成分が似ているだけ
「明礬(みょうばん)」といえば、お料理に使うミョウバンを思い浮かべる人が多いと思います。煮物の形を崩れにくくしたり、漬物の色を美しくしたりするのに使われる、あれです。あるいは、理科の自由研究で「ミョウバンの結晶作り」に挑戦した人もいるかもしれません。八面体の透明な結晶が、とても印象的ですね。
ところで、ミョウバンと「明礬石(みょうばんせき)」とは、まったくの別物です。人工的に作ったものか、天然にできたものか、という違いではなく、そもそも別の物質なのです。ただ単に成分がミョウバンに似ているという理由で、「明礬石」という名前になりました。
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明礬石は水に溶けない
お料理に使うミョウバンも、漢字で書けば同じく「明礬」です。物質名としては「硫酸カリウムアルミニウム十二水和物」と呼ばれ、アルミニウム、カリウム、硫酸イオン、水分子でできています。「硫酸イオン」というのは、強い酸で知られる硫酸に含まれる、硫黄と酸素からなる陰イオン(マイナスの電気を帯びたイオン)のこと。
明礬石の成分もこれと似ているわけですが、明礬石では、アルミニウムの割合がミョウバンよりも多く、また、水分子の代わりに水酸化物イオンが含まれています。「水酸化物イオン」とは、強いアルカリで知られる水酸化ナトリウムに含まれる、酸素と水素でできた陰イオンのことです。
いろんな成分の名前が出てきてちょっとややこしいですが、このような違いがあるために、ミョウバンと明礬石では性質が大きく異なります。わかりやすい違いを挙げると、ミョウバンは水に溶けますが、明礬石は水に溶けません。
「礬(ばん)」という字は、もともとは硫酸イオンを含む物質を表す漢字でしたが、その代表であるミョウバンにアルミニウムが含まれていたので、いつの間にかアルミニウムを表す漢字としても使われるようになりました。
元素名の「アルミニウム」はミョウバンが起源
「明礬石」という鉱物名は、ミョウバンから名づけられました。ミョウバンを意味するラテン語「アルーメン」から、明礬石の学名「アルナイト」が生まれたのです。日本語名の「明礬石」は、学名の翻訳です。
ところで、実はラテン語の「アルーメン」は、元素名「アルミニウム」の起源でもあります。ミョウバンはたいへん古くから人類に利用されてきた物質で、金属のアルミニウムが作られるよりもはるか昔から、よく知られていました。
1761年、アルミニウムの発見に先立って、酸素とアルミニウムからなる物質(酸化アルミニウム)が、「アルミナ」と名づけられました。名前をつけたのはフランス人の化学者、ルイ=ベルナール・ギトン・ド・モルボーで、ミョウバン(アルーメン)が「アルミナ」の元になっています。
そして、アルミナから金属のアルミニウムが取り出されて、新元素「アルミニウム」の発見に至ったのが、1825年のこと。
このようにして、アルーメン、アルミナ、アルミニウムの順で名前がつけられていったのです。
鉱物の解説:明礬石(みょうばんせき)
カリウム(K)、アルミニウム(Al)、硫黄(S)、酸素(O)、水素(H)をおもな成分とする鉱物です。この中の硫黄、酸素、水素は、硫酸イオン、水酸化物イオンの形で含まれています。
電気を帯びた原子や原子団のことを「イオン」といいます。イオンには、プラスとマイナスの2種類があって、プラスとマイナスはお互いにくっつきます。
実はカリウムとアルミニウムも、カリウムイオン、アルミニウムイオンというイオンの形で含まれていて、これらプラスのイオンが、マイナスのイオンである硫酸イオンや水酸化物イオンと結びつくことで、明礬石の結晶ができているのです。このような物質を、「塩(えん)」といいます。
明礬石は硫酸イオンをおもな成分とする塩なので、「硫酸塩」と呼ばれます。
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