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色のついた金属は金と銅だけ

オリンピックのメダルと言えば、金、銀、銅ですね。金と銀は高価な金属なのでメダルの素材としてしっくりきますが、銅だけは、何だか安っぽい気がしませんか。プラチナなど高価な金属は他にもあるのに、なぜ銅が採用されて、金、銀、銅の3つになったのでしょうか。

その理由は、色にあります。単体で色のついた金属は、金と銅だけだから。

意外に思われるかもしれませんが、金と銅を除き、全ての金属は基本的にモノトーン(灰色)なのです。明るい灰色か暗い灰色か、あるいは輝きが強いか弱いかの差はありますが、どれも似たり寄ったり。金や銅のように、明らかに金属の種類がわかるような色をしたものは他に見当たりません。

「じゃあ五円玉に使われている金属はどうなの?」と思うかもしれませんが、あれは黄銅(おうどう)または真鍮と呼ばれる銅と亜鉛の合金で、単体の金属ではありません。また、銅の割合が60〜70%あるので、大きなくくりで見れば黄銅も銅と言えるでしょう。

銅は赤茶色をした金属なので、金、銀、銅が並ぶと互いの色の違いがはっきりとわかり、ひと目で、「これが金」とか「これが銅」と認識することができます。もしも銅の代わりにプラチナを入れて、高価な順に金、プラチナ、銀メダルにしたとしたら、プラチナメダルと銀メダルを見分けるのは容易ではありません。メダルを獲ったオリンピック選手が首からプラチナメダルを下げているところを想像してみてください。「あれ、2位だったの? それとも3位だったの?」となるでしょう。これでは困るので、メダルに採用される金属の色というのは、とても重要なのです。

それでは、金と銅以外に色のついた金属が全くないかというと、無理矢理探せばないこともありません。色が比較的わかりやすいものとしては、オスミウムという金属が単体で青白い色をしています。淡いメタリックブルーといった感じ。

しかしながら、オスミウムは極めて希少な金属である上に、酸素と結合すると猛毒を示すため、メダルを作るなんてとてもできそうにありません。産出量や毒性といった面から見ても、金と銅はメダルの素材として適した金属だと言えるのです。

色がついて見えるのは特定の色の光だけを反射するから

自然金の標本。米国ペンシルバニア州カーネギー自然史博物館。Photo: James St. John / flickr (CC BY 2.0)

 

金と銅に色がついて見えるのは、光の反射特性によります。端的に言えば、金は光の成分のうちの赤色と緑色を比較的よく反射するため、赤と緑の混色で黄金色に見えています。また銅は、赤色をよく反射しつつ、そのほかの色も適度に反射するために、白っぽい赤茶色に見えています。

私たちが普段目にする光というのは、太陽光でも蛍光灯でも、白い光ですね。赤や緑といった色はついていませんので、「〇〇色の光だけを反射する」などと言われてもピンと来ないかもしれません。でも、実は太陽光などの白い光には、虹の7色が混ざっているのです。

つまり、赤、オレンジ、黄、緑、青、青紫、紫の7色の光が混ざった結果、白い光に見えているということ。虹が虹色に見えるのは、空気中の水滴に当たった太陽光が色ごとに7色に分かれて反射するからです。

光が虹の7色でできているということは、虹色に見えるものが身近にたくさんあることでも実感することができます。CDやDVDの表面の色、シャボン玉の色、油の浮いた水たまりの色、コガネムシやタマムシの翅の色、ダイヤモンドのきらめきの色、ビスマス人工結晶の色など、誰でもいくつかは虹色のものを思いつくのではないでしょうか。

もちろんこの7色、ビシッと分けられたストライプになっているわけではなく、その境界はあいまいで連続的に色が変化するので、「7色」というのは便宜的な色の数です。でも7色に分けて考えることで、金や銅の色を含め、物体がなぜその色に見えているかを理解しやすくなるのです。

もう一度、金と銅の色の話に戻りますね。先ほどは簡単に説明しましたが、虹の7色の話を踏まえて、もう少し詳しく見てみましょう。

金の場合、7色のうちの赤、オレンジ、黄色、緑の光についてはよく反射しますが、青、青紫、紫の光はあまり反射しません(下図参照)。反射する4色が混ざることで、黄金色に見えます。

一方で銅の場合は、赤やオレンジの光についてはよく反射しますが、黄、緑、青、青紫、紫の残りの5色はあまり反射しません。ただし、金とは異なり、銅の場合あまり反射しない5色についてもそれなりに反射しますので、銅の色は全体的に白っぽい赤茶色になります。

これに対し銀は、赤から紫までの虹の7色全部をよく反射します。その結果、7色がまんべんなく混ざり、白っぽい灰色になるというわけですね。

金、銀、銅が光を反射するときの、光の波長と反射率の関係(nm:ナノメートル)。波長は光の色に対応していて、その対応関係を示したものが図上の虹色の帯。反射率が高いほど、その波長(色)の光をよく反射することを示している。な お、紫色(波長約380nm)よりも波長が短くなると可視光線の領域から外れ、色をもたない光(紫外線)となる。出典:渡邉克晃『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』ベレ出版

金属中で最も輝きが強いのは銀

金、銀、銅の3種のうち、ようやく銀の話が出てきましたね。

金や銅がメダルの素材に選ばれたのは、色のついた金属が他にないからですが、銀に関しては、灰色の金属というのはそれこそたくさんあります。銀が選ばれたのは、昔から貴金属として使われてきた高価なイメージがあるからでしょうか。あるいは、同じような灰色の金属の中でも、ひときわ明るく輝き、美しいからでしょうか。

そのどちらも理由として当てはまりますが、銀と同じような性質を持った金属が他にないわけではありません。ジュエリー用の貴金属として利用されているプラチナやパラジウムは銀よりも高価ですし、見た目も美しく、その上、銀のようにすぐに錆びたりしないというメリットもあります。ですので、やはり産出量や利用の歴史、イメージなどを含めた総合的な結果として、銀がメダルの素材に選ばれたと考えた方がいいでしょう。

なお、光の反射の度合いで言えば、数ある灰色の金属の中でも銀がナンバーワンです。というより、金や銅も含めて、全ての金属中でナンバーワン。銀は最も光をよく反射する金属なのですね。だからこそ、あのように美しい輝きを放つのです。

参考文献

佐藤勝昭『2006年度「物性工学概論」配布資料

佐藤勝昭『金属の色の物理的起源』(東京農工大学)

もっと知りたい人のためのオススメ本

渡邉克晃『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』(ベレ出版,2022)

書影『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』渡邉克晃(2022年11月18日刊行)
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※この記事の内容を含め、身近な地質学の話題がたくさん紹介されています。

オリンピックのメダルが金銀銅の3つである理由(渡邉克晃『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』より)