加熱すると伸びる石
ナメクジのような姿で、伸びたり縮んだりする、ヒル(蛭)という生き物を知っていますか。山歩きをしていると、足などにくっついたヒルに、知らないうちに血を吸われていることがあります。
このヒルに似た鉱物なので、名前は「蛭石(ひるいし)」。どの辺が似ているかというと、薄い板が重なったような蛭石の結晶を、ガスバーナーなどで強く加熱すると、板と板の間が広がってモコモコと伸びるのです。ちょうどアコーディオンの蛇腹(じゃばら)を広げるような感じ。
しかも、伸びる時にミミズのようにくねりながら伸びるので、その様子がますますヒルを連想させます。
実は2種類ある
写真の蛭石の正確な鉱物名は、「苦土蛭石(くどひるいし)」といいます。「苦土」はマグネシウムを意味する漢字なので、「マグネシウムを含む蛭石」という意味。先ほど少し触れた通り、加熱する前の蛭石の結晶は薄い板が重なったような形をしているのですが、板と板の間には水分子と原子が挟み込まれています。苦土蛭石の場合、ここに挟まれている原子がおもにマグネシウムなのです。
実は、「蛭石」という名前で呼ばれる鉱物にはもう一種類あって、そちらの正式な鉱物名は「水和黒雲母」といいます(※「加水黒雲母」とも)。水和黒雲母は、「黒雲母」という鉱物が風化により水和して、水分子を含むように変質したもの。水和黒雲母の場合、板と板の間に挟まれているのは、おもにカリウムと水分子です。
この2種類の鉱物は、どちらも強い加熱によって伸びる性質があるので、ともに蛭石と呼ばれています。写真では苦土蛭石を特に取り上げましたが、苦土蛭石も水和黒雲母も、似たような鉱物です。
水はけが良く、園芸用の土として人気
鉱物の分類の大きなくくりで、「雲母(うんも)」という鉱物グループがあります。このグループの鉱物は、ペラペラと剥がれやすいことが多く、原子の並び方にも共通点があります。苦土蛭石も、水和黒雲母も、同じく雲母の仲間。
さて、これら2種類の蛭石のうち、私たちにとって身近なのは、実は水和黒雲母の方です。ホームセンターなどに行くと、蛭石は「バーミキュライト」という名前で園芸用に販売されているのですが、そのほとんどが水和黒雲母の蛭石だからです。加熱して引き伸ばされた蛭石は水はけが良く、鉢植えの土としてよく使われています。
なお、水和黒雲母の学名は「ハイドロバイオタイト」、苦土蛭石の学名が「バーミキュライト」です。上記の通り、園芸用に販売されている「バーミキュライト」のほとんどは水和黒雲母なので、学名と一致していないことに注意が必要です。
鉱物の解説:苦土蛭石(くどひるいし)
雲母の仲間で、ペラペラと剥がれやすいのが特徴です。苦土蛭石の結晶は、目に見えないほど薄い原子の層が、何枚も積み重なってできています。そして、層と層の間には、水分子とマグネシウムなどの原子が挟み込まれています。また、層の境界が結晶の割れやすい面(劈開面)になっていて、そのために結晶が簡単に剥がれてしまいます。
苦土蛭石が加熱によってヒルのように伸びるのは、層と層の間の水分子が原因です。ガスバーナーなどで強く加熱すると、中の水分子が一気に水蒸気になって、層と層の間を押し広げるのです。
基本的には黒雲母(正式な鉱物名としては金雲母や鉄雲母)が風化してできる鉱物ですが、風化のほかに、地下深くの高温の地下水が原因でできることもよくあります。
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