岩塩(ポーランド産)
【岩塩】標本の長さ:20.5cm/ポーランド産/国立科学博物館所蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

深い青色の美しい結晶

地質作用によってできた塩化ナトリウムの結晶を、岩塩(がんえん)と呼びます。調味料の食塩と同じ成分ですが、鉱物名としては「岩塩」。

岩塩にとっての「地質作用」とは、おもに海水の蒸発です。これは、瀬戸内海のような、陸地に囲まれた狭い海を想像するとわかりやすいでしょう。長い年月のうちに、海水面が下がったり陸地が盛り上がったりすると、外海から切り離されて湖になることがあります。その後、雨が少なくて湖の蒸発が進むと、湖底に大量の岩塩ができるのです。

それにしても写真の岩塩、美しいですね。本来は無色透明の結晶ですが、深い青色の結晶もよく知られています。

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とにかく湿気に弱い

岩塩(ドイツ産)
【岩塩】左の結晶の一辺の長さ:約5cm/ドイツ・ザクセンアンハルト州 シュタースフルト産/国立科学博物館所蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

ガラスのような透明感のある輝きと、深く鮮やかな青色。これほどの美しさを持ちながら、岩塩には湿気に弱いという決定的な弱点があります。水に溶けやすい塩(しお)でできているわけですから、当然といえば当然ですね。

水に濡らすのはもちろん厳禁ですし、手で触っただけでも、手の水分で結晶の表面が少し溶けてしまいます。さらにいうと、日本のように湿度の高い国では、部屋に置いておいただけで、空気中の水分によって少しずつ溶けていってしまうほど。保管するときには乾燥剤入りのケースに入れるなど、湿気対策が必要です。

また、湿気に弱いということは、そもそも湿度の高い地域では、岩塩の結晶は残りにくいということでもあります。岩塩は、アメリカやドイツなどの大規模な岩塩鉱山で採掘され、食品や工業用の原料として利用されています。このような岩塩鉱山は、いずれも乾燥地帯か、あるいは水を通さない特殊な地層におおわれた場所にできたものです。

青、紫、ピンク、オレンジなど色とりどり

料理用のヒマラヤ岩塩(パキスタン産)
「ヒマラヤ岩塩」の名前で販売されているパキスタン産の岩塩。料理用。中央の一番大きな粒の長さ:9mm

深い青色のほかにも、紫色やピンク色、オレンジ色など、岩塩には様々な色があります。

青色や紫色は、原子の並び方にちょっとした乱れがあるときに見られる色です。岩塩の成分は、塩素とナトリウム。これら2種類の原子が規則正しく並んでいるときには、岩塩の色は基本的に無色透明です。

これに対し、青色や紫色の岩塩の場合、全体としては規則正しく原子が並んでいるのですが、部分的にわずかな乱れができていて、その影響で色がついて見えるのです。特に何か不純物が含まれているわけでもなく、原子の並び方の違いだけで色がついて見えるなんて、とても不思議ですね。

一方、ピンク色やオレンジ色は、おもに不純物が原因となって現れる色です。料理用、あるいは入浴剤としてなじみのある「ヒマラヤ岩塩」は、ピンク系の色をしていますね。この中には塩素とナトリウムのほかに、マグネシウム、カリウム、カルシウム、鉄などの元素、さらには微生物なども含まれています。

鉱物の解説:岩塩(がんえん)

岩塩(アメリカ産)
【岩塩】標本の横幅:12.2cm/アメリカ・ユタ州 トゥーイル郡 グレートソルト湖産/国立科学博物館所蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

基本的な結晶の形は立方体で、立方体のそれぞれの面と平行に、はっきりとした劈開(割れやすい性質)があります。つまり、立方体の岩塩の結晶を割っていくと、やはり立方体、あるいは直方体の形になるというわけです。こうした劈開の実験は、岩塩の結晶さえあれば家庭でも簡単にできますが、本文中の「ヒマラヤ岩塩」のように、いろいろな不純物が含まれている結晶だとあまりうまくいきません。

岩塩は、「ハロゲン化物」に分類されます。ハロゲンとは、フッ素や塩素など、周期表の第17族に属する元素のこと。ハロゲン化物はいずれも、ハロゲンと金属元素の化合物です。

※金属元素=ナトリウム、カリウム、カルシウムなど。元素の大多数は金属元素。

鉱物データ「ハライト(岩塩)」
ハライト(岩塩)の鉱物学的特性

もっと知りたい人のためのオススメ本

この記事の内容は、当サイト管理人(渡邉克晃)の著書『へんな石図鑑』からの抜粋です。書籍版もぜひお楽しみください。

『へんな石図鑑』渡邉克晃(秀和システム、2024年)


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