モーツァルトの没後200年目に発見された鉱物
赤褐色でやや透明感のあるこの鉱物の名前は、モーツァルト石(もーつぁるとせき)。クラシック音楽の作曲家として有名な、あのモーツァルトにちなんで名づけられた鉱物です。
モーツアルト石が初めて発見されたのは1991年ごろのことで、1991年は、ちょうどモーツアルトの没後200年にあたる年でした。とはいえ、鉱物学と関係のない人の名前を鉱物名に使うことは普通ないので、「モーツァルト石」という名前には学者の間でも様々な反対意見があったそうです。
結局、「モーツァルトの音楽は地質学や鉱物学に関連した内容である」というかなり強引な理由で、この名前が採用されることになりました。
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新しい鉱物名は学会で審査される
それにしても「モーツァルト石」なんて、石の名前にしてはとてもオシャレで、華やかな感じがしますね。これまでの伝統にとらわれない独創的な名前ということで、まさに鉱物界のキラキラネーム。名前だけ聞いて、「モーツァルトは、実は鉱物学者でもあったのか!」などと誤解されては困りますが……。
世界で初めて発見された鉱物は「新鉱物」と呼ばれますが、新鉱物の名前は、基本的に発見した研究者(あるいは研究グループ)によってつけられます。
ただし、その名前が正式な鉱物名(鉱物の種名)として採用されるには、鉱物学の世界的な学会である「国際鉱物学連合」の審査に合格しなければなりません。その審査で3分の2以上の賛成が得られることが、合格の基準になっています。
このようにして決められる正式な鉱物名は、アルファベット表記です。和名(日本語名)については、古来の和名を使う場合もありますが、承認された学名(正式な鉱物名)の命名由来となった現地語をもとに、透明鉱物には「石」を、不透明鉱物には「鉱」を使うことが原則です。これに従い、「モーツァルタイト」という学名に対して「モーツァルト石」という和名がつけられました。
ほかにもある、有名人にちなんだ印象的な鉱物名
「モーツァルト石」のほかにも、有名人の名前に由来するちょっと変わった鉱物名はいくつかあります。
例えば、「針鉄鉱」の学名である「ゲータイト」は、ドイツの文豪ゲーテから名づけられました。ゲーテは、『ファウスト』『若きウェルテルの悩み』などの文学作品で有名な作家ですが、科学者、政治家、法律家としても活躍しており、鉱物学にもとても詳しかったそうです。モーツァルトと鉱物学の関係はちょっと怪しいですが、ゲーテについては、確かに深い関係があったのですね。
また、アポロ11号が持ち帰った月の石から発見された新鉱物には、「アーマルコライト」という名前がつけられました。これは、アポロ11号に乗船した3人の宇宙飛行士、アームストロング、オルドリン、コリンズの名前をつなぎ合わせて作られた鉱物名です。名前を聞くだけで人類初の月面着陸を思い出す、なんとも輝かしいキラキラネームですね。
鉱物の解説:モーツァルト石(もーつぁるとせき)
カルシウム(Ca)、マンガン(Mn)、ケイ素(Si)、酸素(O)、水素(H)をおもな成分とする鉱物で、水酸化物イオンとケイ酸イオンからなることが特徴のケイ酸塩です。
海底に堆積したマンガンを多く含む地層が、プレートの沈み込みによって地下深くに埋もれると、高い圧力のために巨大な変成岩ができます。そして、その中の一部は、マグマの熱でさらに変化します。
モーツァルト石が見つかるのはこうした変成岩の中ですが、かなり珍しい鉱物なので、まれにしか見つかりません。これまでのところ、最初の発見地であるイタリアと、南アフリカや日本で見つかっています。
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