松茸のような、シメジのような……
まるでキノコのように見えますが、これも石です。石といっても「キノコの化石」というわけではなく、水晶の一種。
このような水晶は、日本では「松茸水晶(まつたけすいしょう)」という変種名で呼ばれています。確かに松茸にも見えますが、上の写真のように寄り集まってかたまりになっていると、松茸というより、むしろシメジに見えますね。
こんな水晶を山で見つけたら、とても石だとは思えないのですが、よく見るとキノコと明らかに違う点があります。それは、先が尖っていること。キノコの頭は丸いので、このとんがりが、水晶であることをはっきりと主張しています。
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分かれているように見えるけど、ひとつの結晶
「松茸水晶」を松茸らしく見せているのは、形と色です。
普通の水晶は、六角形の柱がまっすぐに伸びたような形をしていて、先端が尖っているのですが、松茸水晶の場合、頭の部分だけが柱よりも明らかに太くなっています。その上、柱の部分は白っぽいのに、頭の部分は黒っぽい茶色(冒頭の写真)。
このはっきりとした色分けがなければ、ここまでキノコそっくりには見えなかったでしょう。
ところで、これら一本一本の「キノコ」は、ひとつの結晶でできています。柱の部分と頭の部分に分かれて、2つの結晶がくっついているわけではありません。
水晶の結晶は、最初にできた小さな柱が、徐々に長く太くなるように成長していきます。地下水に溶け込んだ水晶の成分が、柱の先端やまわりにくっつくことで、だんだんと大きくなるわけですね。
成長の途中で地下水の温度や成分が変化した
細くて長い水晶になるか、太くて短い水晶になるかは、地下水の温度や成分によって変わってきます。同様に、水晶の色がどんな色になるかも、おもに地下水の成分によって決まります。
つまり、キノコ形で、2色に色分けされた水晶ができるには、結晶の成長の途中で、地下水の温度や成分が大きく変化する必要があるのです。
例えば、水晶が成長している場所(地下水で満たされた地下の空洞)に、別の熱い地下水が急に流れ込んできたのかもしれません。あるいは、地下水の温度が下がりすぎるか、水が枯れるかして、水晶の成長が途中でいったん止まったのかもしれません。その後、新たな熱い地下水が流れ込んできて、再び成長し始めたというわけです。
いずれにしても、「第2世代」がキノコの頭の部分になります。
なお、「松茸水晶」と呼ばれる水晶には、水晶らしい透明な結晶もあります。松茸水晶のことを英語では「セプタークォーツ」といいますが、セプターとは、先端に丸い飾りのついた王笏(おうしゃく、王様が持つ杖)のこと。透明な松茸水晶は、確かに王笏のイメージにぴったりですね。
鉱物の解説:石英(せきえい)[水晶(すいしょう)]
無色透明の水晶や紫色のアメシストと同じく、松茸水晶も、鉱物としては石英です。冒頭の写真のような不透明な松茸水晶には、「水晶」という名前から連想される美しいガラス光沢はありませんが、「透明だから水晶」というわけではありません。石英のうち、結晶の形がはっきりと見られるものを「〇〇水晶」と呼んでいます。
「石英」という鉱物名(鉱物種につけられた名前)に対し、「水晶」「アメシスト(紫水晶)」「松茸水晶」などの別名は、「変種名」と呼ばれます。基本的に鉱物名は、ある決まった成分と原子の並び方に対してつけられますが、変種名は、おもに色や形など、見た目の特徴に対してつけられます。変種名が違っていても、同じ鉱物名なら、鉱物としての本質的な違いはありません。
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