透明で美しく、水晶よりも硬い鉱物
ユークレース石の結晶は透明度が高く、その上、水晶よりも高いモース硬度を持っています。モース硬度とは、鉱物どうしをこすり合わせたときの傷のつきにくさを10段階で表したもので、水晶(鉱物名としては石英)のモース硬度が7であるのに対し、ユークレース石のモース硬度は7 ½。つまり、水晶とユークレース石をガリガリとこすり合わせると、水晶の方に傷がついて、ユークレース石には傷がつかないということです。
水晶の硬度は宝石として利用するのに十分な高さなので、硬度だけ見ると、ユークレース石も宝石になりそうですね。ところが、ユークレース石はとても割れやすく、宝石に加工されることはほとんどありません。
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硬いのに割れやすいってどういうこと?
硬いのに割れやすいって、一体どういうことでしょうか。
鉱物の重要な性質の一つに、「劈開(へきかい)」というものがあります。劈開とは、ハンマーなどで叩いたときに、平らな面でスパッと割れる性質のこと。劈開がある鉱物の例としては、方解石や蛍石がよく知られています。先の尖ったタガネとハンマー、あるいはニッパーなどを使って丁寧に割っていくと、方解石は写真のように四角い箱を少しつぶしたような形に、蛍石はピラミッドを2つ貼り合わせたような形(正八面体)に自然になっていきます。
劈開がはっきりしている鉱物は、たとえ硬度が高くても、衝撃によってわりと簡単に割れてしまいます。ユークレース石は劈開がとてもはっきりしている鉱物なので、宝石職人さんがカットしようとすると、割りたい場所ではなく、劈開の性質に従ってどんどんと勝手に割れていってしまうのです。これでは宝石として、うまく加工できませんね。
劈開の強さと方向は鉱物によってさまざま
劈開という性質は、「あるか、ないか」で単純に分けられるものではありません。劈開のある鉱物の中には、ユークレース石や方解石、蛍石のように、きれいな面でスパッと割れる鉱物もあれば、割れた面がそれほど平らにならない鉱物もあります。
劈開の強さは数値で表すことができず、鉱物ごとに感覚的にとらえるしかありません。はっきりしている順に、「完全」「明瞭」「良好」「なし」などの言葉で表します。
それから、劈開の方向にもいくつかのパターンがあります。
例えば、方解石は3つの方向に割れやすく、その結果、箱の形になります。前と後ろの面、上と下の面、右と左の面で、全部で3方向ですね。
蛍石の場合は、4つの方向です。写真のようにピラミッドを2つ貼り合わせたような形(正八面体)なので、4つあるピラミッドの面それぞれが割れやすい方向ということになります。
ユークレース石の劈開は1方向で、結晶の表面に見られる縦方向の線に沿って割れます。
鉱物の解説:ユークレース石(ゆーくれーすせき)
ユークレース石は、ベリリウム(Be)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、酸素(O)、水素(H)をおもな成分とする鉱物です。ベリリウムは、エメラルド(緑柱石)の成分としてもよく知られている元素。ユークレース石の本来の色は無色透明ですが、淡い青色や藍色などの美しい結晶もあり、それらには不純成分として鉄やクロムなどの元素がほんの少し含まれています。
名前の由来は、ギリシャ語で「容易に」を意味する「エウ」と、「ひび割れ」を意味する「クラシス」。はっきりとした劈開があることを表現した鉱物名です。
完全な劈開があるためにカットして加工することが難しく、宝石にするなら研磨によってファセットをつけるだけにします。
※ファセット=鋭く切り取られたような加工面。
もっと知りたい人のためのオススメ本
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