翠銅鉱(ナミビア産)
【翠銅鉱】写真の横幅:6.3cm/ナミビア・ガシャブ産/国立科学博物館所蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

エメラルドを思わせる鮮やかな色合い

まるでエメラルドのような、深みのある鮮やかな緑色が印象的な翠銅鉱(すいどうこう)。最初に発見されたのは18世紀の後半で、場所はロシアの南側に位置する国、カザフスタンです。その時には実際にエメラルドと間違われて、ロシア皇帝に献上されたのだとか。

でも、エメラルドよりもはるかに傷つきやすく、もろかったので、すぐに違う鉱物であることがわかりました。

モース硬度で比べると、硬度7 ½〜8のエメラルドに対し、翠銅鉱は硬度5。ハサミなど、鋼鉄でできた刃物の先でガリガリと引っかくと、翠銅鉱の表面には傷がついてしまいます。

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硬さが足りなくて、宝石には不向き

エメラルド(コロンビア産)
【エメラルド】中央の結晶の縦の長さ:4.7cm/コロンビア産/国立科学博物館所蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

「鋼鉄でできた刃物で引っかくと傷がつく」なんて、そんなの当たり前というか、逆に、「それってけっこう硬いんじゃないの?」と思われるかもしれませんね。

しかし、一般的に宝石に求められる硬さは、硬度7以上です。砂ぼこりの中には、細かいながらも石英が普通に含まれていて、その石英の硬度が7。つまり、宝石の硬度が7よりも低いと、指や乾いた布でこすったときに、砂ぼこりが原因で簡単に傷がついてしまうのです。これでは、安心して身につけることができませんね。

ちなみに、石英の大きな結晶である水晶の表面を、鋼鉄でできた刃物でガリガリと引っかいても、その刃物がよほど硬い種類の鋼鉄でできていなければ、傷はつきません。反対に、刃物の方が傷んでしまいます。

もちろん、エメラルドの表面にも、それくらいでは傷はつきません。高価な宝石なので、決して試したくはないですが……。

傷つきやすいだけでなく、割れやすいのも難点

翠銅鉱(カザフスタン産)
【翠銅鉱】写真の横幅:約3cm/カザフスタン・アルティンチューブ鉱山産/国立科学博物館所蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

それからもう一つ、翠銅鉱には「割れやすい」という特徴もあります。

写真をよく見ると、結晶の内部にキラキラと光る割れ目のようなものがいくつも見えますね。これらは「劈開面(へきかいめん)」と呼ばれるもので、鉱物の結晶にしばしば見られる、「スパッと割れやすい面」です。結晶の中を通る光がこの劈開面で反射するため、キラキラと光って見えます。

翠銅鉱には、とてもはっきりとした劈開性(劈開面をつくる性質)があるので、衝撃を受けると簡単に割れてしまいます。こうした壊れやすさも、翠銅鉱が宝石になりにくい理由の一つです。

さて、翠銅鉱の「翠(すい)」という字は「みどり」とも読み、カワセミの羽のような鮮やかな青緑色、あるいは緑色を表す言葉です。元々はカワセミのことを「翡翠(かわせみ)」と書き、この鳥の羽の色から、宝石名の「翡翠(ひすい)」や色名(しきめい、いろめい)の「翠(みどり)」が生まれたそうです。ちなみにエメラルドの和名は、「翠玉(すいぎょく)」といいます。

翠銅鉱、エメラルド、カワセミ。自然が作る色彩の鮮やかさには、改めて驚かされますね。

鉱物の解説:翠銅鉱(すいどうこう)

翠銅鉱(カザフスタン産)
【翠銅鉱】標本の横幅:3.5cm/カザフスタン・アルティンチューブ鉱山産/国立科学博物館所蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

おもな成分として、銅(Cu)とケイ素(Si)と酸素(O)、それから水分子を含むのが特徴です。アフリカのナミビアと、中央アジアのカザフスタンが産地として有名。

エメラルドと色がよく似ていますが、粉末にした時の色(条痕色)は、エメラルドが白、翠銅鉱が緑であり、互いに異なります。

鮮やかな緑色は、銅を含む鉱物にしばしば見られる色です。翠銅鉱以外に、例えば孔雀石(くじゃくいし)、亜鉛孔雀石(あえんくじゃくいし)、アントラー鉱、ブロシャン銅鉱なども、おもな成分として銅を含み、いずれも鮮やかな緑色をしています。

一方、エメラルドの緑色は、不純成分として含まれるクロムやバナジウムが原因で、銅を含んでいるわけではありません。

鉱物データ「ダイオプテーズ(翠銅鉱)」
ダイオプテーズ(翠銅鉱)の鉱物学的特性

もっと知りたい人のためのオススメ本

この記事の内容は、当サイト管理人(渡邉克晃)の著書『へんな石図鑑』からの抜粋です。書籍版もぜひお楽しみください。

『へんな石図鑑』渡邉克晃(秀和システム、2024年)


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