碧玉(新潟県産)
【碧玉】標本の横幅:23.9cm/新潟県 佐渡市産/フォッサマグナミュージアム所蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

青くないのに「碧」玉

「紺碧(こんぺき)の海」といえば、やや黒みを帯びた青い海。「碧空(へきくう)」は、青く晴れた空。

「碧」という漢字には、このように「深い青色」という意味がありますので、「碧玉(へきぎょく)」という名前から想像されるのは、青い宝石ではないでしょうか。

ところが、典型的な碧玉の色は、鮮やかな赤色なのです。岩石の「チャート」や「泥岩」にも赤い色のものがありますが、碧玉の赤色はもっと鮮やかで深く、その差は明らか。

赤色はまさに碧玉の最大の特徴であり、「碧玉といえば赤」といっても、決して言い過ぎではありません。なぜこんなにも、名前と実際の色が釣り合わないのでしょうか。

▼▼▼動画で見る▼▼▼

名前の元になった青緑色の碧玉

碧玉(島根県産、玉造石)
【碧玉(玉造石)】標本の横幅:7.4cm/島根県 松江市 玉湯町 玉造産/国立科学博物館所蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

実は、碧玉には赤色以外の色もあって、元々は名前と実際の色がちゃんと釣り合っていました。「碧玉」という名前の由来になったのは、写真のような青緑色の碧玉です。島根県松江市玉湯町の玉造(たまつくり)が産地として有名で、「玉造石(たまつくりいし)」とも呼ばれます。

碧玉は、とても細かい石英の粒の集まりでできています。その石英の粒の隙間に、別の鉱物の細かい粒が混じっているため、不透明でさまざまな色がついています。

「玉髄(ぎょくずい)」も、同じように石英の細かい粒の集まりですが、碧玉と比べて石英の粒がより密に集まっているので、隙間が少なく、半透明なのが特徴です。

碧玉の色は、赤色、青緑色、黄土色のおもに3種類に分けられ、それぞれ混じっている鉱物の種類が異なります。青緑色の碧玉に混じっている鉱物としては、「緑泥石(りょくでいせき)」が代表的。緑泥石のおもな成分はマグネシウム、鉄、アルミニウム、ケイ素などで、名前の通り緑色の泥(粘土質の塊)として見つかることが多い鉱物です。

赤色や黄土色はさびた鉄の色

碧玉(青森県産)
【碧玉(黄土色)】標本の横幅:10.6cm/青森県 北津軽郡 中泊町 小泊 青岩産/国立科学博物館所蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

碧玉の典型的な色である赤色は、おもに「赤鉄鉱(せきてっこう)」という鉱物によるもの。赤鉄鉱は鉄と酸素でできた鉱物で、物質としては鉄さびに含まれる赤い粉と同じものです。

また、黄土色の碧玉には、おもに「針鉄鉱(しんてっこう)」の粒が混じっています。針鉄鉱も赤鉄鉱とよく似た鉱物で、やはり鉄さびに同じ物質が含まれていますが、針鉄鉱にあたるのは黄土色の粉です。おもな成分は、鉄と酸素と水素。

鉄がさびるときの様子を少し詳しく説明すると、例えば雨にぬれた鉄の表面では、鉄、水、空気中の酸素が化学反応を起こして、針鉄鉱と同じ物質である「水酸化鉄」ができます。その後、時間が経つと水酸化鉄から水分子相当の水素と酸素が抜けて、こんどは赤鉄鉱と同じ物質である「酸化鉄」へと変わります。

鉄は自然界に豊富にある元素なので、天然の水酸化鉄および酸化鉄である針鉄鉱と赤鉄鉱も、あちこちにあります。それらが碧玉に含まれることで、鮮やかな色を作り出しているのです。

鉱物の解説:石英(せきえい)[碧玉(へきぎょく)]

碧玉(新潟県産)
【石英(碧玉)】標本の横幅:11.0cm/新潟県 佐渡市 羽茂産/国立科学博物館所蔵(出典:『へんな石図鑑』秀和システム)

碧玉の英語名は「ジャスパー」。

半透明の「玉髄(ぎょくずい)」、縞模様のある「瑪瑙(めのう)」と同じく、碧玉も細かい石英の集合体です。ですので、鉱物としては石英。石英の粒の隙間で光が乱反射するため不透明に見え、また、その隙間に入り込んでいる別の鉱物の細かい粒(赤鉄鉱など)によって、赤色や黄土色に着色します。混じっている別の鉱物の量は、多いものでは全体の重さの20%ほどにもなります。

赤色の碧玉が特にたくさん見られる場所は、「縞状鉄鉱層(しまじょうてっこうそう)」と呼ばれる巨大な鉄鉱石の地層です。この地層は、カナダ、アメリカ、ブラジル、オーストラリアなど、世界各地に分布していて、赤色の碧玉と黒っぽい色の赤鉄鉱が重なり合って、縞模様を作っています。

※赤鉄鉱が赤色なのは粉になったときだけで、結晶の粒が大きいときの色は、黒や灰色です。

鉱物データ「クォーツ(石英)」
クォーツ(石英)の鉱物学的特性

もっと知りたい人のためのオススメ本

この記事の内容は、当サイト管理人(渡邉克晃)の著書『へんな石図鑑』からの抜粋です。書籍版もぜひお楽しみください。

『へんな石図鑑』渡邉克晃(秀和システム、2024年)


Amazon | 楽天ブックス