砂金、自然金
Photo: Pixabay

 

マルコ=ポーロが伝えた黄金の国ジパング

13世紀末、イタリアの商人マルコ=ポーロの『東方見聞録』で、日本が「黄金の国ジパング」としてヨーロッパに初めて紹介されたという話は有名です。

『東方見聞録』の中でジパング(日本)は、「中国の東方1500海里にある黄金の島」「ばく大な黄金と真珠の国」などと記載されていると言います。

 

2021年現在、金の産出量の多い国といえば、中国、オーストラリア、ロシアなどですから、日本が「黄金の国」だなんて、遠い昔の話だと思ってしまいますね。

歴史の教科書には、平安時代後期(1124年)に岩手県の平泉に建てられた「中尊寺金色堂」が出てきますし、江戸幕府の財政を支えた新潟県佐渡島の佐渡金山も有名です。

そのほかにも、京都の金閣寺、黄金づくりの祭りみこし、黄金に覆われた仏像(岩手県報恩寺(ほうおんじ)の五百羅漢)など、黄金に彩られた文化遺産は日本の各地に見られます。

 

果たして、これらの黄金文化は過去のものであり、現在の日本には当てはまらないものなのでしょうか。

 

かつての日本に比べ、金の産出量が著しく減ってしまったことは確かでしょう。

実際、平成元年(1989年)には佐渡金山が400年近くに及ぶ歴史に幕を閉じるなど、資源の枯渇が顕著になってきました。

 

しかし、そんな状況にあっても、日本が金の産出国であることは今も変わりません。

それどころか、金鉱石の品位で言えば、「黄金の国ジパング」は今も健在なのです。

 

世界最高品位の金を産出する鹿児島県の菱刈鉱山について、詳しく見てみましょう。

金の含有量が世界トップクラスの菱刈鉱山

カナダ南東部ケベック州の金鉱山で採掘された金鉱石(James St. John / flickr, CC BY 2.0

 

鹿児島県北部に位置する菱刈鉱山は、1983年に本格的な開発が始まった比較的新しい金鉱山です。

400年近くの歴史を持つ佐渡金山に比べれば操業期間は十分の一ほどですが、それにも関わらず、現在までの金の産出量は佐渡金山の総産出量(388年間で83トン)をはるかに上回ります。

 

なんと菱刈鉱山の金の産出量は、年間約6トン。

すでに累計で248トンもの金を掘り出し(2020年3月末時点)、確認されているだけでも残りの埋蔵量は150トン以上とされています。

一年に平均6トンを産出するとすると、あと25年ほどは操業できることになりますね。

 

さて、佐渡金山をはじめ、日本各地の金鉱山が次々と閉山する中、菱刈鉱山だけが現在も操業を続けられている理由は、金鉱石の品位の高さにあります。

金鉱石の品位とは、「掘り出した金鉱石の中にどれだけの金が含まれているか」という意味で、つまりは金の含有量のことです。

 

世界的に見てみると、金の含有量は平均で鉱石1トンあたり5グラムほど。

それに対し菱刈鉱山の金鉱石は、平均で30グラムという世界最高品位を誇ります。

そのため、製錬に要するコストを安く抑えることができ、採算性の高い操業が可能になっています。

 

菱刈鉱山は「奇跡の金鉱山」と呼ばれるほど特別な存在ですが、日本が今も金の産出国であることを物語る何よりの証拠と言えるでしょう。

川で砂金が採れる国、日本

東京都多摩川(京浜にけ / Wikipedia, CC BY-SA 3.0

 

この国が「黄金の国ジパング」であることを思い起こさせる、もう一つの良い例があります。

それは、日本各地の川で今でも砂金が採れること。

 

例えば北海道の浜頓別町や中頓別町(北端の稚内から少し南にある町)では、砂金採掘公園や自然河川で砂金を採ることができます。

その際、特別な道具も高度な技術も特に必要ありません。

大きめのプラスチック皿、ふるい、スコップといったシンプルな道具を準備するだけで、誰でも砂金を採ることができるのです。

 

北海道のほか、黄金づくりの文化財が数多く残る東北地方や、佐渡金山があった新潟県佐渡島の川でも砂金が採れますし、北陸地方でも、石川県の犀川、福井県の足羽川などで見つかるそうです。

関東地方では東京都の多摩川、近畿地方では兵庫県の加古川などが有名です。

東京で砂金が採れるなんて、ちょっとした驚きではないでしょうか。

 

さらに、このような有名どころだけでなく、砂金は日本各地の河川で採れると言われています。

お近くの自然河川で試してみるのもいいかもしれませんね。

 

川で砂金が採れる国、日本。

地質学的に見れば、日本の土地は、間違いなく金を産出する地質環境であるということです。

そういう視点を持つと、マルコ=ポーロの「黄金の国ジパング」という表現も、なんだか身近に感じられますね。

参考文献

柴山元彦『身近な美鉱物のふしぎ』(SBクリエイティブ,2019)

コトバンク『東方見聞録』『ジパング

外務省『金の産出量の多い国

株式会社ゴールデン佐渡『史跡 佐渡金山

住友金属鉱山『菱刈鉱山

東洋経済オンライン『年6トン!鹿児島にある「奇跡の金山」の秘密』(2017年10月18日)

朝日新聞デジタル『金の含有量は世界の10倍 鹿児島・菱刈鉱山を歩く』(2019年12月28日)

週刊エコノミストOnline『「1トンあたり40グラムの金」品質では世界一の金山「菱刈鉱山」とは何か』(2020年11月22日)

もっと知りたい人のためのオススメ本

渡邉克晃『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』(ベレ出版,2022)

書影『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』渡邉克晃(2022年11月18日刊行)
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※この記事の内容を含め、身近な地質学の話題がたくさん紹介されています。

黄金の国ジパングは今も健在。世界最高品位の金を産出する菱刈鉱山(渡邉克晃『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』より)