「青いひすい」はひすい輝石じゃなかった
ひすい(翡翠)は緑色のイメージが強い宝石ですが、新潟県糸魚川市(いといがわし)の辺りで採れる日本産のひすいは、ほとんどが白っぽい色をしています。鉱物としては大部分がひすい輝石で、たくさんの細かい結晶が集まってできた、半透明の岩石です。
そんな白いひすいの中に、しばしば青くて透明感のある部分が見られることが、昔から知られていました。ひすい輝石も、不純成分としてわずかに鉄とチタンを含むと青色になるので、単に「青いひすい」だと思われていたようです。
しかし、成分などを詳しく調べた結果、ひすい輝石とは違う別の鉱物であることが明らかになりました。
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糸魚川のひすいから発見された新種の鉱物
ひすい輝石とは別のその鉱物には、おもな成分としてストロンチウムが含まれていました。
ストロンチウムは、調べるのが難しい元素の一つ。鉱物の成分を分析装置で調べるとき、その鉱物にケイ素が多く含まれていると、ケイ素が分析のじゃまになってストロンチウムの有無がはっきりとわからないのです。ケイ素を含む鉱物はたくさんあるので、これはやっかいですね。
そんな事情もあって、青色の部分が別の鉱物であるとわかったのは、1998年のことです。糸魚川(いといがわ)地方のひすいから世界で初めて発見された鉱物ということで、「糸魚川石(いといがわせき)」と名づけられました。
ただし、「青いひすい」のすべてが糸魚川石というわけではありません。実際のところ、「青いひすい」の多くはおもにひすい輝石でできていて、それはまさしく、宝石の「ひすい」と言えるものです。糸魚川石が青紫に近い青色なのに対し、ひすい輝石でできた「青いひすい」は、やや灰色がかった青緑に近い青色をしています。
ひすい輝石とその仲間だけが宝石扱い
白いひすい輝石に糸魚川石が混じった「青いひすい」は、宝石としてはあまり利用されません。青い部分がひすい輝石でないことが判明したのですから、仕方がないことかもしれませんね。
でも、そもそもひすいという宝石は、「おもにひすい輝石でできた岩石」であって、その中にはほかの鉱物が混じっていることがしばしばあるわけです。それらは問題にならないのでしょうか。
糸魚川地方で採れる国産ひすいについて言えば、白い部分はほぼひすい輝石だけでできていますが、緑色の部分には、少し成分の違う「オンファス輝石」という鉱物がかなりの割合で混じっています。それでも、その岩石は何の問題もなく宝石の「ひすい」です。
この差は何かというと、オンファス輝石はひすい輝石と同じ「輝石」の仲間で、原子の並び方が同じなのです。お互いに成分は少し異なりますが、兄弟みたいなもの。一方、糸魚川石は輝石とはまったく違うグループの鉱物で、成分も原子の並び方も似ていないのです。
鉱物の解説:糸魚川石(いといがわせき)
新潟県の糸魚川・青海(おうみ)地方に位置する親不知(おやしらず)海岸で採れたひすいを詳しく調べることで、1998年に世界で初めて発見された鉱物です。ひすいの中に、薄皮のように厚みのない集合体として見つかります。
「青いひすい」のうち、糸魚川石を多く含むものは宝石としてあまり利用されません。ひすい輝石のモース硬度が6〜7であるのに対し、糸魚川石のそれは5〜5 ½。宝石としては少し軟らかすぎるのです。
でも、これは硬度5〜6のオンファス輝石についても言えることで、たとえ輝石の仲間であっても、オンファス輝石が多くなりすぎれば、ひすい本来の硬度よりも軟らかくなります。ひすいの主役は、やっぱりひすい輝石なのです。
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