アクアマリン(パキスタン産)
【アクアマリン】手前の六角柱の横幅:2.6cm/パキスタン産/個人蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

アクアマリンもエメラルドも同じ緑柱石

透き通る爽やかな水色をした宝石、アクアマリン。アクアは「水」、マリンは「海」を意味するラテン語で、見た目にぴったりの美しい名前です。3月の誕生石としても有名ですね。

「アクアマリン」は、緑柱石という鉱物のうち、特に水色で透明なものに付けられた呼び名です。そして、実は濃い緑色の宝石エメラルドも、鉱物としては同じく緑柱石。色は全然違いますが、どちらも同じ鉱物なのです。

色の違いはわずかに含まれる不純成分によるもので、水色のアクアマリンには鉄が、緑色のエメラルドにはクロムやバナジウムが、それぞれほんの少し含まれています。

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圧倒的人気のエメラルド

エメラルド(コロンビア産)
【エメラルド】中央の結晶の長さ:1.5cm/コロンビア・チボール鉱山産/国立科学博物館所蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

同じ緑柱石なのに、圧倒的に人気があるのは、やはりエメラルド。古代エジプトの女王クレオパトラが好んだと伝えられており、「宝石の女王」とも呼ばれています。

エメラルドの人気の秘密は、色の美しさだけが理由ではありません。アクアマリンに比べて透明で大きな結晶が産出しにくいため、宝石になるような美しいエメラルドは大変貴重なのです。

緑柱石のおもな成分の一つであるベリリウムは、地球の表面を形作っている岩石の中で、特別な場所にしか集まらない、ちょっと珍しい元素。このベリリウムに加えて、緑色の緑柱石ができるにはクロムやバナジウムが、水色の緑柱石ができるには鉄が必要になるわけです。

鉄はどこにでもある成分なので、あまり問題はありません。でも、クロムやバナジウムは、ベリリウムが集まりやすい岩石にはほとんど含まれていないため、両方の元素が出会って緑色の緑柱石が生まれるのは、本当に珍しく、奇跡的なことなのです。

他にもいろんな色の緑柱石がある

ヘリオドール(ウクライナ産)
【ヘリオドール】結晶の長さ:5.4cm/ウクライナ産/国立科学博物館所蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

緑柱石には、水色や緑色の他にも様々な色があります。どの色も透明な結晶は宝石として利用されていて、それぞれの呼び名(宝石名)は次のとおり。黄緑色や黄色がヘリオドール、ピンク色や紫色がモルガナイト、赤色がレッド・ベリル、無色がゴシェナイト。

これらの色の違いも、やはり不純成分の違いによります。ヘリオドールには鉄が、モルガナイトにはマンガンとセシウムが、レッド・ベリルにはマンガンがわずかに含まれていて、ゴシェナイトには不純成分が含まれていません。ヘリオドールもアクアマリンも、不純成分は同じく鉄ですが、含まれる量や原子の状態に少し違いがあります。

また、緑柱石の結晶は、名前の通り「柱」の形をしています。柱の断面、つまり横向きにおいてキュウリを切るように切った時の面(切り口)が、六角形になっているのが特徴。

六角形の柱といえば、水晶もそうですね。水晶では結晶の先が尖っているのに対し、緑柱石では普通、先が平らになっています。

鉱物の解説:緑柱石(りょくちゅうせき)

緑柱石(ロシア産)
【緑柱石(アクアマリン)】結晶の長さ:2.5cm/ロシア産/国立科学博物館所蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

緑柱石のおもな成分は、ベリリウム(Be)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、酸素(O)の4種類。ベリリウム以外の3つの元素は、地球の表面を構成する岩石の中にたくさん含まれています。一方、ベリリウムは特別な場所にしか集まらない珍しい元素で、そのため緑柱石は、ベリリウムの資源としても重要な鉱物です。

純粋な金属ベリリウムやその合金は、曲がりにくく、温度による体積の変化が少なく、金属としては軽い、という性質があります。この性質を利用して、例えばジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の巨大な鏡(天体からの赤外線を集める部分)などに使われています。

緑柱石のうち、エメラルドはおもに変成岩から、アクアマリンなどその他は火成岩(花崗岩や流紋岩)から見つかります。

鉱物データ「ベリル(緑柱石)」
ベリル(緑柱石)の鉱物学的特性

もっと知りたい人のためのオススメ本

この記事の内容は、当サイト管理人(渡邉克晃)の著書『へんな石図鑑』からの抜粋です。書籍版もぜひお楽しみください。

『へんな石図鑑』渡邉克晃(秀和システム、2024年)


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