光に長く当たると、黄色く変わって砕けてしまう
鶏冠石(けいかんせき)は鮮やかな赤色をした美しい鉱物ですが、光に弱いという弱点があります。長く光に当たると表面に黄色い粉が現れ、徐々に砕けて不透明な黄色い塊に変わっていってしまうのです。元々の結晶が美しいだけに、とても残念ですね。これを防ぐには、黒い布に包んで薄暗い場所に保管するなど、かなりの注意が必要です。
鶏冠石の「鶏冠」は、「とさか」とも読み、ニワトリの頭についている赤い突起部分のこと。色が似ていることから、この名前がつきました。すりつぶすと明るいオレンジ色の粉になり、江戸時代まではオレンジ色の鉱物顔料(岩絵具)として利用されていました。
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黄色い塊はパラ鶏冠石
鶏冠石が長く光に当たることで、赤い鶏冠石から徐々に変化してできる黄色い塊は、パラ鶏冠石という鉱物です。明るい黄色からオレンジ色まで色合いには幅がありますが、鶏冠石の赤色とは明らかに違う色をしています。何より、鶏冠石のような透明感がパラ鶏冠石にはありません。
パラ鶏冠石の「パラ」は、「近い関係にある」という意味のギリシャ語です。成分は鶏冠石とまったく同じで、原子の並び方に違いがあるだけなので、このような名前がつけられました。
鶏冠石とパラ鶏冠石には、色以外に硬度にも少し差があります。といっても、そもそもどちらも非常に軟らかい鉱物。鶏冠石のモース硬度が1 ½〜2で、パラ鶏冠石が1〜1 ½です。光によって変化する前の鶏冠石でさえ、指の爪で傷がつけられるほどの硬さしかありません。パラ鶏冠石は粉っぽくていかにも軟らかそうですが、鶏冠石の方は透明度が高くてツヤもあり、見た目には硬そうに見えるので、ちょっと意外です。
成分が同じで原子の並び方だけ違う鉱物たち
鶏冠石とパラ鶏冠石のように、成分はまったく同じでも原子の並び方が違えば、それぞれ別の鉱物として名前がつけられます。このような鉱物どうしの関係を「多形関係(たけいかんけい)」といい、例えば、「鶏冠石とパラ鶏冠石とは多形関係にある」といった言い方をします。
多形関係にある鉱物で有名なのは、何といってもダイヤモンドと石墨です。どちらも炭素だけでできていますが、原子の並び方が大きく異なっていて、それが原因で見た目や硬度に明らかな差があります。
また、多形関係の例でもう一つ代表的なのが、方解石(ほうかいせき)と霰石(あられいし)です。どちらも炭酸カルシウムという成分でできていて、元素としてはカルシウム、炭素、酸素の3種類。互いに原子の並び方が違うだけですが、硬度や割れ方(劈開の方向)、そして、同じ体積で比べた時の重さにも差があります。
鉱物の解説:鶏冠石(けいかんせき)
鶏冠石は、ヒ素(As)と硫黄(S)をおもな成分とする鉱物です。
ヒ素は、酸素と結びつくと毒性の強い亜ヒ酸になります。鶏冠石もヒ素を含んでいるので危険な感じがしますが、鶏冠石の中のヒ素は、酸素ではなく硫黄と結びついているため、亜ヒ酸とは別物です。
とはいうものの、誤って口に入れると体内で亜ヒ酸になって害を及ぼす可能性があるので、注意しましょう。普通に手で触るくらいなら、まったく問題ありません。
古くからオレンジ色の鉱物顔料(岩絵具)として使われてきましたが、時間が経つとパラ鶏冠石に変化して色が変わってしまうため、やや使いにくいのが欠点です。その上、亜ヒ酸のおもな成分であるヒ素を含んでいるということで、現在ではほとんど使われていません。
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