硫黄そのものは臭くない
噴気を上げている火山や温泉地に行くと、「硫黄のニオイがする」と言われることがあります。茹ですぎた卵のような、鼻にツンとくるニオイです。
このニオイ、実は硫黄のニオイではなく、火山ガスに含まれている「硫化水素」と「二酸化硫黄」のニオイです。硫化水素は、硫黄の原子1個と水素の原子2個が結合した気体で、二酸化硫黄は、硫黄の原子1個と酸素の原子2個が結合した気体。どちらにも硫黄が含まれているものの、硫黄そのものにはニオイはありません。
写真の黄色いかたまりは硫黄だけでできた固体で、鉱物名は「自然硫黄」といいます。
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火山ガスの化学反応で硫黄ができる
硫化水素と二酸化硫黄は、どちらも似たような刺激臭を持つ気体ですが、茹ですぎた卵に実際にできているのは、硫化水素の方です。卵のタンパク質が分解されることで、硫化水素が発生します。
一方、二酸化硫黄は、硫黄分が完全に除去されていない質の悪い石油製品を燃やした時に発生する気体で、かつて自動車の排気ガスに含まれていました。
そして、鉱物である自然硫黄は、これら2つの気体から作られます。高温の火山ガスが地表に噴出して、ガスの温度が下がると、その中に含まれていた硫化水素と二酸化硫黄が化学反応を起こし、硫黄と水分子ができるのです。そのため、自然硫黄ができるもっとも代表的な場所は、火山や温泉地の噴気孔の周辺です。
硫黄そのものにニオイがないのは、固体であることとも関係しています。人間がニオイ(匂い・臭い)を感じるのは、ニオイのする物質が鼻の中に入った時。つまり、気体か、霧になった液体か、または空気中をただようほど細かい固体の粉でないと、鼻の中には入らず、ニオイを感じないのです。
死ぬこともある危険なガス
硫化水素と二酸化硫黄は、ニオイがキツイだけでなく、とても毒性の強い危険なガス(気体)です。
硫化水素については、ガスが濃くなる(濃度が高くなる)につれ、頭痛、めまい、目の痛み、喉の痛み、嗅覚のまひなどが起こり、さらに濃くなると呼吸が困難になり、死ぬこともあります。空気中の濃度(体積の割合)が0.1%を超えると、一回の呼吸で命を落とすほどの猛毒です。ただ、観光地になっている火山や温泉地では、普通はその1000分の1以下の濃度しかないので、死ぬ心配はありません。
二酸化硫黄についても、目、喉、鼻などの粘膜(いつも湿っている部分)に痛みが出る点では、硫化水素と似ています。濃度が高い場合には、呼吸が困難なほど咳がひどくなったり、肺炎などの重い病気になったりすることがあります。
鉱物の自然硫黄も、人工的に作った硫黄も、そのままでは毒性はありませんが、これら固体の硫黄を燃やすと、有毒な二酸化硫黄が発生します。
鉱物の解説:自然硫黄(しぜんいおう)
天然にできる硫黄100%の物質が、自然硫黄です。火山の噴気孔でよく見られ、かつては硫黄の資源として大量に採掘されていましたが、現在は石油精製の副産物から作られる人工の硫黄に取って代わられました。硫黄は、化学薬品、医薬品、火薬、マッチ、ゴムなどの原料として、さまざまな産業で使われています。
ちなみに、「石油精製の副産物」とは、硫化水素のことです。その硫化水素の一部を燃やすことで二酸化硫黄を作り、できた二酸化硫黄と硫化水素を化学反応させることで、硫黄を作っています。
火薬の原料になる硫黄ですが、そのままでも燃えやすく、火をつけると青白い炎を上げて燃えます。
自然硫黄にしばしば見られる、油を塗ったようなベタっとした感じのツヤは、「樹脂光沢」と表現されます。
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