文字が映し出される不思議な石
テレビ石(てれびいし)は無色透明で、動物の毛のように細長い結晶がびっしりと並んだ鉱物です。この鉱物を、結晶の伸びの方向と垂直に切り出して厚めの板を作り、文字が書かれた紙の上に置いてみます。すると、不思議なことに、板の上側の面に文字が映し出されて見えるのです。その様子が昔のブラウン管式テレビに似ていることから、「テレビ石」という名前で親しまれてきました。
でも、現在のテレビのほとんどは、薄くて鮮明な液晶テレビや有機ELテレビ。映像の見え方がブラウン管式とだいぶ異なるので、そろそろこの名前は引退かもしれません。
より正確な鉱物名は、「曹灰硼石(そうかいほうせき)」または「ウレックス石(うれっくすせき)」です。
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テレビ石から連想される「ブラウン管式のテレビ」とは?
ブラウン管式のテレビは、かなり分厚い形をしていて、どちらかというと箱形に近い見た目です。そして、映像が見える面はゆるやかにカーブしていて、完全な平面ではありません。ここに「ぼわっ」とした感じで映像が出てくるのですが、その映像も、現在の液晶テレビや有機ELテレビほど鮮明ではありませんでした。
このようなテレビだったからこそ、テレビ石の表面に文字が映し出される様子を見て、簡単にテレビを連想できたのです。ブラウン管式のテレビを知らない人にとっては、「なぜこれがテレビ石なの?」と疑問に思うのが普通だと思います。
ちなみに「ブラウン管」というのは、テレビ画面の奥にあるラッパのような形をしたガラス製の容器のこと。中が真空になっていて、広く開いた側が画面の方に向いています。このブラウン管が入っているため、昔のテレビは薄くすることができず、後ろ側が少しすぼんだ、箱のような形をしていました。
テレビ石は天然の光ファイバー
厚く切ったテレビ石の表面に文字などが映って見えるのは、この鉱物が、天然の光ファイバーになっているからです。
光ファイバーというのは、インターネットの光回線ケーブルなどに使われている、透明な繊維のこと。透明度の高い特殊なガラスやプラスチックでできていて、繊維の片方の端から入った光は、繊維の内側に閉じ込められたまま光速(光の速さ)で進み、もう片方の端から放出されます。つまり、光ファイバーに一度入った光は、外に漏れることなく、光ファイバーの先端まで伝わるということです。
これと同じことが、テレビ石でも起こっています。厚く切ったテレビ石の板を、文字を書いた紙の上にのせると、紙の表面で反射した光がテレビ石の繊維(細長い結晶)の中を伝わって、板の上側の面から放出されます。その結果、テレビ石の表面に文字が映し出されて見えるのです。細長い結晶の一本一本が、光ファイバーと同じ働きをしているわけですね。
鉱物の解説:曹灰硼石(そうかいほうせき)[テレビ石(てれびいし)]
「テレビ石」は俗称であり、正式な鉱物名は「曹灰硼石」あるいは「ウレックス石」といいます。「曹」はナトリウム(Na)、「灰」はカルシウム(Ca)、「硼」はホウ素(B)を意味する漢字。化学式を見てみると、おもな成分がそのまま鉱物名になっていることがわかります。
曹灰硼石は、かつての湖や内海(陸地に囲まれた狭い海)が干上がった場所で見つかる鉱物です。地域によってはたくさん採れるので、ホウ素の資源としても利用されています。
ホウ素は、ガラスの原料などに使われる元素。ホウ素を加えて作るガラスには、高温に加熱しても割れにくいという優れた性質があります。そのほか、身近なところでは、強力磁石として知られる「ネオジム磁石」にもホウ素が使われています。
もっと知りたい人のためのオススメ本
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