宝石のはずなのに、なんで?
ジルコンといえば、12月の誕生石にも選ばれている、透明で美しい宝石。それなのに、この写真のジルコンは不透明で、輝きも鈍く、なんだかあまり美しい感じがしませんね……。ジルコンには実はこういう結晶がとても多いのですが、それには深いわけがあります。
ほとんどのジルコンの結晶には、放射性元素であるウランやトリウムが少し含まれていて、それらから出る放射線によって、徐々に結晶構造(原子の規則的な並び)が壊れていってしまうのです。そのため、長い年月のうちに透明感は失われ、輝きも鈍くなり、写真のような姿になってしまうというわけです。
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目に見えない小さな傷で、中身はけっこうボロボロ
ジルコンのおもな成分は、ジルコニウムとケイ素と酸素。本来はこれらの原子が規則正しく並んだ結晶になっていますが、放射線によってその並びが乱されてしまいます。
原子の並びが乱された場所は、結晶にとって傷のようなもの。原子というものすごく小さな世界で見れば、長い年月を経たジルコンの中は傷だらけで、かなりボロボロになっているのです。こうした目に見えない小さな傷がどんどん増えてしまうと、最終的には原子の並びにほとんど規則性が見られない状態(非晶質)になってしまいます。
このように、放射線の影響を長く受けたジルコンでは、結晶構造が壊れていってしまい、小さな傷がどんどん増え、透明感が失われ、輝きも鈍くなり、硬度がやや低下します。
しかし、非晶質になっても、もろくなって崩れたりすることなく、結晶の形を保っていることがあるのです。
本来の輝きはダイヤモンド並み
ダイヤモンドが美しいのは、ほかの宝石に比べて強い輝きを持っているからですが、実は宝石に利用されるジルコンにも、ダイヤモンド並みの輝きがあります。
鉱物の表面に見られる輝きやツヤは、「光沢(こうたく)」と呼ばれます。光沢は、硬度のように数値で表すことができないので、代表的な物質の見た目に置き換えて表します。例えば、「ダイヤモンド光沢」「ガラス光沢」「樹脂光沢」「脂肪光沢」「金属光沢」「真珠光沢」「絹糸(けんし)光沢」などです。
ジルコンの本来の輝きはダイヤモンド光沢です。これに対し、同じく透明な宝石であっても、ルビーやエメラルドはガラス光沢。輝きという点ではジルコンに劣るのです。
ところが、そんなジルコンも、放射線の影響を長く受けて輝きが失われると、ダイヤモンド光沢からガラス光沢へ、やがては脂肪光沢へと変わってしまいます。脂肪というのは、お肉の脂(あぶら)のこと。ダイヤモンドから脂肪になるなんて、残念な変化ですね。
鉱物の解説:ジルコン
無色透明の結晶がかつてダイヤモンドの代わりとして利用されていたほど、美しい輝きを持つ鉱物です。光を強く反射する性質に加えて、反射光が虹色にきらめくという性質も、ダイヤモンドとよく似ています。
本来の色は無色透明ですが、最も一般的に見られるのは褐色で、そのほかに黄色、オレンジ色、赤色、緑色などさまざまな色があります。別名「風信子石(ひやしんすせき)」とも呼ばれ、紫色やピンク色の結晶はヒヤシンスの花の色を連想させます。
ダイヤモンドの代わりとして、現在人気があるのはキュービックジルコニア。こちらは人工的に作られた結晶で、おもな成分はジルコニウムと酸素です。名前が似ていて混同されがちですが、ジルコンとは成分が異なります。
もっと知りたい人のためのオススメ本
この記事の内容は、当サイト管理人(渡邉克晃)の著書『へんな石図鑑』からの抜粋です。書籍版もぜひお楽しみください。
『へんな石図鑑』渡邉克晃(秀和システム、2024年)