ひすいもネフライトも、英語の宝石名は「ジェード」
ひすい(翡翠)とネフライトは似たものどうし。どちらも緑色で、半透明または不透明で、とても割れにくい宝石です。硬さ、すなわち「傷つきにくさ」で比べると、ひすいの方がやや硬く、ネフライトは少し軟らかいので、ひすいの別名を「硬玉(こうぎょく)」、ネフライトの別名を「軟玉(なんぎょく)」といいます。
ところで、日本語の宝石名「ひすい」を英語に訳すと、「ジェード」になります。では、「ネフライト」を英語に訳すと何になるかというと、これもやはり「ジェード」。「ネフライト」がそもそも英語の宝石名のようですが、後ほど説明するように「ネフライト」は岩石名であり、宝石名はどちらも「ジェード」なのです。
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お店で「ジェード」を見かけたら
英語の宝石名「ジェード」には、実はかなり広い意味があります。ひすいとネフライト以外にも、不透明な緑色の石英である「アベンチュリン・クォーツ」、緑玉髄(りょくぎょくずい)ともいわれる「クリソプレーズ」、ガーネットの細かい結晶でできた「トランスバール・ジェード」など、様々な緑色の宝石が「ジェード」に含まれます。簡単にいうと、ジェードが意味するのは、「緑色で透明じゃない宝石ぜんぶ」のことなのです。
なぜ英語の名前をこんなに長々と説明するかというと、この「ジェード」という宝石名は、日本のお店やネットショップでもよく使われているからです。輸入したジェードを、鉱物名や岩石名を示さずにそのまま「ジェード」という名前で売っていたり、産地名をつけて、例えば「台湾ジェード」のような名前で売っていたりします。ちなみに台湾ジェードはネフライトのことです。
こういうわけですから、お店で「ジェード」を見かけたら、それがひすいなのか、ネフライトなのか、それともほかの鉱物・岩石なのか、よく注意して見てみなければいけません。
ネフライトは2種類の鉱物でできた岩石
最初のところで、「ネフライトは英語の宝石名ではなく、岩石名である」というお話をしました。つまり、英語の岩石名をカタカナにして、日本語の宝石名「ネフライト」にしたというわけです。
ネフライトは、おもに透閃石(とうせんせき)と緑閃石(りょくせんせき)という2種類の鉱物でできた岩石です。一つ一つの結晶が糸のように細長い形をしていて、それらが固くからみ合って塊を作っているため、とても頑丈。ハンマーでたたいてもなかなか割れません。
この特徴は、実はひすいも同じです。ひすいはおもに、ひすい輝石という鉱物でできた岩石で、やはり小さくて細長い結晶が、互いにからみ合うように寄り集まって塊を作っています。宝石名の「ひすい」に対し、岩石名は「ひすい輝石岩」といいます。
ひすいとネフライトは、どちらも岩石で、細長い結晶が集まった構造をしていて、とても割れにくい。見た目や「ジェード」という呼び名だけでなく、中身や性質にも共通する点が多いのです。
鉱物の解説:透閃石(とうせんせき)
透閃石は、緑閃石とともに、ネフライト(軟玉)を構成するおもな鉱物です。透閃石の色は、緑閃石に比べて白っぽいことが多く、写真のようなクリーム色や明るい緑色のネフライトでは、透閃石の割合が高くなります。
透閃石と緑閃石は、原子の並び方が同じで、成分もとてもよく似ています。どちらの成分もほぼ同じ化学式で表され、ただ、マグネシウムと鉄の割合が異なるだけです。
鉱物の化学式には、鉱物に含まれる元素の種類と、それらがどんな割合で含まれるかが示されています。透閃石と緑閃石の化学式の場合、ケイ素(Si)原子8個あたり、マグネシウム(Mg)原子と鉄(Fe)原子を「合わせて」5個含む、という書き方です(下の表の化学式参照)。そして、5個のうちの0〜0.5個、言い換えれば10個のうちの0〜1個が鉄原子なら透閃石に、10個のうちの1〜5個が鉄原子なら緑閃石に分類されます。
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