タンポポの綿毛? ウサギのしっぽ?
フワフワとした綿毛(わたげ)のように見えますが、実はこれも鉱物です。名前はオーケン石。
「綿毛」といえば、身近なところではタンポポの綿毛が思い浮かびますね。フッと息を吹きかけて、風に飛ばして遊んだ人も多いはず。タンポポに限らず、アザミ、ノゲシ、ツワブキなど、綿毛をつける植物はけっこうたくさんあります。綿毛の長さやつき方がそれぞれ違いますので、道端や近所の草むらなどで、オーケン石とそっくりの綿毛をぜひ探してみてください。
オーケン石は、別名「ラビットテール(ウサギのしっぽ)」とも呼ばれています。言われてみれば、確かに似ていますね。
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硬度はそこそこ高いのに、しなやかに曲がる
オーケン石は、とても細い毛のような結晶が、中心から外側に向かって放射状に集まってできている鉱物です。このようなかたまりのことを、英語で「コットンボール・クラスター」といいます。コットンは「わた(綿)」、クラスターは「かたまり」という意味なので、オーケン石のことを、「綿でできたボールのようなかたまり」と表現しているわけです。
オーケン石のモース硬度は4 ½〜5なので、鉱物として極端に軟らかいわけではありません。参考までに、宝石にもなるアパタイトやステンレスの釘(くぎ)が硬度5、十円硬貨に使われている青銅が硬度3〜3 ½です。単純に硬度だけ見れば、十円硬貨よりもオーケン石の方が硬いわけですね。
しかし、一本一本の結晶があまりに細いために、オーケン石の結晶でできた「毛」はしなやかに曲がります。そのため、触った感じも、まさに綿毛やコットン(綿)のようにフワフワとしています。
玄武岩の晶洞の中でのびのびと成長
綿毛のようなオーケン石の結晶が見つかるのは、おもに玄武岩(げんぶがん)という黒っぽい火山岩の中です。
玄武岩は、地下のマグマが地表に流れ出して固まった溶岩の一種で、その中には大小さまざまな空洞がいくつもできています。こうした空洞は「晶洞(しょうどう)」と呼ばれ、オーケン石のように、本来の結晶の形を保ったままのびのびと成長した鉱物が、その中に多く見られます。
晶洞以外の場所では、岩石の一部になっている鉱物の粒のように、なかなか本来の結晶の形に成長することはできません。晶洞の中で成長したからこそ、冒頭の写真のようなフワフワのオーケン石の結晶ができたのです。
オーケン石の産地として有名なのは、インドのデカン高原。デカン高原は、玄武岩でできた広大な台地です。鳥類以外の恐竜が絶滅した今から約6600万年前、インドの辺りでは地下から大量のマグマが噴き出して、広い範囲が玄武岩の溶岩におおわれました。この玄武岩の中から、オーケン石の晶洞が多く見つかっています。
鉱物の解説:オーケン石(おーけんせき)
カルシウム(Ca)、ケイ素(Si)、酸素(O)、水分子をおもな成分とする鉱物です。フワフワの見た目が、タンポポの綿毛、ウサギのしっぽ、コットン(綿)などにたとえられ、触った感じもイメージ通りの柔らかさ。
代表的なオーケン石は、このように細くてしなやかに曲がる結晶の集まりですが、一本一本がもう少し太くなって、針のような結晶の集合体になることもあります。その場合は曲がらず、簡単に折れてしまいます。
「オーケン石」の名前の由来になったのは、19世紀の前半に活躍したドイツの生物学者、ローレンツ・オーケンです。オーケンは、世界に先がけて「すべての生物は細胞でできている」と主張した人物だと記録されています。
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