
鉄の量によって色が変わる
まるで透明感のない真っ黒な上の写真の鉱物と、下の写真の茶色い透明な鉱物は、実はまったく同じ種類の鉱物です。どちらもおもな成分は亜鉛と硫黄で、鉱物名は「閃亜鉛鉱(せんあえんこう)」。
鉱物の中には、太陽光に長く当たると、色が変わったり輝きが鈍くなったりするものもあるのですが、閃亜鉛鉱の場合、黒色の原因は太陽光ではありません。
おもな成分である亜鉛の一部が鉄と入れ替わることで、色が黒っぽくなり、透明感も失われるのです。鉄の割合はさまざまで、鉄が少ない閃亜鉛鉱は黄褐色や赤褐色。鉄が増えるにつれて、暗褐色、黒色へと連続的に変化していきます。
コーヒーゼリーのような深い赤褐色

鉄が少ない閃亜鉛鉱は、基本的には黄褐色になるのですが、鉄とともに少量のマンガンが加わると、この写真のように赤みを帯びた褐色になります。結晶の形が見えず、全体に不規則な割れた面が見えていると、なんだかクラッシュしたコーヒーゼリーのような雰囲気です。光沢の種類としては、「樹脂光沢」と表現されます。
最初の写真の黒色の閃亜鉛鉱と比べれば、ほどよい透明感のあるコーヒーゼリー色のこのタイプは、確かに鉄の量が少ない閃亜鉛鉱だといえます。
でも、鉄の量が「極めて少ない」というわけではありません。上には上があり、もっと鉄の量が少なくなると、下の写真のような淡い黄褐色の結晶になります。色が薄くなることで、透明度が高くなっていることがわかりますね。
色の美しさに加えて、閃亜鉛鉱は輝きも強く、表面が滑らかな結晶では、その輝きはしばしば「ダイヤモンド光沢」と表現されるほど。実際、輝きの強さを決める「屈折率」の数値で見れば、閃亜鉛鉱の屈折率はダイヤモンドに匹敵します。
美しくても宝石には不向き

透明度が高く、ダイヤモンドに匹敵する輝きをもつなら、宝石としても利用できそうですね。ただ、残念ながら閃亜鉛鉱の硬度はあまり高くありません。モース硬度で表すと3 ½〜4で、蛍石よりもやや低く、孔雀石と同じくらい。これでは身につけているだけですり傷だらけになってしまい、宝石には不向きです。
また、閃亜鉛鉱には劈開(へきかい;平らな面でスパッと割れやすい性質)があり、結晶が欠けたり割れたりしやすいので、そもそも宝石に加工するのがたいへんです。閃亜鉛鉱の場合、カットしたり磨いたりせず、自然のままの美しさを鑑賞するのが良さそうです。
ところで、閃亜鉛鉱の物質名は、「硫化亜鉛」といいます。
鉄やマンガンをまったく含まない純粋な成分の閃亜鉛鉱(天然の硫化亜鉛)はまず見られませんが、人工的に、そのような純粋な硫化亜鉛を作ることはできます。その場合、色は無色透明。ある意味、これが閃亜鉛鉱の本来の姿ということになります。
鉱物の解説:閃亜鉛鉱(せんあえんこう)

亜鉛(Zn)と硫黄(S)でできた鉱物ですが、さまざまな割合で鉄(Fe)を含むのが普通で、鉄の割合が増えるほど黒っぽく不透明になります。
こちらの写真のように、完全に不透明な結晶はしばしば金属光沢をもち、鉛(Pb)と硫黄の鉱物である「方鉛鉱」と色合いがよく似ています。方鉛鉱に似ているのに鉛が入っていないということで、ギリシャ語で「裏切り者」を意味する「スファレロズ」から、学名の「スファレライト」が生まれました。
方鉛鉱と閃亜鉛鉱は同じ鉱山で採れ、鉱石中に両方が混ざっていることも普通です。方鉛鉱は鉛の、閃亜鉛鉱は亜鉛の重要な資源となります。
閃亜鉛鉱の「閃(せん)」「閃く(ひらめく)」は瞬間的に輝くという意味です。鋭くキラキラした輝きが名前にも現れていますね。

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