アスベストの多くがこの鉱物
鉱物なのに、ほつれた細い糸のようにふわっとしていて、まるで綿のようですね。このクリソタイル石こそ、有名な「アスベスト(石綿)」の正体です(※石綿は「せきめん」とも読みます)。
アスベストは、火をつけても燃えず、熱や摩擦などにも強い繊維。そのため、その優れた性質を生かし、かつては建物用の吹きつけ材やさまざまな工業製品の材料として、幅広く使われていました。
例えば、建物の壁や屋根などにアスベストを混ぜたセメントを吹きつければ、それだけで火事に強くなりますし、断熱や防音などの効果も期待できたのです。
危険すぎて法律で使用禁止になった
そのように優れた材料だったアスベストですが、1950年代ごろから、肺がんや中皮腫(肺をおおう膜にできるがん)の原因になることが明らかになり、現在では法律で完全に使用が禁止されています。
また、使用が禁止れたといっても、過去に使われたアスベストが今もたくさん残っているので、その扱い方についても厳しくルールが決められています。例えば、アスベスト入りのセメントを吹きつけた建物を壊すときには、作業する人がアスベストを吸い込まないように特別なマスクをつけるようにしたり、建物の周囲に飛び散らないようにシートで囲んだりしなければなりません。
アスベストの正体である繊維状のクリソタイル石(および、後述するリーベック閃石など)が、吸い込んだ人に肺がんや中皮腫を引き起こすのは、非常に細い繊維状の結晶が肺まで吸い込まれると、体外に排出できなくなり、体内に異物として長く留まるからです。
その細さは、直径2万分の1 mmほど。人の髪の毛(直径10分の1 mmほど)よりもはるかに細く、一本一本は目に見えません。
健康被害が出るのは15年以上も先
これほどに細い結晶なので、小さく折れた破片が空気中に飛び散ると、そこにいる人たちは簡単に吸い込んでしまいます。だから、アスベストを使った建物を壊すのはとても危険な作業なのです、
そして、肺がんや中皮腫になるのは、アスベストを吸い込んでからだいたい15年以上、長い場合は50年ほども経ってからのことであり、ずっと前にアスベストを吸い込んでいた人が、今になって肺がんや中皮腫にかかることも多いのです。実際、アスベストが原因の中皮腫で亡くなった人は、1995年ごろから現在まで、どんどん増え続けているということです。
日本や世界で使用されてきたアスベストの多くはクリソタイル石ですが、クロシドライト(リーベック閃石)やアモサイト(グリュネル閃石)など、ほかにもいくつかの鉱物がアスベストとして使われてきました。日本では、クリソタイル石を白石綿(しろいしわた)、クロシドライトを青石綿(あおいしわた)、アモサイトを茶石綿(ちゃいしわた)と呼んで区別しています。
鉱物の解説:クリソタイル石(くりそたいるせき)
クリソタイル石は「蛇紋石(じゃもんせき)」という鉱物グループの一種で、繊維状のものはアスベスト(石綿)として利用されてきました。おもに蛇紋石でできた暗緑色の岩石が「蛇紋岩」であり、代表的な変成岩の一つです。
アスベストには、「白石綿」のクリソタイル石以外にもいくつかの鉱物が使われましたが、「青石綿」のクロシドライト(繊維状のリーベック閃石)や「茶石綿」のアモサイト(繊維状のグリュネル閃石)は、蛇紋石ではなく角閃石の一種です。
クリソタイル石の名前の由来は、ギリシャ語の「クリソス(金)」と「ティロス(繊維)」で、意味は「金色の繊維」。名前の通り、繊維状のクリソタイル石の塊はしばしば絹糸のような美しい輝きを持っていて、その様子は「絹糸(けんし)光沢」と表現されます。
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