古くから黄色の鉱物顔料として使われてきた
石黄(せきおう)は、すりつぶして粉にすると明るく鮮やかな黄色になることから、古くから黄色の鉱物顔料(岩絵具)として使われてきました。結晶の粒が大きいときは暗いオレンジ色に見えますが、こちらの写真のように細かい結晶のかたまりになっているときは鮮やかな黄色で、割れ口では黄金色(こがねいろ)の真珠光沢が見られます。特に新しい割れ口のキラキラした輝きは美しく、「黄金色」は決して大げさな表現ではありません。
石黄の学名は「オーピメント」。この名前は、「金」を意味するラテン語「アウルム」と、絵の具などの色塗り用の材料を意味する「ピグメントゥム」に由来します。
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大粒の結晶は暗めの樹脂光沢
透明な鉱物の輝きの強さは、基本的に屈折率の数字が大きいほど強くなります。輝きが強いことで有名なダイヤモンドは、屈折率が2.42。それに対し、石黄の屈折率は2.40〜3.02です(結晶の向きによって異なるため、数字に幅があります)。屈折率だけに着目すると、ダイヤモンド並みか、それ以上に輝きが強いわけですね。
ただし、石黄の場合は結晶の表面がダイヤモンドほど滑らかでないため、光沢(ツヤ)の種類で言えば、「ダイヤモンド光沢」ではなく「樹脂光沢」になります。樹脂光沢は、透明なプラスチックやハチミツのようなツヤのことで、結晶の粒が大きいときにその様子がよくわかります。
一方、冒頭で紹介したように、結晶の粒が細かく、全体として不透明なかたまりになっている石黄では、割れたばかりの面で真珠光沢が見られます。真珠光沢は、内側から湧き上がってくるような優しい輝きで、結晶の表面だけでなく、少し内側からも光が反射するためにこのような輝きになります。
口に入れると危険
すりつぶせば明るく鮮やかな黄色の鉱物顔料になり、細かい結晶のかたまりでは黄金色(こがねいろ)の真珠光沢を持つ、美しい石黄。その成分は、実はヒ素と硫黄です。ヒ素は、酸素と結合して水に溶けると、猛毒の亜ヒ酸になる危険な元素。
ただし、石黄はヒ素と硫黄でできた鉱物であり、酸素と結合しているわけではないので、手で触るくらいなら特に問題はありません。
でも、ひとたび酸素と結合すれば、ヒ素は少量でも毒性が強いため、誤って口に入れないよう、十分に注意する必要があります。ヒ素の毒性が明らかになった現在では、石黄から作られる黄色の鉱物顔料は、ほとんど使われなくなっています。
毒性が明らかになって使われなくなった鉱物顔料は、他にもあります。例えば、かつてオレンジ色の鉱物顔料として使われた鶏冠石(けいかんせき)は、石黄と同じくヒ素を含む鉱物。白色の鉱物顔料「鉛白(えんぱく)」の原料である白鉛鉱も、おもな成分である鉛に毒性があるため、一般には使われなくなりました。
鉱物の解説:石黄(せきおう)
石黄はヒ素(As)と硫黄(S)でできた鉱物で、よく似た成分の鉱物に、赤色の「鶏冠石(けいかんせき)」があります。どちらもおもな成分はヒ素と硫黄だけで、同じ場所で採れることも多い鉱物どうしですが、石黄と鶏冠石では、ヒ素と硫黄の割合が異なります。
また、鶏冠石には、太陽の光に長く当たると黄色く変化する性質がありますが、この黄色い鉱物はパラ鶏冠石といいます。石黄とは別の鉱物です。
石黄は、細かい結晶のかたまりとして、あるいは、切り口が四角形の柱状の結晶などとして見つかることが多いです。細かい結晶のかたまりでも、一つ一つの形がわかる大きな結晶でも、太陽の光に長く当たると光沢が鈍くなります。
和名(日本語名)として「雄黄(ゆうおう)」も使われていましたが、中国では鶏冠石のことを「雄黄(ゆうおう)」と呼び、石黄を「雌黄(しおう)」と呼ぶため、混乱を避けるために、日本では「石黄」あるいは学名の「オーピメント」が広く使われるようになりました。
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