炎の熱で灰色に変わる
リチア輝石(きせき)の結晶は明るいピンク色で、宝石「クンツァイト」として人気があります。ガラスのような光沢があり、9月の誕生石にも選ばれている宝石です。
そんな美しい見た目のリチア輝石ですが、火を近づけて熱すると、なんとツヤのない灰色の塊に変わってしまうのです。もともとが美しいだけに、「燃えて灰になる」という儚(はかな)さがとても残念……。
ただし、紙が燃えて灰になるように、まったく別のものに変わってしまうわけではありません。リチア輝石の成分に変化はなく、ただ、色とツヤがなくなり、見た目が灰のようになるだけです。
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色のバリエーションが豊富な宝石
リチア輝石の結晶の色は、ピンク色だけではありません。ほかにも、紫色、水色、緑色、黄緑色、黄色など、さまざまな色があります。先ほどの「クンツァイト」はピンク色や紫色のリチア輝石につけられた宝石名で、緑色のものには「ヒデナイト」という別の宝石名がつけられています。
リチア輝石は、本来は無色透明。さまざまな色の結晶ができるのは、少量だけ含まれる不純成分のせいです。具体的には、ピンク色や紫色はマンガン、緑色はクロム、黄色は鉄が、それぞれの色の原因となる不純成分です。
なお、緑色のリチア輝石の中には、クロム以外に、鉄とマンガンによって緑色になっているものもあります。宝石名の「ヒデナイト」は、クロムによって緑色になったリチア輝石にだけ使われる名前で、同じような緑色であっても、原因が違うとヒデナイトとは呼ばれません。
また、リチア輝石には「多色性(たしきせい)」という性質があり、見る方向によって微妙に色の濃さが変化します。
学名の由来は「灰になる」
「リチア輝石」は日本語の鉱物名(和名)であり、世界共通で使われる英語の鉱物名(学名)は、「スポジュメン」といいます。由来はギリシャ語の「スポドウメノス」で、意味は「灰になる」。火を近づけて熱すると灰色に変わるリチア輝石の特徴が、そのまま名前になっているのですね。
でも、実際に名前をつけた人たちが、当時どのように考えていたかははっきりしていません。リチア輝石の結晶は、その多くがピンク色などのきれいな色をしておらず、普通は上の写真のように、白っぽい灰色です。こうした灰色の見た目にちなんで、「灰になる」という意味の名前になったという説もあります。
なお、和名の「リチア輝石」は、「リチウムを含む輝石」という意味です。リチウムはレアメタルの一つであり、スマートフォンやノートPCに使われるリチウムイオン電池の製造には、リチウムが欠かせません。そのリチウムの重要な資源となる鉱物が、リチア輝石です。
鉱物の解説:リチア輝石(りちあきせき)
リチア輝石は、リチウム(Li)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、酸素(O)をおもな成分とする鉱物です。輝石の仲間はたくさんあり、例えば宝石の「翡翠(ひすい)」として知られるひすい輝石も、輝石の一つ。成分がよく似ていて、ひすい輝石では、リチウムの代わりにナトリウムが含まれています。
リチア輝石の柱状の結晶を見ると、柱の側面に、くっきりとした縦方向の線が何本も見えます。この線は「条線(じょうせん)」と呼ばれ、結晶の成長の跡が線として残ったものです。
クンツァイトの宝石名で知られるピンク色や紫色のリチア輝石には、紫外線によって色あせてしまう性質があります。そのため、日光などの強い光に長時間さらさないよう、保管には注意が必要です。
もっと知りたい人のためのオススメ本
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