても鮮やかな明るい青色をしているのです。そのため、ドミニカ共和国産のものだけが特別扱いされていて、その人気ぶりは「カリブの秘宝」と呼ばれるほど。
北アメリカやヨーロッパなど、ソーダ珪灰石は各地で見つかっていますが、青いソーダ珪灰石が採れるのは、世界で唯一ドミニカ共和国だけなのです。
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宝石「ラリマー」として知られる青いソーダ珪灰石
ドミニカ共和国産の青いソーダ珪灰石には、「ラリマー」という宝石名が付けられています。細く小さな結晶が岩石の隙間を埋めるようにびっしりと成長していて、その塊をカットして磨くと、写真のような青と白の模様が現れます。青色の鮮やかさに加え、揺らめく海の水のようなこの模様が、ラリマーの特別な魅力です。
青いソーダ珪灰石が採れるのは、ドミニカ共和国の南西部にあるバオルコ山脈。道路が整備されていない険しい山奥に鉱山があり、採掘に向かうのも一苦労です。また、周りの自然を破壊しないために、大がかりな機械は使わず、シャベルやつるはしで一つ一つ掘り出しているそうです。このような採掘方法ですから、採れる量はそれほど多くなく、宝石としての価値も高くなります。
一方、白い普通のソーダ珪灰石は、宝石として利用されることはほとんどありません。同じ鉱物でも、採れる場所の違いだけで、見た目や価値が大きく異なることがあるのですね。
カリブ海の島、イスパニョーラ島
世界で唯一、青いソーダ珪灰石が採れるドミニカ共和国。ドミニカ共和国があるのは、北アメリカ大陸と南アメリカ大陸の間に広がるカリブ海地域です。
カリブ海地域には、カリブ海の北側と東側を囲むように、たくさんの島が並んでいます。その中で、キューバ島に次いで2番目に大きいのがイスパニョーラ島であり、イスパニョーラ島の東側およそ3分の2を統治する国がドミニカ共和国です。島の西側はハイチという別の国が統治しています。
イスパニョーラ島の面積は、九州の2倍くらい。北海道よりは一回り小さいものの、かなり大きな島です。イスパニョーラ島は火山の噴火によってできた島であり、固まった玄武岩質の黒っぽい溶岩の中に、空洞を埋めるように青いソーダ珪灰石ができています。
「ラリマー」という宝石名は、発見者の一人であるミゲル・メンデスの娘の名前「ラリッサ」と、スペイン語で「海」を意味する「マール」から名付けられたと言われています。
鉱物の解説:ソーダ珪灰石(そーだけいかいせき)
ソーダ珪灰石は、ナトリウム(Na)、カルシウム(Ca)、ケイ素(Si)、酸素(O)、水素(H)をおもな成分とする鉱物です。鉱物名の「ソーダ」は、漢字で「曹達」とも書き、ナトリウムを意味します。「珪」はケイ素、「灰」はカルシウムを意味する漢字なので、「ソーダ珪灰石」という鉱物名が、そのまま成分を表しています。
天然の鉱物の場合、化学式で示される「おもな成分」だけでできていることは、まずありません。それ以外にも、不純成分としてほんのわずかに別の元素が含まれます。そして、こうした不純成分が、同じ鉱物どうしで色が違う原因になっていることがよくあります。
ドミニカ共和国産のソーダ珪灰石が青色なのは、わずかに含まれる銅が原因です。
もっと知りたい人のためのオススメ本
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