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宮崎駿監督の傑作アニメーション映画『天空の城ラピュタ』に登場する飛行石の洞窟をご存知だろうか。
地下鉱山に迷い込んでしまった主人公たちが洞窟の中でランタンの灯を消すと、壁のあちこちが青白く光出す、あのシーンだ。
幻想的な光景に思わず見とれてしまった人も多いはず。
そんな飛行石の洞窟。
現実にはあり得ない単なる映画のワンシーンかと思いきや、驚いたことに非常によく似た洞窟が実際にも存在するのだ。
リアル版飛行石は、灰重石(かいじゅうせき)と呼ばれる地味な色の鉱物。
タングステンとカルシウムを主成分とする白色または褐色の鉱物で、紫外線ランプを当てると青白く発光する性質を持っている。
日本では山口県の喜和田(きわだ)鉱山・藤ケ谷(ふじがたに)鉱山・玖珂(くが)鉱山、京都府の大谷鉱山・鐘打(かねうち)鉱山、島根県の都茂(とも)鉱山などが灰重石の産地として有名だ。
私は大学生の時、授業の一環で山口県の喜和田鉱山を訪れたことがある。
すでに鉱山は休止していたが、採掘のために掘られた洞窟の内部にはまだ多くの鉱石が残っていた。
当時の回想シーンにしばしお付き合い願いたい。
・・・地表に開いた薄暗い入り口から、先生を先頭にして40人ほどの学生が洞窟の中へと入っていく。
鉱山に入る時はヘルメットとヘッドランプの装着が必須だ。
むき出しの岩肌は鋭くとがり、頭をぶつけようものなら大怪我になる。
探検隊さながらの一団が洞窟の奥深くへ降りていくと、中は意外に広く、40人が集まって座れるほどの空洞があった。
先生の合図でその場に腰を下ろす。
そして「みんな、自分のヘッドランプを消してみて」との指示。
そのとき私が体験した暗闇は、「真の闇」と呼べるものだった。
手を顔の前に近づけても何も見えない。
ほんの10センチ先にある自分の手が全く見えないのだ。
ここまで見えないとさすがに気持ちが悪い。
完全に視覚を奪われるとはこういうことかと妙に納得していると、先生が紫外線ランプのスイッチを入れた。
浮かび上がる青色の光。
洞窟の壁面が青白く光っているではないか。
その光景はまさに、『天空の城ラピュタ』に出てくる飛行石の洞窟そのものだった。
天井も、壁も、自分の足元に落ちている石ころさえも光っている。
言葉が出てこないほど感動的な光景だった。
ああ、地質学を専攻して良かった。
しばし無言の時を過ごし、先生の合図でヘッドランプをつけると、再び茶色い洞窟の岩肌が目の前に現れた。
同じ場所とは思えない劇的な変わり様。
だが、何の変哲もない茶色い岩石に美しい飛行石、もとい、灰重石が隠されていることを知り、俄然サンプリングのモチベーションが上がった。
かくして淡い褐色の鉱石をいくつか持って帰らせてもらったのである(研究用との名目で)。
・・・いかがだっただろうか。
青白く光る洞窟の光景に感動してもらえただろうか。
飛行石の洞窟が実際に存在し、しかも私たちが住む日本でそれを見られるというのは、ちょっとした驚きだと思う。
今回ご紹介したのは灰重石というタングステンとカルシウムからなる鉱物だったが、紫外線ランプで発光する鉱物というのは、実は灰重石以外にもけっこうたくさんある。
ほんの一部を紹介すると、例えば次のようなものだ。
- ホタル石(フローライト):フッ素とカルシウムからなる透明な鉱物。ガラス質の光沢があり、淡緑色、淡黄色、淡青色など様々な色のものがある。紫外線ランプで青紫色に発光する。
- 燐灰ウラン鉱(りんかいうらんこう):リン、カルシウム、ウランなどからなる鉱物で、色は黄色から黄緑色。ガラス質の光沢を持つ。紫外線ランプで黄緑色に発光する。
- マンガン方解石:カルシウムやマンガンなどからなる白色の鉱物。紫外線ランプで鮮やかな赤紫色に発光する。
飛行石の話を聞いて「ぼくも光る石がほしい!家でやってみたい!」と思ったキミ。
鉱山に行って採ってくるのはちょっと難しいので大学に行ってからにしてほしいが、博物館の売店や天然石ショップに行けばわりと簡単に手に入る。
もちろんインターネットでも。
紫外線ランプを当てると発光する鉱物のことを、まとめて蛍光鉱物と呼んでいるので、インターネットで調べる時は「蛍光鉱物」で検索するといいだろう。
また、蛍光鉱物の中で比較的安い値段で手に入るのは、ホタル石である。
壊れにくく無害なので最初に試してみるにはお勧めの鉱物である。
ちなみに、紫外線ランプは別名ブラックライトとも言う。
市販されている簡易的な紫外線ランプは害が少ないとは言え、日焼けを引き起こすあの紫外線(UV)であることに変わりはない。
直接目に当てないようにするのはもちろんのこと、使用上の注意をよく読んで安全に使ってほしい。
もっと知りたい人のためのオススメ本
さとうかよこ『鉱物レシピ 結晶づくりと遊びかた』(グラフィック社,2015)