『ふしぎな鉱物図鑑』出版インタビュー(全文)

千葉県のラジオ局beyFM様から、ザ・フリントストーンへの出演依頼をいただき、それに先立って書籍や日ごろの活動に関するインタビューを受けました。

日曜夜8時から放送される「ザ・フリントストーン(The Flintstone)」は、自然を愛する人のためのネイチャー&アウトドア・プログラムの先駆けとして、1992年に放送を開始した歴史の長い番組です。

メインコーナーであるゲストトークには、椎名誠さん(作家)、宮崎駿さん(映画監督)、野口健さん(登山家)、土井隆雄さん(宇宙飛行士)、向井千秋さん(宇宙飛行士)、村山由佳さん(作家)、野口聡一さん(宇宙飛行士)、村山斉さん(宇宙物理学者)など、多くの著名な方も出演なさっています。

 

放送の収録は、最初に質問状の形でインタビューを受け、その後にリモートでパーソナリティーの人と対談。

そして、別収録のトークなどと一緒に編集されて、最終バージョンが放送されるという流れになります。

 

そんなわけで、最初のインタビューの内容がそのまま放送されるわけではなく、実際の放送はその一部。

編集の都合上、残念ながら伝えたくても伝えられない部分がけっこうあり、せっかくなので、インタビューの全文をこの記事でご紹介しようと思います。

サイエンスコミュニケーター事業に関する大事な考えなども入っていますので、よかったらご一読ください。

beyFMインタビュー(全文)

地球科学/サイエンスコミュニケーターについて

beyFM:渡邉さんはサイエンスコミュニケーターとして活動されていますが、具体的にどのようなことをされているのか教えてください。

渡邉:おもに一般向けの科学書、本を書く仕事をしています。専門用語が多い科学の話を、親しみやすい文章に「翻訳」して伝える仕事で、専門家と一般の人の橋渡し役みたいな位置付けです。本を書く以外に、WebサイトやYouTube、実験のイベントなどもやっています。

 

beyFM:「地学博士のサイエンス教室 グラニット」というサイトも運営されています。このサイトはいつ頃、どんな目的で立ち上げたのでしょうか?

渡邉:サイトを立ち上げたのは2017年の7月で、ちょうど5年前。当時はフリースクールで中高生に理科を教えていたので、自分の学校の生徒だけでなくWebを通じて日本中の子どもたちに面白い科学の話を伝えたいと思って、サイトを立ち上げました。当時も今も基本的なスタンスは同じで、「美しい写真と専門家によるわかりやすい解説」がモットーです。

Webサイト「地学博士のサイエンス教室 グラニット

「地学博士のサイエンス教室 グラニット」バナー

 

beyFM:地学博士になろうと思ったのはどうしてですか? 子供の頃から、地質や地球科学に興味があったんですか?

渡邉:石は子どもの頃から好きでした。家族旅行に行くたびにきれいな石ころを家に持ち帰るので、兄からよく小言を言われていました。高校生になって惑星や宇宙に興味を持ち、大学進学の時に宇宙工学科を目指そうとしていたら、担任の先生に「惑星が好きなら地球惑星科学科というのもあるよ」と紹介され、興味を持ってそちらへの進学を決めました。

 

beyFM:大学在学中から、地球科学の研究をされていたそうですが、おもにどんな研究を?

渡邉:広島大学の「地球惑星システム学科」という学科に入学しましたが、結局、惑星の研究はしませんでした。大学で学ぶ中で、宇宙のことを調べる以前に、地球のこともまだまだよくわかっていないことに気づき、「足元の研究」、つまり岩石や鉱物の研究をしようと方向転換。

大学の卒業研究から大学院での研究まで、植物や微生物によって引き起こされる、岩石の風化現象について研究していました。具体的には、岩石の表面に地衣類(ちいるい)という苔みたいな生物がよくみられるのですが、この生物が分泌する液体によって、岩石中の鉱物が溶かされたり、あるいは一度溶けた後に別の鉱物ができたりすることが知られています。

私の専門は鉱物学だったので、地衣類の方ではなく、溶かされたり新たにできたりした鉱物の方に着目して、形態や性質を調べていました。石造文化財や建築物の保護につながる研究です。

 

beyFM:大学卒業後も、いろいろな研究機関に在籍され、研究を続けてこられたそうですが、
サイエンスコミュニケーターとして独立されたのは、どうしてなんですか?

渡邉:研究職が非常に大変で、そこから逃げ出したのがきっかけです。最初はフリースクールの教員として3年ほど働いて、とても充実した時間を過ごせたのですが、その学校が閉校になってしまったために、以前から興味のあった起業にチャレンジしました。しかしながら現実はそんなに甘くなく、設立した法人を1年目で解散することに。そんな折に著書の出版の話をいただき、サイエンスコミュニケーターとして、個人事業をスタートしました。

著書『ふしぎな鉱物図鑑』について


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beyFM:そんな渡邉さんが、先頃『ふしぎな鉱物図鑑』を出されました。写真が本当に美しく、こんなに色が豊富で多種多様な鉱物があるのに驚きました。この本の狙いは、どんなところにありますか?

渡邉:写真がきれいと言っていただけて嬉しいです。それが一番の狙いです。

本書が4冊目の著書になるのですが、4冊目にして初めて、文章だけでなく写真の撮影も自分で手がけることができ、写真の選定に思う存分こだわることができました。こちらの本に掲載されている鉱物標本は、大学時代の恩師である広島大学の北川隆司先生の鉱物コレクションで、一つ一つが本当に見事な標本です。標本が美しいからこそ、その中身である鉱物の話にも興味を持ってもらえるのではないかと思っています。

 

beyFM:鉱物のことはまったくの初心者です。なるべくわかりやすく教えてください。まず、鉱物とは? 岩や石とは違うんですか?

渡邉:鉱物とは、「自然界にある固体の物質で、地質作用によって作られたもの」と定義されます。ポイントは3つで、自然界にあって、固体で、地質作用によって作られた、です。

代表的なものは水晶。

水晶(石英)
<水晶(鉱物名:石英)>

 

自然界にあって、固体ですね。地質作用という言葉は意味がとても広くてわかりにくいのですが、水晶はマグマの熱や地下水が関係してできる物質なので、地質作用によって作られたものと言えます。

これに対し、例えば人工ダイヤモンドは自然界のものではないので、鉱物とは言えません。また、人間の歯や骨は生物作用によって作られたものなので、これらも鉱物ではありません。

「岩」、つまり岩石は、鉱物が集まったものです。代表的なものは花崗岩。

花崗岩
<花崗岩>

 

白っぽいごま塩模様の岩石であり、石英や長石といった白い鉱物と、黒雲母などの黒い鉱物が集まってできています。また、「石」は鉱物にも岩石にも使われる、より一般的な呼び名です。

 

beyFM:宝石としてお馴染みのダイヤモンドやルビー、そして金も鉱物なんですよね? 宝石になっている鉱物も多いですか?

渡邉:はい、鉱物です。宝石に利用されている鉱物は多く、代表的なものだけでも20種類以上あります。また、ルビーの鉱物名はコランダム、エメラルドの鉱物名は緑柱石など、宝石名と鉱物名が異なる場合もよくあります。

ダイヤモンド
<ダイヤモンド>

 

ルビー(コランダム)
<ルビー(鉱物名:コランダム)>

 

エメラルド(緑柱石)
<エメラルド(鉱物名:緑柱石)>

 

 

beyFM:鉱物は何種類くらいに分類されますか?

渡邉:大まかにいうと10種類くらいです。本書『ふしぎな鉱物図鑑』では、比較的マイナーなものも含めて、16種類に分類しています。

 

beyFM:その分類は、質の違いなんですか?

渡邉:成分の違いです。どんな元素でできているか。

 

beyFM:素朴な質問ですが、鉱物はどのようにして生まれるのでしょう?

渡邉:いろんなでき方があります。マグマが冷えて固まることで岩石中にできるもの、マグマに熱せられた高温の地下水が冷える時にできるもの、海や湖が蒸発するときにできるもの、すでにあった岩石が地下深くの高い圧力や温度にさらされることでできるもの。あと、ある鉱物が雨や空気に触れることで別の鉱物に変化する場合もあります。

 

beyFM:地質作用とは何ですか?

渡邉:地質作用とは、地球上の岩石が、作られたり、変化したり、破壊されたりする作用のことです。先ほど「鉱物のでき方」としていくつか挙げたものが、地質作用の具体例になります。

 

beyFM:鉱物が作られる時に必要な条件などは?

渡邉:鉱物が作られるときの条件としては、おもに温度、圧力、溶液の成分、の3つが関係しています。温度が下がることでできたり、圧力が高くなることで別の鉱物に変化したり、溶液の濃度が濃くなることでそれ以上溶けきれなくなって固体の鉱物ができたり。

 

beyFM:多彩で多種多様な鉱物がこの本には掲載されています。この色や形の違いを決定づけるものはなんでしょう?

玻璃長石(はりちょうせき)
<玻璃長石(はりちょうせき)>

 

輝安鉱(きあんこう)
<輝安鉱(きあんこう)>

 

渡邉:色の違いはおもに成分によります。

なお、鉱物ごとに典型的な色というのはあるのですが、しばしば同じ鉱物であっても様々な色を示すものがあります。これらの色は、ほんのわずかに含まれる不純物によって決まることが多いです。例えば、宝石のエメラルドは微量のクロムを含んで濃い緑色になった緑柱石なのですが、同じ緑柱石でも微量の鉄で水色になったものは宝石のアクアマリンになります。

形の方は、原子の並び方が関係しています。大部分の鉱物は規則正しく原子が並んだ構造をしていて、その目に見えないミクロな構造が、肉眼で見た時の鉱物の形にも強く影響しています。

日本の鉱物、鉱物研究について

beyFM:小学生か中学生の理科の時間に習った「石英(せきえい)」(水晶)や「雲母(うんも)」は鉱物の中ではポピュラーなものだと思います。でもこの本を見て、同じ石英、同じ雲母でも、こんなに種類があるのかと驚きました。その違いは何から来るのでしょう?

渡邉:石英の場合は、多様な姿であってもどれも同じ鉱物種ですので、成分にも、原子の並び方にも、違いはありません。不純物として微量に含まれる元素の影響、放射線の影響、結晶の中に入り込んだ細かい他の鉱物の影響で姿が変わる他、結晶の粒の大きさや、結晶ができた場所の環境の変化なども影響してきます。

雲母については、単一の鉱物ではなく鉱物グループの名称なので、成分や原子の並び方が少しずつ異なる多彩な雲母を、ひとまとめにして呼んでいることになります。

 

beyFM:日本で発見された鉱物は何種類ほど? 世界では何種?

日本で産出する鉱物は世界的に見ても多く、1300種以上。世界中で現在までに見つかっている鉱物は、およそ5700種です。世界では毎年100種以上の新鉱物が発表されているため、この数字は今も増え続けています。

 

beyFM:日本だけで採れる鉱物は?

渡邉:日本「だけで」採れる鉱物はそれほど多くありませんが、例えば千葉石(ちばせき)、逸見石(へんみせき)、糸魚川石(いといがわせき)などが知られています。

 

beyFM:世界的に鉱物研究が進んでいる国は? ちなみに鉱物研究の歴史は長いのでしょうか?

渡邉:進んでいるのはヨーロッパ各国です。ヨーロッパは鉱物研究の歴史が長い。

鉱物に関する最古の本は、紀元前四世紀から三世紀ごろに書かれた、テオフラストスの『石について』だと言われています。テオフラストスは古代ギリシャの哲学者・博物学者で、アリストテレスの弟子だそうです。

自然科学としての鉱物学が始まったのは、16世紀ごろのドイツ。その後、17世紀〜18世紀にかけては、デンマークの医者ニコラス・ステノ、フランスの鉱物学者ルネ=ジュスト・アウイが顕著な業績を残しました。アウイは鉱物学と結晶学の父と呼ばれ、2022年はアウイの没後200年にあたります。そのため「世界鉱物年」として、世界中で様々な鉱物イベントが行われています。

 

beyFM:新たに発見される鉱物もありますか?

渡邉:世界では毎年100種以上の新鉱物が発表されています。分析技術の向上により、微細な鉱物、希少な鉱物が発見されるようになりました。

 

beyFM:私たちの生活に必要不可欠な鉱物があったら教えてください。電子機器などに使用されている鉱物など。

渡邉:わかりやすいところで言うと、金属の資源になる鉱物です。赤鉄鉱は鉄の資源、黄銅鉱は銅の資源。電子機器などに使われる、いわゆる「レアメタル」の資源になる鉱物としては、リチウムの資源になるリチア輝石、バナジウムの資源になるバナジン鉛鉱、アンチモンの資源になる輝安鉱、などがあります。

その他、クロム鉄鉱はクロムの資源、ルチルはチタンの資源、輝水鉛鉱はモリブデンの資源など、資源になる鉱物はいっぱいあります。

 

beyFM:いま注目されている鉱物はありますか?

渡邉:福島の原発事故で放出されたセシウムによる土壌汚染に関連して、バーミキュライトという「粘土鉱物」の一種が注目されています。粘土鉱物とは、名前の通り「粘土」に多く含まれている鉱物で、水が加わることで粘り気が出ます。そして、雲母のようなペラペラとした層状の構造をしているので、そのペラペラとした構造の中にイオンや水分子などを取り込むことができます。

セシウムは特にバーミキュライトの構造の中に入りやすく、しかも、時間が経つにつれてしっかりと固定され、再度放出されることがなくなります。そのため、事故で大量に放出されたセシウムは、土壌中のバーミキュライトにくっついたまま地表に留まり、それ以上汚染が拡大しにくい傾向にあるのです。

実は、汚染土壌の除去が除染に効果的なのは、バーミキュライトがガッチリとセシウムを地表に留めておいてくれるからなのです。もしそうでなくて、セシウムが水に溶けやすいフリーな状態になっていると、作物や微生物に取り込まれて汚染が拡大することになります。

鉱物の魅力について

beyFM:この本の存在を知って、ひとりでも多くのかたに、鉱物の不思議な世界に触れて欲しいなと思いました。実際に鉱物に出会える場所はありますか?

渡邉:博物館、展示即売会(ミネラルショー)、川原・海岸、鉱山跡など、いろいろあります。大きな博物館では鉱物に関する企画展が開催されることも多いですし、常設展でも、「科学館」とか「自然史博物館」という名称の博物館では、鉱物の展示が見られます。

鉱物を購入したい場合、博物館のミュージアムショップにも売っていますが、本格的に買いたい人は展示即売会(ミネラルショー)がおすすめ。年に1回程度、大都市で開催されています。

自分で探したい人は、川原や海岸、鉱山跡などで拾うことができます。ただし、鉱山跡は危険な場所が多いので、行く時には一般の立ち入りが可能かどうか事前に調べてから行くようにしてください。また、国立公園、国定公園に指定されている場所では、鉱物や動植物の採取は禁止されています。ご注意ください。

 

beyFM:川原や海岸で見つかるものですか? 何かコツはありますか? 子供たちには、来年の夏休みの自由研究のテーマにしてほしいですね。

渡邉:岩石は鉱物の集まりでできているので、どこででも拾えます。拾った岩石に、何の鉱物が含まれているかを自分で調べてみるという研究がおすすめです。

その辺の石でも、名前がわかると途端に興味が湧いてきます。来年の夏休みの自由研究にするなら、まずは石ころやその中の鉱物について、名前を調べるところからチャレンジしてみてください。そして、石ころを拾っていると、割れ目の中などに、たまにきれいな結晶が見つかることがあります。水晶(石英)や方解石の結晶など。そういう経験は本当に楽しいものです。

 

beyFM:渡邉さんがいまいちばん注目している鉱物は? 謎を解き明かしたい鉱物とかありますか。

渡邉:(注目している鉱物というわけではないのですが)鉱物学や地質学が一般のビジネスにもっと貢献できる道はないか、ということにいつも関心があります。

研究開発や宝飾品の分野ではもちろん貢献しているのですが、その辺は大学や研究機関、宝石会社などがやるべき仕事です。私のようなサイエンスコミュニケーターとしては、研究開発ではなく、すでにある膨大な知見や技術を使って、一般のビジネスに貢献する道です。例えばSDGsとか、環境ビジネスとか、教育とか、健康器具あるいは美容用品とか。

鉱物学の研究までは必要ないけど、でも幅広く深い専門知識がないとできない、そんな分野を探して貢献していきたいと思っています。まだ具体的に「これ」といった鉱物名は挙げられないのですが。

あと、鉱物に関連したところで言うと、人工結晶の自作を突き詰めていきたいです。ビスマスとか、ビフォスファマイト(リン酸二水素アンモニウムの結晶)など。鉱物の美しさは、人工結晶でも楽しめますし、作る喜びがあるので、科学実験の一つとして教育にも貢献できます。人工結晶の美しさは、アートだと思います。

 

beyFM:最後に、渡邉さんが思う鉱物の魅力とはなんでしょう?

渡邉:生物と同じく、自然が創り出した傑作品であるという点です。整然とした秩序があり、美しいですよね。

いわゆる「エントロピーの法則」という物理法則によって、ものは放っておけば無秩序、乱雑な方向に進みます。だから、秩序あるものは、わざわざエネルギーをかけて創り出さなければできないわけです。鉱物もそうやって、自然がわざわざ創り出したものである、という点が神秘的で、一番の魅力だと思います。

beyFM:ありがとうございました。