イギリスの化学者が名前の由来
色が酢味噌(すみそ)みたいだからスミソナイト……というわけでは決してありません。名前の由来は、イギリスの化学者、また鉱物学者のジェームズ・スミソンです。
スミソナイトの日本語の鉱物名は「菱亜鉛鉱(りょうあえんこう)」といい、亜鉛と炭酸イオンからなる「炭酸亜鉛」という物質でできています。昔から「カラミン」と呼ばれる炭酸亜鉛の鉱石が知られていたのですが、ジェームズ・スミソンはその鉱石を詳しく研究して、成分(鉱物の種類)を明らかにした人です。というのも、「カラミン」と呼ばれていた鉱石の中には、炭酸亜鉛ではない別の物質でできているものもあったからです。
こうして、カラミンを研究したジェームズ・スミソンにちなんで、カラミンに含まれる炭酸亜鉛に「スミソナイト」という鉱物名がつけられました。
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スミソニアン博物館の設立に貢献した人物
ジェームズ・スミソンは、カラミンの研究のほかに、アメリカのワシントンD.C.にあるスミソニアン博物館の名前の由来になった人物としても有名です。彼の莫大な遺産がアメリカに寄付され、それによって設立されたアメリカを代表する博物館が、スミソニアン博物館です。
なお、日焼けや虫刺され、かぶれなどの皮ふのトラブルに使われるピンク色の塗り薬「カラミン」は、炭酸亜鉛ではなく、「酸化亜鉛」と「酸化鉄」という別の物質をおもな成分とする薬です。実は、鉱石の「カラミン」の表面には、これらの物質が白っぽいかたまりとしてくっついていることが多く、昔からかゆみをおさえる薬として使われてきました。
薬の元になっている鉱石名から、薬のことも「カラミン」と呼ばれるようになったそうです。
ピンク色や青色のスミソナイトもある
スミソナイトの色は、酢味噌にそっくりな黄色だけでなく、ピンク色、青色、青緑色など、ほかにもいくつかあります。本来の色は半透明の白色ですが、とても細かい別の鉱物の粒が混ざったり、おもな成分以外の元素が不純成分としてわずかに含まれたりすることで、鮮やかな色のスミソナイトになるのです。
酢味噌色の黄色は、「硫カドミウム鉱(りゅうかどみうむこう)」という、カドミウムと硫黄でできた鉱物の粒が原因です。「粒」といっても、目に見えないほど細かい、小さな小さな鉱物の粒。
ちなみにスミソナイトの黄色のことを、英語では「ターキー・ファット・イエロー」と呼ぶそうです。日本語にすると「七面鳥の脂肪の黄色」。酢味噌とはずいぶんイメージが違いますね。
また、ピンク色は、不純成分としてマンガンが含まれることが原因です。
青色と青緑色の原因は複雑で、不純成分として含まれる銅や、細かい別の鉱物の粒子(水亜鉛銅鉱や異極鉱)が関係していると考えられています。
鉱物の解説:スミソナイト[菱亜鉛鉱(りょうあえんこう)]
亜鉛(Zn)と、炭素(C)および酸素(O)からなる炭酸イオンをおもな成分とする鉱物です。亜鉛も亜鉛イオンとして含まれていて、プラスの電気を帯びた亜鉛イオンと、マイナスの電気を帯びた炭酸イオンがくっつくことで、鉱物の結晶ができあがっています。
イオンどうしが結合してできるこうした物質を「塩(えん)」と呼び、スミソナイト(菱亜鉛鉱)の場合は炭酸イオンをおもな成分とする塩(えん)なので、「炭酸塩」といいます。
本文でスミソナイトのことを「炭酸亜鉛」と紹介しましたが、炭酸亜鉛は、「亜鉛の炭酸塩」と言い換えることもできます。
真珠を構成する物質(炭酸カルシウム)は、亜鉛の代わりにカルシウムを含む炭酸塩です。
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