劈開がとてもはっきりした鉱物
こちらの写真、シワのよったアルミ箔ではありません。これも鉱物で、名前は「輝水鉛鉱(きすいえんこう)」といいます。
葉っぱのような薄くて細かい結晶がたくさん集まっているようにも見えますが、実は写真の標本は輝水鉛鉱の一つの結晶です。横幅が3.4cmですから、けっこう大きな結晶ですね。
鉱物の結晶が、ある平らな面できれいに割れる性質を「劈開(へきかい)」といいます。そして、その割れた面のことを「劈開面」といいます。輝水鉛鉱の劈開はとてもはっきりとしていて、表面のキラキラした面は、ほとんどが劈開面です。剥がれるように割れるので、もともとの結晶の表面が残っていないのです。
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ペラペラ剥がれるし、指でこするとスベスベ
輝水鉛鉱の割れ方は非常に薄く、「割れる」というよりは、「剥がれる」と言った方が適当です。結晶の表面を手でさわっただけで、銀色のかけらがペラペラと剥がれて、指にくっついてきます。
チョコレートやガムなどのお菓子を包んでいる銀紙、ちょっと思い出してみてください。あの銀紙は、薄い紙にアルミ箔を貼りつけて作られています。
食べ終わった後の銀紙を、くしゃくしゃにしたり、折ったり、広げてみたりしたことはありますか。弱くなった銀紙からは、アルミ箔がだんだんと剥がれて手につくようになるのですが、輝水鉛鉱から剥がれてくる薄いかけらも、まさにそんな感じです。
また、指についた輝水鉛鉱のかけらを指の間でこすり合わせると、スベスベしてとても気持ちがいいです。なぜそんな風に感じるかというと、小さくなった輝水鉛鉱のかけらが、さらに細かく劈開面に沿って剥がれながら、互いに滑っているからです。
薄く剥がれるのは、原子の並び方のせい
輝水鉛鉱の成分は、モリブデン(Mo)と硫黄(S)です。こちらの図は原子の並び方(結晶構造)を示していて、紫色のボールがモリブデンの原子を、黄色のボールが硫黄の原子を表しています。よく見ると、モリブデン原子が硫黄原子に挟まれて、一つの層を作っていますね。そして結晶全体では、その層が何枚も重なった形をしています。
この図は、ペラペラと剥がれる輝水鉛鉱の結晶を、横から見たものになります。つまり、層と層の間で、輝水鉛鉱は薄く剥がれているのです。その一枚の層の厚さは、0.6 nm(ナノメートル)ほど。1 mmのおよそ160万分の1という、ものすごい薄さです。
指でさわった時に剥がれてくるかけらは、これよりずっと厚く、何枚もの層が一度にごそっと剥がれた状態です。ということは、かけらにはまだまだ剥がれる場所がたくさん残っているわけですね。そのため、かけらを指の間でこすり合わせると、さらに細かく剥がれ、スベスベした手触りを感じることができるのです。
鉱物の解説:輝水鉛鉱(きすいえんこう)
モリブデン(Mo)と硫黄(S)でできた鉱物です。結晶の色は、黒っぽい灰色、あるいは少し青みを帯びた灰色ですが、劈開面に沿って剥がれやすく、ほとんどの場合、キラキラ光る銀白色(ぎんぱくしょく)の劈開面が見えています。
輝水鉛鉱の「水鉛」は、モリブデンを表す古い日本語です。元素のモリブデンは、1778年に輝水鉛鉱から発見されました。モリブデンの資源となるほぼ唯一の鉱物です。
輝水鉛鉱のモース硬度は1〜1 ½で、鉛筆の芯に使われている石墨と同じです。細かい結晶だと見た目も似ていますが、石墨の方が黒く、見分けるのは難しくありません。特に、粉にした時の色(条痕色)が、輝水鉛鉱は灰色で、石墨は黒色なので、違いは明らかです。
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