灰簾石(チェコ産)
【灰簾石】標本の横幅:6.6cm/チェコ・モラヴィア地方 ニュードーフ産/国立科学博物館所蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

タンザニア産だけが特別扱い

灰簾石(かいれんせき)は、細長い結晶の集まりとして見つかることの多い鉱物です。灰簾石の「廉」は「すだれ」とも読み、窓の外に吊るして日よけに使うあのすだれに見立てて、このような名前が付けられました。

代表的な色は、地味な灰色。ただし、「灰簾石」の「灰」は見た目の色を表しているわけではなく、主成分であるカルシウムを表す漢字、「灰」に由来します。

灰簾石には、実は灰色以外にも、白色、緑色、ピンク色、黄褐色など様々な色のものが見つかっています。そして、細長い結晶の集まりとしてだけでなく、太くて透明な結晶として見つかることもしばしば。

そんな中、タンザニアで採れる灰簾石には美しい青紫色のものがあり、宝石として特別扱いされています。

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宝石「タンザナイト」として知られる青紫色の灰簾石

タンザナイト(タンザニア産)
【タンザナイト】標本の横幅:1.4cm/タンザニア・アルーシャ近郊産/国立科学博物館所蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

タンザニア産の青紫色の灰簾石には、「タンザナイト」という宝石名が付けられています。12月の誕生石にも選ばれている宝石で、写真の通り、サファイアのような深い色合いが印象的ですね。

タンザナイトの色はおおむね青紫色ですが、実は「多色性(たしきせい)」という特別な性質があり、見る角度によって青紫色が強くなったり、逆に弱くなったりします。

灰簾石の本来の色は無色透明。青紫色のほか、緑色やピンク色など様々な色があるのは、おもな成分以外に含まれる、わずかな不純成分が原因です。青紫色の灰簾石であるタンザナイトには、不純成分としてバナジウムが含まれています。

タンザナイトはタンザニアでしか見つかっておらず、貴重な宝石です。とはいえ、同じ青色系の宝石であるサファイアと比べると、大粒の宝石が手に入りやすいのは、やはりタンザナイトの方。色の美しさからサファイアの代わりになりそうですが、タンザナイトのモース硬度は6〜7であり、モース硬度9のサファイアよりもずっと傷がつきやすいため、注意が必要です。

キリマンジャロ山を望む東アフリカの国、タンザニア

タンザナイト(タンザニア産)
タンザナイトの多色性(たしきせい)。この角度から見た右側の面では、青紫色が弱くなっていることがわかります。【タンザナイト】標本の横幅:1.2cm/タンザニア・アルーシャ近郊産/国立科学博物館所蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

宝石名の「タンザナイト」は、「タンザニアの石」という意味です。灰簾石自体はヨーロッパ、北アメリカ、南アジアなど各地で産出するのですが、深い青紫色の灰簾石となると、タンザニアだけが唯一の産地です。

タンザニアは、アフリカ大陸の東部、赤道のすぐ南側に位置する国。タンザニアの北東部にはアフリカ大陸の最高峰、標高5,895mのキリマンジャロ山がそびえています。

タンザナイトが採れる場所
タンザナイトが採れるメレラニヒルズの場所(Googleマップに加筆)

タンザナイトが採れるのは、キリマンジャロ山のふもとから40kmほど離れたメレラニヒルズというところです。タンザニア産の灰簾石がすべて青紫色というわけではなく、タンザニアの中でも、タンザナイトが採れる場所はメレラニヒルズとその周辺に限られています。

ちなみに、ウガンダと国境を接する北部には、アフリカ大陸最大の湖であるビクトリア湖があります。カスピ海、スペリオル湖に次いで、世界でも第3位の広さを持つ湖です。そして、コンゴ民主共和国と国境を接する西部には、ロシアのバイカル湖に次いで世界第2位の深さを誇る、タンガニーカ湖があります。

鉱物の解説:灰簾石(かいれんせき)

アニョライト(タンザニア産)
【灰簾石(アニョライト)】標本の横幅:8.1cm/タンザニア産/国立科学博物館所蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

タンザニアで採れる灰簾石には、タンザナイトの他にもう一つ、特徴的な色を持ったものがあります。それは、写真のような明るい緑色をした灰簾石で、細かい結晶が集まった不透明な塊として産出します。緑色の原因は、不純成分としてわずかに含まれるクロム。

写真の中の赤紫色に見えている部分はルビー、黒っぽく見えているところ(とても暗い緑色の部分)は角閃石という鉱物です。緑色の灰簾石、ルビー、角閃石が一緒になったこの岩石は「アニョライト」と呼ばれ、変成岩の一種です。「緑」を意味するマサイ族の言葉から名付けられました。

アニョライトに含まれるルビーは、横幅が数cmにもなる大粒の結晶ですが、不透明なので宝石にはなりません。

鉱物データ「ゾイサイト(灰簾石)」
ゾイサイト(灰簾石)の鉱物学的特性

もっと知りたい人のためのオススメ本

この記事の内容は、当サイト管理人(渡邉克晃)の著書『へんな石図鑑』からの抜粋です。書籍版もぜひお楽しみください。

『へんな石図鑑』渡邉克晃(秀和システム、2024年)


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