青銅器時代の槍の穂先(刀身)。中国。Photo: Gary Todd / flickr

資源として豊富にあったのは青銅よりも鉄だった

文献が残っていないような古い時代を指す言葉に、「石器時代」「青銅器時代」「鉄器時代」の3つがありますが、これらの呼び名は刃物に使われたおもな材料に基づいて区分したものです。「石器時代」は青銅製の刃物が登場する前の時代であり、「青銅器時代」は鉄製の刃物が登場する前の時代。その後に続くのが「鉄器時代」というわけですね。

具体的に何年前か知りたいところですが、それぞれの時代区分に対応する年代は、地域によって異なります。例えば世界最古の文明発祥地の一つ、中東のメソポタミアでは、紀元前3000年ごろから紀元前1200年ごろまでが青銅器時代。同じく青銅器時代に着目すると、ヨーロッパでは紀元前1800年ごろから紀元前500年ごろまでがそれに当たります。

また、エジプトや日本など、地域によっては青銅器時代が短かったり、ほとんどなかったりする場合もあるため、この3つの時代区分は「大まかな文明の傾向」という程度に考えてもらえたらと思います。

紀元前2世紀の弥生時代の銅鐸。Public domain / Wikipedia

 

さて、ここで重要なのは、石器時代の次に青銅器時代が来たという、その順番です。なぜ鉄器時代ではなく、青銅器時代が来たのでしょうか。

歴史の教科書では「鉄器を作る方が技術的に難しかったから」と説明されているかもしれませんが、話はそう単純ではありません。人間が利用できる鉱物資源という観点から見ると、銅と鉄を比べた場合、地表で多く見つかるのは圧倒的に鉄の方なのです。材料が豊富にあるのですから、石器時代の次に鉄器時代が来たとしても、決しておかしくはありませんでした。

それに、いくら技術的に難しいと言っても、「たたら製鉄」と呼ばれる原始的な製鉄法なら砂鉄や鉄鉱石を溶かす必要がなく、鉄の融点(1538℃)よりも遥かに低い温度(400〜800℃)で鉄を作ることができます。その温度は銅の融点(1085℃)よりも低い。

また、「青銅」というのは銅にスズを混ぜて硬度を高めた合金(スズが約10%)ですから、青銅器を作ろうと思ったら、銅のほかにスズも採る必要があります。実はスズの主要鉱石である錫石(すずいし)の産地はかなり限定的で、しかも、錫石を溶かしてスズを取り出すのには高い技術が必要なのです。

これらを踏まえるならば、青銅器というのは資源的にも技術的にも、かなりハードルの高い道具ということになります。そして、最初に述べた通り、資源の豊富さでは圧倒的に鉄器の方が有利。

実際、考古学者も青銅器時代について次のように解説しています。

「人間が地表上至る所にある鉄ではなく、銅そして銅とスズの合金である青銅の冶金術を初めに開発した理由は明らかでない。」(角田文衛『青銅器時代』/日本大百科全書Web版)

銅は単体の金属として産出しやすい

約10億年前(原生代)の地層から産出した自然銅。白い部分は自然銀。米国ミシガン州アッパー半島 Adventure鉱山。Photo: James St. John / flickr (CC BY 2.0)

 

ただ、確実に銅の方が有利である点が一つあります。それは、銅は単体の金属として産出しやすいということ。つまり、銅の鉱石としてではなく、金属の銅として結構な量が掘り出されるため、製錬(鉱石から金属を取り出すこと)をしなくても利用できるのです。

これに対し、鉄の場合は単体の金属として産出することがほとんどありません。鉄を利用するには、砂鉄や鉄鉱石を高温で加熱して製錬する必要があります。砂鉄も鉄鉱石も、酸素と鉄が結びついた鉱物であり、単体の金属ではないのです。

もちろん、本格的に銅が利用されるようになった青銅器時代には、掘り出された銅をそのまま加工して使っていたわけではなく、高温で溶かしてから成形したり、スズと混ぜて青銅を作ったりもしていました。銅鉱石の製錬も行われていたようです。

でも、単体の金属として産出するゆえに、銅はおそらく青銅器時代よりもずっと以前から、人類にとって馴染みがあったことでしょう。実際、石器時代の人々が最初に金属の銅を利用した時期は、紀元前8000年〜紀元前7000年ごろと言われています。

輝きがあり、打ち叩けば自在に変形させられる金属の銅。石とは明らかに性質が違うため、人々の関心も高かったはず。

メソポタミアで青銅器時代が始まったのが紀元前3000年ごろですので、青銅器時代に先立って相当に長い期間、金属の銅は人々に知られていたのです。これだけの「助走期間」があったのですから、石器時代の次に青銅器時代が来たのは、自然な流れであるように思えます。

銅以外に単体の金属として産出するもの

隕鉄の例。ロシアのマガダン州で発見されたセイムチャン隕石(Seymchan Meteorite)。鉄とニッケルからなる。切断面を酸で腐食させた後に研磨したスライス標本で、隕鉄に特有の帯状組織が観察できる。Photo: Steve Jurvetson / flickr (CC BY 2.0)

 

ところで、「鉄は単体の金属で産出することがほとんどない」というのは確かにその通りなのですが、例外的に、石器時代の人々にも利用されていた金属の鉄がありました。それは、隕鉄です。

隕鉄というのは、鉄でできた隕石のこと。正確には鉄とニッケルの合金(鉄が約90%)なので「単体の金属」ではないのですが、いずれにしても金属として利用できる自然物であり、岩石とは一線を画すものです。

隕鉄が石器時代の人々に利用されるようになった時期は紀元前3000年ごろとされており、アクセサリーや短剣などが見つかっています。ただし隕鉄の量は限られているため、鉄器時代がはじまるには砂鉄や鉄鉱石の製錬を待たなくてはなりませんでした。

また、銅と鉄以外で古くから人類に利用されてきた金属に、金や銀があります。特に金の利用は古く、紀元前4000年ごろの古代エジプト王朝にまでさかのぼります。銀は、メソポタミアで紀元前3000年ごろから利用されていたとのこと。

金も銀も、銅と同じく単体の金属として産出しやすいという特徴があります。金については、他の元素と化学反応を起こすことが極めて少ないため、むしろ単体の金属として産出するのが普通です。川で砂金を見つけたら、それはほぼ純粋に近い金だということ。

このように、人類が古くから利用してきた金属には共通して、「鉱石としてではなく単体の金属として産出することが多い」という特徴があることがわかります。言い換えれば、単体で産出しやすい金属というのは、非常に限られているということです。

参考文献

コトバンク『鉄器時代』『青銅器時代

三菱マテリアル『金の発見

京都大学大学院工学研究科『2018年度 鉄鋼材料学

日本伸銅協会『銅の歴史

株式会社セブンシーズ『銀(シルバー)について

日本大百科全書Web版『青銅器時代』

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鉄器時代の前に青銅器時代が来た理由(渡邉克晃『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』より)