トルコでトルコ石は採れない
12月の誕生石にも選ばれている空色の宝石、トルコ石。名前に「トルコ」と付いているくらいですから、トルコでたくさん採れる宝石なのかと思いきや、まったくそんなことはありません。実はトルコやその近くでは、昔から今までトルコ石が採れたことは一度もないのです。
ではどうしてこんな名前がついたかというと、名前をつけたのが17世紀かそれ以前のヨーロッパ人で、彼らにとってこの宝石は、トルコからヨーロッパに持ち込まれたものだったからです。トルコ石の学名「ターコイズ」は、「トルコの」という意味のフランス語「チュルクワーズ」が元になっています。
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イランとエジプトがおもな産地
その昔、トルコを通ってヨーロッパに持ち込まれたトルコ石は、ペルシャ(現在のイラン)や、エジプトのシナイ半島で採れたものだったと考えられています。
トルコという国は、アジアとヨーロッパのちょうど境界に位置していて、アジアからヨーロッパに行くには、必ずトルコを通ることになります。上の地図を見ると、西アジアのイランからトルコへ、そしてトルコからヨーロッパへと、トルコ石のたどった道のりが何となく想像できますね。
また、エジプトのシナイ半島というのは、紅海と地中海の間にある逆三角形のような形の半島です。ここで採れたトルコ石も、地中海に沿って北へと運ばれたあと、やはりトルコからヨーロッパへと持ち込まれたのでしょう。ヨーロッパ人にとって、トルコはアジア側の「玄関」なのです。
なお、現在のイランの一部やシナイ半島は、17世紀のオスマン帝国(通称オスマントルコ)の勢力範囲だったので、それが「トルコ石」の由来であるという説もあります。いずれにしても、現在のトルコをトルコ石の産地とするのは、誤解です。
トルコ石の産地としてはアメリカや中国も有名ですが、硬度や色の点で、現在でもイランのトルコ石が世界一のクオリティです。
5000年前から愛されてきたターコイズブルー
トルコ石は、人類が最も古くからアクセサリーとして使ってきた宝石の一つです。その歴史は、5000年前の古代エジプトにまでさかのぼります。
トルコ石が貴重な石とされてきたのは、鮮やかな、独特の美しい空色のためです。「ターコイズブルー」と呼ばれるこの色は、明るい青色にほんの少し緑を混ぜたような色。
トルコ石のおもな成分は、銅、アルミニウム、リンなどで、このうちの銅が、空色の原因になっています。「おもな成分」の一つが色の原因であるため、トルコ石には色の種類があまりありません。ほぼ空色だけで、そのほかにはもう少し緑色が強い青(青緑色)があるくらいです。
ほかの宝石を見てみると、おもな成分ではなく、わずかに含まれる不純成分が色の原因になっていることがしばしばあります。そういう場合は色の種類が多く、例えば、緑柱石には緑色のエメラルドのほか、水色、ピンク色、黄緑色など、多くの色があります。
鉱物の解説:トルコ石(とるこいし)
銅(Cu)、アルミニウム(Al)、リン(P)、酸素(O)、水素(H)をおもな成分とし、水酸化物イオンと水分子を併せ持つ鉱物で、独特の青色(空色)は銅によるものです。
トルコ石の典型的な色は青色ですが、青緑色のものもよく見られます。実は、トルコ石には不純成分としてわずかに鉄が含まれていて、鉄の量が多くなると青緑色が強くなります。トルコ石の空色をターコイズブルーと呼ぶのに対し、青緑色はターコイズグリーンと呼ばれています。
トルコ石は細かい結晶の集合体として見つかるのが普通で、一つ一つの結晶の粒は小さすぎて目に見えません。この塊を磨くことで、美しい宝石に加工します。
モース硬度は5〜6。宝石としては軟らかく、オパールやラピスラズリと同じくらいです。
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