陶磁器の原料としての粘土
キメの細かい泥のようで、少量の水を加えて練ると粘り気が強くなり、自由に成形することができる粘土。
粘土の最も重要な使い道と言えば、やはり陶磁器ですね。
粘り気があるおかげで器などの好きな形を作ることができ、ガラスの原料である石英や長石を混ぜて高温で焼けば、硬くて壊れにくい製品になります。
陶磁器は字の通り「陶器」と「磁器」を合わせたものであり、「やきもの」とも呼ばれます。
どちらも基本的には粘土、石英、長石が原料で、原料という観点から見ると配合の割合が異なるだけです。
それぞれ、おおよその配合は次の通り。
- 陶器:粘土50%、石英30%、長石20%
- 磁器:粘土30%、石英40%、長石30%
焼き固めた後にガラス成分が多くなるのが、磁器。
どちらかというとガラス成分は少なく、粘土成分が多いのが陶器、ということになります。
ガラス成分が多い分、磁器は水を吸収せず、光にかざすと少し透けて見えます。
焼くときの温度も、陶器は1200℃前後、磁器は1300〜1450℃という風に、磁器の方がより高温。
それから、陶器と磁器の中間に位置する「炻器(せっき)」も、陶磁器に含まれます。
炻器は陶器と同じく光にかざしても透けて見えませんが、磁器と同じく水を吸収しません。
焼き固める時の温度は、陶器よりやや高温です。
陶磁器なしでは語れない現代の生活
さて、このように粘土をおもな原料として作られる陶磁器ですが、私たちの身の回りには、本当にたくさんの陶磁器が溢れています。
まずは食器類。
茶碗や湯呑み、急須、コーヒーカップ、お皿、徳利など、陶磁器は食卓に欠かせません。
調理用具としても、土鍋や食品保存用の「かめ」があります。
昔ながらの「かめ」は、自家製の味噌や梅干し、ぬか漬けなどを作るのに今でも重宝されています。
それから屋外に目を向ければ、屋根瓦があります。
神社やお寺、お城、日本家屋の屋根は、みんな瓦で作られています。
一方、ビルや洋風建築であれば、外壁や床にタイルを貼ったり、レンガを積み上げて塀や壁を作ったりします。
これらもみな陶磁器ですね。
生活用品としては、花瓶、植木鉢、傘立て、火鉢など。
さらに忘れてはならないのが、トイレの便器や洗面器です。
あの白いツルツルの素材は陶器なのですね。
美術や工芸の分野では、陶磁器製のさまざまな置物が作られました。
フォルムと装飾にこだわった壺、あるいは花瓶。
信楽焼(しがらきやき)のタヌキや沖縄のシーサーなどもあります。
2015年には美術作家の小松美羽(こまつみわ)さんと有田焼の窯元がコラボした立体作品『天地の守護獣』(磁器製の狛犬)が、イギリスの大英博物館に収蔵されて話題になりました。
芸術的な側面で言えば、日本の伝統文化である茶道(さどう)や「いけばな」も、陶器なしでは語れません。
また、あまり身近ではないかもしれませんが、下水道管には陶器製の「陶管(とうかん)」が使われていますし、電線には絶縁のために磁器製の「がいし」が使われています。
電柱や鉄塔に付いている白色の大きなそろばん玉のような部品が、「がいし」です。
このように見てみると、私たちの生活は実にさまざまな面で陶磁器に支えられていることがわかります。
陶磁器あってこその今の生活。
そして、その陶磁器は、粘土あってこその陶磁器。
粘土はこんなにも重要な資源なのですね。
陶磁器に使われる粘土の鉱物学
粘土というのは、一般には粘り気のある土のことですが、鉱物学では「粘土鉱物」という一群の鉱物のことを指します。
粘土鉱物は微細であることとシート状であることが最大の特徴で、粒子の大きさはおよそ直径2マイクロメートル(0.002mm)以下。
そして、厚さ1ナノメートル(0.001マイクロメートル)ほどの極薄シートが何枚も重なった構造をしています。
陶磁器に使われる粘土も粘土鉱物を多く含む土であり、粘土鉱物の性質のために粘り気のある土になり、自由に成形することができます。
ここでは特に、陶磁器に使われる代表的な日本の粘土について、どんな粘土鉱物が含まれているのか見てみたいと思います。
陶磁器の原料となる粘土のうち、土のような柔らかい状態のものを陶土(とうど)と言い、硬く固まって石になっているものを陶石(とうせき)と言います。
陶土の代表は、愛知県を中心に三重県、岐阜県、奈良県などで産する木節粘土(きぶしねんど)。
カオリナイトという白色の粘土鉱物が主体の粘土で、炭化した植物の破片が混じっているため、土の色は灰色または黒みを帯びた褐色をしています。
炭化した植物片が木の節に見えることから、この名前が付けられました。
木節粘土は、花崗岩の風化によってできたカオリナイトが水に流されて湖沼に集積したもので、鉱物としてはほぼカオリナイトだけからなり、そのほかに微細な石英などが少し混じっています。
ここで言う風化というのは、花崗岩中の鉱物が長期間水に浸され続けることで元素の一部を失い、化学的に別の鉱物へと変化することを意味します。
カオリナイトへと変化するのは、おもに花崗岩中の長石、それから黒雲母です。
また、木節粘土のほかに、蛙目粘土(がいろめねんど)という陶土もあります。
産地は木節粘土と大体同じで、愛知県、三重県、岐阜県あたり。
やはりカオリナイトが主体の粘土ですが、粒の粗い石英がたくさん混じっており、そこが木節粘土との違いです。
粘土が雨に濡れると石英の粒が光り、それがカエルの目に見えることから、この名前が付けられました。
木節粘土が水に流されてから集積した地層であるのに対し、蛙目粘土は、風化した花崗岩がその場所に留まることでできた地層です。
花崗岩を構成する鉱物のうち、長石と黒雲母は風化作用によってカオリナイトに変化しましたが、石英だけは風化作用に対して抵抗力があるため、粗い粒として残りました。
次に陶石についてですが、有名なのは熊本県の天草地方で採れる天草陶石。
柔らかい土ではなく、硬い岩石として産出します。
とは言っても、花崗岩のようなガチガチに硬い岩石ではなく、アスファルトに字が書けるような、ちょっと柔らかめの白い岩石。
天草陶石に含まれる鉱物を見てみると、先ほどの木節粘土などに比べて石英の割合がずっと多く、多い順に、石英、セリサイト、カオリナイトで構成されています。
石英が多いと言うことは、陶器ではなく磁器に適した原料。
天草陶石は非常に品質が良く、他のものを混ぜることなくそのままで磁器の原料に使えるほどで、佐賀県の有田焼の原料になっています。
石英の次に多いセリサイトは「雲母粘土鉱物」と呼ばれるグループの粘土鉱物で、カオリナイトとはシートの構造と、シート間に含まれる元素に違いがあります。
セリサイトのシートはカオリナイトよりも少しだけ厚く、シート間にカリウムを含むのが特徴。
それに対しカオリナイトの方は、間に元素を挟むことなくシートが重なっています。
天草陶石は、花崗岩の風化によってではなく、流紋岩の熱水変質によってできました。
熱水変質とは、マグマの熱で加熱された熱い地下水が作用して、岩石が化学的に変化すること。
流紋岩は花崗岩とよく似た成分の岩石なのですが、風化作用ではなく熱水変質作用を受けたことで、セリサイトが多く作られました。
以上、木節粘土、蛙目粘土、天草陶石の3つをご紹介しました。
このような天然資源が、日本の陶磁器を、ひいては私たちの日本文化を、支えてくれているのですね。
参考文献
Creema『波佐見に益子に有田焼。その違いって?知るほど面白い、日本の焼き物12種類まとめ』(2018年4月15日)
四季の美『焼き物一覧|陶器・磁器の違いと産地別の特徴まとめ|日本の器大辞典』
日本セラミックス協会『日本のやきもの 陶磁器の主な原料』
ARITA PORCELAIN LAB『天地の守護獣』
コトバンク『炻器』『木節粘土』『蛙目粘土』『天草石』『陶石』
B-OWND『陶芸の基礎知識 ―陶磁器の種類と特性、産地―』
土岐市『焼き物の素地に長石を入れる理由』
KUBOTA『やきもの用粘土をめぐって―木節粘土・蛙目粘土を中心に―』
日本ガイシ『「がいし」ってなに?』
もっと知りたい人のためのオススメ本
渡邉克晃『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』(ベレ出版,2022)
※この記事の内容を含め、身近な地質学の話題がたくさん紹介されています。