静電気を発生させる石
この鉱物が「電気石(でんきせき)」と呼ばれるのは、名前の通り電気を発生させる石だから。といっても、「電池のような石」というわけではなく、残念ながら、電気石の両端に豆電球をつないでも、明かりをつけることはできません。
電気石が発生させる電気は、静電気です。下じきをセーターでこすって頭に近づけると、髪の毛が逆立ちますよね。あれが静電気。
ただし電気石の場合、こすることによってではなく、加熱したり、強い力を加えたりすることで静電気が発生します。ショーケースの中に飾られた電気石の標本は、照明の熱で静電気が発生するため、ほこりがつきやすいそうです。
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下じきの静電気とはちょっと違う
「静電気」と聞いて、ちょっとがっかりした人も多いはず。電気石が電池の代わりになって、電球がつくならすごいですが、静電気では何の役にも立ちません。それに、下じきをこするだけでも静電気は簡単に発生するのですから、電気石じゃない他の鉱物でも、同じように静電気が発生するような気がします。
確かにその通りで、水晶も電気石と同様に、強い力を加えると静電気が発生します。
でも、電気石や水晶のように、力を加えて静電気が発生する物質というのは、実はけっこう珍しいのです。
下じきのように、こすることで静電気が発生する物質なら、いっぱいあります。例えば、プラスチック、ビニール、発泡スチロール、ナイロン、毛皮、ガラスなど。それに対し、力を加えることで静電気が発生する物質は、原子の並び方が少し特別な、一部のものに限られます。
そして、「力」ではなく、「熱」を加えることによって静電気が発生する物質は、さらに特別な存在です。
この静電気は役に立つ
先ほど、「静電気では何の役にも立たない」と言いましたが、電気石に見られるタイプの静電気は、実は私たちの生活にたいへん役立っています。電気石そのものではないのですが、もっと効率よく静電気を発生させる物質を人工的に作って、それらを利用しているのです。
例えば、力が加わることで静電気を発生させる物質は、ガスコンロの着火装置に使われています。つまみを回すと「カチッ」と一回だけ音がする、あれですね。つまみを回した時に力が加わって、静電気によって火花が散り、それでガスに火がつくのです。
それから、熱によって静電気を発生させる物質は、赤外線センサーに使われています。赤外線センサーとは、ヒトや動物から出ている赤外線の熱を感じ取って、自動的に電灯をつけたりするためのセンサーのこと。温度の変化に反応して静電気が発生するので、たとえヒトがセンサーの近くにいても、じっと動かなければやがて静電気は消え、電灯もオフになります。
鉱物の解説:鉄電気石(てつでんきせき)
「電気石」は一つの鉱物につけられた名前ではなく、鉱物の族名(グループ名)で、「〇〇電気石」と呼ばれる鉱物はたくさんあります。その中でもっとも代表的な電気石が、鉄電気石です。おもな成分として鉄(Fe)を含んでいて、黒くて不透明なのが特徴。
電気石の英語名は「トルマリン」なのですが、トルマリンといえば、10月の誕生石にもなっている有名な宝石です。ただし、宝石に利用されるのはおもに「リチア電気石」という種類の電気石で、鉄電気石ではありません。リチア電気石には、おもな成分としてリチウム(Li)が含まれています。
電気石には劈開(平らな面でスパッと割れやすい性質)はありませんが、衝撃にはやや弱く、硬度が高いわりに壊れやすい鉱物です。
もっと知りたい人のためのオススメ本
この記事の内容は、当サイト管理人(渡邉克晃)の著書『へんな石図鑑』からの抜粋です。書籍版もぜひお楽しみください。
『へんな石図鑑』渡邉克晃(秀和システム、2024年)