ラピスラズリの「ラズライト」とはまったく別の鉱物
ラピスラズリという、12月の誕生石にもなっている有名な宝石がありますね。群青色と呼ばれる独特の青色が美しいこの宝石は、鉱物としてはおもに「ラズライト」でできています。ラズライトの細かい結晶と、方ソーダ石などの鉱物が一緒になって、硬い岩石を作っているのです。
ところで、上の写真の「ラズーライト」は、ラピスラズリを構成する「ラズライト」とはまったく別の鉱物。名前と色が、有名人の「ラズライト」と似ているせいで、よく間違われてしまいます。ラズーライトもとても美しい鉱物なのに、まぎらわしい名前が付けられていて、ちょっと残念ですね。
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英語の名前は、さらにまぎらわしい
「ラズーライト」と、ラピスラズリの「ラズライト」は、英語の鉱物名(学名)もとてもよく似ています。ラズーライトは「Lazulite」で、ラズライトは「Lazurite」。たった一文字、「l」と「r」が違うだけですね。「l」と「r」の発音の区別が難しい日本人にとって、間違えやすいのは無理もありません。
ラズーライトという名前は、アラビア語で「天」を意味する「ラズワルド」と、ドイツ語で「青い石」を意味する「ラズルシュタイン」に由来します。深く澄んだ青色が、天空を連想させるからだそうです。
ここで、名前の由来に関するちょっと細かい話をご紹介します。ラズーライトの元になったアラビア語の「ラズワルド」は、もともとはペルシャ語で、ある場所の古い地名を表していました。その場所というのが、古代から続くラピスラズリの世界的な産地、アフガニスタン北東部のバダフシャーン州、ラズワルド鉱山です。つまり、ラズワルド鉱山で採れるラピスラズリの色から、のちに「ラズワルド」が「天」を意味するようになり、それがラズーライトの由来になったのです。
藍銅鉱も名前の由来は一緒
実は英語の鉱物名に着目すると、もう一つ名前のまぎらわしい鉱物があります。藍銅鉱(らんどうこう)という鮮やかな青色の鉱物で、英語名は「Azurite(アズライト)」。頭に「L」をつければラズライトですね。
ラズーライトも、ラズライトも、そして藍銅鉱の「アズライト」も、先ほど出てきた「ラズワルド」が名前の由来です。ペルシャ語ではラズワルド鉱山で採れるラピスラズリの色、つまり「青」を意味し、アラビア語ではその青色から連想される「天」を意味しますが、どちらにしても、これらの鉱物がどれも美しい青色だったからこそ、似たような名前になったのでしょう。
このように、色も名前もよく似た3つの鉱物ですが、成分はまったく異なります。ラズーライトは「リン酸塩」に分類され、リン、マグネシウム、アルミニウムなどがおもな成分。ラズライトは「ケイ酸塩」に分類され、ケイ素、ナトリウム、カルシウム、アルミニウム、硫黄などがおもな成分。そして、藍銅鉱は「炭酸塩」に分類され、炭素や銅がおもな成分です。
鉱物の解説:天藍石(てんらんせき)[ラズーライト]
宝石名としては、英語の鉱物名(学名)を日本語読みにした「ラズーライト」がよく使われますが、日本語の鉱物名は「天藍石(てんらんせき)」です。こちらの方がまぎらわしくなくて良いですね。名前の「藍(らん)」は藍色(あいいろ)、つまり、少し緑みのある濃い青色を意味します。
ラピスラズリを構成するラズライトと間違えられることがありますが、ラズーライトはラピスラズリに含まれていません。ラズーライトができる場所は、アルミニウムとリンを多く含む変成岩や火成岩(特に花崗岩)の中です。それに対し、ラピスラズリができる場所はマグマの熱で変化した石灰岩の中であり、生成場所が大きく異なります。
基本的な結晶の形は、上の写真のような尖った八面体です。透明な結晶は宝石として利用されます。
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